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学長室から:大学案内

学長対談

対談 大変革時代の大学の責務

「総合コミュニケーション科学」の視点から社会が抱える様々な課題に対し果敢にチャレンジを行う電気通信大学。今回は、大変革時代の大学の責務について、光和総合法律事務所弁護士・本学経営協議会委員 竹岡八重子氏に伺いました。

《社会実装を意識した”総合コミュニケーション科学”》

福田喬学長と竹岡八重子氏

福田喬学長(以下、福田学長):初めに、現在の社会環境に関する趨勢を切り口にお話しさせていただければと思います。第5期科学技術基本計画(案)の中で、「非連続なイノベーションを生み出す研究開発」、「新しい価値やサービスが次々と創出される「超スマート社会」の実現(Society5.0)」というキーワードが出てきます。そして、その具現化には基盤技術、人材、それらを支える知の基盤が重要であるとあります。この基盤技術の具体例として、ロボット、センサ、バイオ、ナノテク、材料、光・量子といった、新たな価値創出のコアとなる強みを有する技術が挙がっています。

中野和司理事(以下、中野理事):本学の専門分野とぴったりですね。

福田学長:この実現には、人材力をさらに強化する必要があり、知の基盤というものをおろそかにしてはいけないという文脈だろうと思います。この大変革時代に国立大学法人の担う責務は何かということを、本日のテーマとさせていただきます。

竹岡八重子氏(以下、竹岡氏):この科学時術基本計画(案)を読んだ時に、私は電気通信大学が「総合コミュニケーション科学」を旗印として打ち出してきたものの重要性に、ようやく国が気がつき、この計画に盛り込まれたなと思ったくらいです。

福田学長:ありがとうございます。

竹岡八重子氏

竹岡氏:私は文系の法律家なものですから、コミュニケーションという言葉は文系の専売特許だと思っていました。しかし、電気通信大学が掲げる「総合コミュニケーション科学」とは何だろうと考えると、それは基本的に電気通信大学がされている情報通信やエレクトロニクス系の科学技術について、社会への実装を非常に強く意識しているキーワードだと理解できたんです。

つまり、かつてコミュニケーションと科学技術は別物として存在していて、科学技術は社会から見れば、産業的な(あるいは軍事的な)技術開発の手段として捉えられていました。ですが、総合コミュニケーション科学という概念ではそうではく、科学技術を社会と一体としてあるもの、あるいは社会のコミュニケーションを進化させていくものと捉えています。非常に強く社会を意識した概念だと理解しています。

日本は学部の分け方や入試制度など伝統的に文系と理系という区別が多いのですが、それ自体が時代に合わなくなっていますね。

福田学長:そうなんです。

竹岡氏:人文系は人間を対象とする探究の分野ですよね。かたや理工系も情報通信・エレクトロニクス系を中心に、総体として科学的手法の水準が上がり、認知科学や人工知能など多様な研究領域で、人間そのものを科学的手法で解明できる可能性が出てきましたね。そうすると、既に今まで人文系の専門領域とされていたものが、理系との協働になってくる時代に突入しているのだと思います。

福田学長:科学技術は非常に進歩してきましたが、一方方向の見方しかしていなかったのではないでしょうか。コミュニケーションとは本来的に相互作用でないといけない。本学は、その相互作用を状況判断の中に埋め込んだ形での科学技術を担うべきですね。人と人との相互コミュニケーションだけではない。人と物、人と自然との間の相互のコミュニケーションに、本当の価値や新しい方向性が生まれると思います。

お言葉の通り、人文系と理工系を分けるのはおかしくて、それぞれが立脚した専門性を維持したうえで協働し、新しい価値を生み出すことがこれからの社会では必要不可決だと考えています。そこを私たちは総合コミュニケーション科学として捉えています。

竹岡氏:総合コミュニケーション科学の基盤は実はもともと電気通信大学の中にあったと思うんですね。例えば科学研究費補助金の獲得状況を見ると、本当にコアな電気通信分野だけではなくて、その外の融合領域まで果敢に研究領域を広げていますね。そのようなベースがあって、総合コミュニケーション科学という理念がちゃんと生きているんだなと思っています。

