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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】原子力発電所の安全性向上につながる液滴飛散現象の解明

2021年10月18日

ポイント

  • ・スプラッシュ現象における飛散液滴の総量とサイズ分布の評価手法を飛躍的に高度化
  • ・高速炉ナトリウム火災や軽水炉シビアアクシデントの事故進展の予測精度向上に貢献
  • ・化学プラントでの気液分離効率向上や河川排水口でのエアロゾル発生量予測にも利用可能

概要

大川富雄教授(機械知能システム学専攻)らの研究グループは、液体の噴流が固体面に衝突した時に生じるスプラッシュ(液滴飛散)現象[1]において、液滴の総量とサイズ分布を高精度に評価する手法を世界で初めて開発しました。スプラッシュは、原子力発電所における事故進展や化学プラントにおける気液分離[2]性能に加え、河川に設けられた排水口におけるエアロゾル[3]の発生等でも中心的な役割を果たす重要かつ基礎的な流体現象です。本現象を理解することで、原子力発電所の安全性や化学プラントの性能、ウイルスの拡散とも関連するエアロゾルの発生量等をより正確に予測できるようになります。これらの工業プラントの性能向上につながるほか、エアロゾル発生量を低減するための方策もより効率的に検討できるようになります。
一例として、冷却材として液体ナトリウムを使用する高速炉[4]では、軽水を用いる通常の原子炉(軽水炉[5])に比べて、高温かつ低圧でシステムを組むことができます。しかしながら、ナトリウムは化学的に高活性であるため、漏えいすると燃焼を生じてナトリウム火災を引き起こす恐れがあります。ナトリウム燃焼は液体ナトリウムの表面で生じる化学反応であり、スプラッシュによって液体ナトリウムの表面積が増大すると、これに応じてナトリウム火災も激しくなります。このため、高速炉におけるナトリウム火災の事故進展を正確に予測するには、漏えいした液体の噴流が床や天井などの構造物に衝突した際に生じるスプラッシュ液滴の総量やサイズを把握する必要があります。
研究グループは、液体噴流が固体面に衝突する際のスプラッシュの発生メカニズムを、詳細な可視化実験によって実験的に調べました。その結果、衝突時における噴流の流動状態