福田学長:ありがとうございます。

《ASEANの若者を含めた人材流動性を作り出したい》

中野和司理事

中野理事:情報理工学域を3つの類に分けて、その真ん中にあたるⅡ類を融合系としたのはまさに良いタイミングでしたね。

竹岡氏:そう思います。

福田学長:本学の研究者が自分の領域のみならず、その外の領域まで動き出していると判断したんです。そこをもう少し顕在化させて、教育研究の核の一つとして育てる必要があるだろうと。それで、三つの類の真ん中を融合系としました。

福田学長:本学は小さな大学ですが、9つの研究センターを有しています。ただ、今までの研究センターはどちらかというと学術基礎研究が中心でした。私はそれも大事だと思いますが、やはり総合コミュニケーション科学という概念の下に教育研究を行うからには、社会に対し発する価値をそのミッションの中に埋め込んだ構造体が必要だと思っています。

平成27年1月に、i-パワードエネルギー・システム研究センターを設立しました。この研究センターはソリューションそのものをターゲットにしています。これは本学にとっては初めてのことだと思います。学内外から適した人材を得る事ができましたし、今年、来年、再来年には目指す形が出来上がってくると思います。私は、学術基礎研究は重要だと思います。ただ、それを踏まえた上で社会にソリューションを発するようなある構造体をこれからも作らないといけないと考えています。

中野理事:分野的な特色もそうですが、今回は、各専攻が協働してセンターを立ち上げました。学長がおっしゃる社会実装という意味では、各専攻が協働しないと出来ないことなんです。初めての経験でしたね。

竹岡氏:電気通信大学がガバナンスのレベルで、梶谷前学長の時から取り組んできたことが目に見える形で現れてきているんだと思います。梶谷前学長が学術院を設置して、教員組織を変えましたね。そして、福田学長が次の段階として、学部の改組を行ったことで、基本的に教員が狭い専門領域の中で安住できないような環境を人為的に作られました。これがやはり電気通信大学の、ガバメントの面で進んでいた点だと思います。

福田学長:ある種の方向性ができたかもしれません。

竹岡氏:理念の実現には組織が非常に大事ですよね。理念があっても組織のあり方が旧態依然だと、結局、動きが出てこない。それを敢えて従来型の、ともすれば狭い専門領域のたこつぼになりかねない組織の壁を取り払う方向に継続的に変えていることで、自らの専門領域を持ちつつ他の領域の研究者と協同しやすい組織になってきているのではないかと思います。

福田学長:ありがとうございます。今はまだ組織の構造を作った段階で、それに魂を入れるのはまだまだこれからだと思っております。

もう一つお話ししたいのは、国際戦略についてです。第5期科学技術基本計画では世界に向けての視野が非常に重要視されていて、例えば国際共同研究のように、日本が世界の上に出て引っ張っていけるような立場になるべきだという事柄が書かれています。これは本学にとっても非常に難しい問題で、来年度早々に、国際戦略企画を行う学長直結の室を作って全体をコントロールしたいと思っています。本学には今までこれに当たる組織がありませんでした。

中野理事:今は本当に小さな組織体しかなくて、なかなか身動きが取れなかったというのが現状です。幾つかの必要な部署を集めて、学長の意思がすぐに通るような組織体を4月1日付けで作りたいと思っています。

福田学長:それでも本学は教員個人によるリレーションを基盤として海外五十数大学と提携していますが、これを大学の教育研究ミッションとリンクさせた形の戦略を作らないといけないと考えています。日本の国際的な立ち位置を維持する上で、本学が取るべき国際戦略の一番の対象はASEANだと思っています。本学では、情報通信やメカトロといった分野での共同研究が多く、その対象は大企業はもちろんですが、多摩地域の中小企業が特に多いです。

多摩地域の中小企業を見ると、グローバルニッチの特性を持つ企業の多くが海外に出て行こうとしています。そして、今後の企業活動のベースとなる人材について考えると、やはり外国人を引き入れる必要があるでしょう。本学の教育研究と企業の求める人材をうまくリンクさせ、ASEANの若者を含めた人材流動を作り出すことが、本学の国際戦略の柱のひとつになり得るのではないかと考えています。

竹岡氏:中小企業はもちろんのこと、ぜひ大企業とも。世界の中でもASEANに一番先駆けて進出しているのは、大企業・中小企業を問わず日本企業だと思うんです。特にITを使ったサービス業が著しく進出しています。中小企業はもちろんのこと大企業も含め、この分野の人材育成と、グローバル人材の育成とは、はまさに現在の日本企業の課題ですから、電気通信大学が非常に貢献できるところだと思います。

《”将来の人材育成”が国立大学法人のミッション》

福田学長:第3期からは運営費交付金の配分方法を変更し、国立大学法人の運営費交付金依存度を半分以下にするという話が出ています。そういった場合、国立大学が持つ役割や、それをこれまで発揮してきた事実をどのように主張すればいいだろうかというのが非常に重要な問題になっています。何かお考えはございますか。

竹岡氏:国にとって研究や教育への支出は、コストではなく将来への投資として、必要な支出として捉えるべきだと思います。何の為に国立大学があるのかというと、基本的には将来投資のため、将来の人材育成と研究に必要な部分を担うのがミッションでしょう。未来への投資という視点では、財政審の議論は発想が逆ではないかと思います。将来18歳人口が減少した時は、少ない若年層が多くの老年層を養わないといけません。これは日本にとって非常にシリアスな課題なんです。その少ない若年層が多くの老年層を養う為には、若年層が多くの付加価値を生み出さないといけません。多くの付加価値を生み出すような人材をたくさん育成して、また研究成果が社会に還元され、社会実装されていくことで、企業が利益を出し、日本がたくさん投資を呼び込めるようにしていかなければならない。その為には大学・大学院の教育と研究がものすごく大事なはずなんです。国立大学への支出は、少ない数で多くの人を養わなければいけないミッションを持った若い人たちを教育するために、また、付加価値が高い製品とサービスを提供し利益を上げ続けていく基盤となる、最先端の研究開発のために、必須の将来投資なんですね。ですから、私は逆に国立大学への予算を増やしても良いと思うくらいです。

財政審の発想は逆、つまり、必要な将来投資であるということを全く捨象して非常に皮相な議論をしているんじゃないかと。ですから、あの議論でいくと、日本は縮小再生産しかありえないですよ。やはり自分の子供の世代、さらにその下の世代には頑張ってもらって、日本の社会を活力のあるものにしていかないといけません。

福田学長:確かに労働人口は減少していますね。この人手不足問題を解くには、人手から人材という視点を持つことだと思います。どのように人材を生み出すかという事が重要だと思います。解はもうそれしかなくて、色々なイノベーションを発せられる、色々な価値を創造することができる能力を持った人を作ることが、これからの高等教育機関の役割ではないでしょうか。大学が見るべき時間スケールというものを考えた時、ずっと遠くだけを見ていられれば楽ですが、やはり近くも見ないといけません。ただ、逆に近くを見ただけの議論で理工系大学を扱ってほしくない。もちろん近くを見ないといけないという認識はありますが、それだけではなく、その先も見通した行動を取れるような環境にしてほしいと思います。

竹岡氏:やはり今の国立大学に対する議論はあまりにも近視眼的で、将来投資、必要な投資という観点がどこもすっぽり抜け落ちているのではないでしょうか。

少子化が進行すると、人材の絶対数が減少しますから、その分付加価値やイノベーションを生み出す人材を育てないといけません。この物凄く重要なミッションを電気通信大学は担っていると思います。

話は少しずれますが、日本は理工系より社会科学系が弱いと私は思っています。要するに、社会の本質的な課題からグランドデザインを構想していく。そしてそのグランドデザインからソリューションを考える。あるいはソリューションからグランドデザインを組み立てていく、という機能が日本は弱いのではないか。本来は社会科学系の研究分野がそこを担っているんですが、社会科学は「科学」なのですが、データにより実証される「科学」に成りきれていない弱さがある。始めの話に戻りますが、総合コミュニケーション科学の理念通り、電気通信大学の通信や情報の分野の色々なリソースや技術を提供して、社会科学系の研究をより実証的に前進させていくことができる。一方で社会科学系の方からまた社会的な課題をもらうということが必要になってきています。そういう意味でも国立大学への投資は理工系も、社会科学系も、本当に社会のこれからの発展に必要不可欠なものだと思います。

福田学長:本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

対談者紹介

竹岡 八重子
国立大学法人電気通信大学経営協議会委員
光和総合法律事務所 弁護士
経 歴
1982年 東京大学法学部卒業
1985年 弁護士登録
2005年から2011年 総合科学技術会議 知的財産戦略専門調査会委員
2006年から 中小企業政策審議会委員
2008年から 国立大学法人電気通信大学経営協議会委員
2009年から2011年 科学技術・学術審議会委員
2011年から2012年 産業構造審議会委員
2015年から 三菱自動車工業株式会社監査役
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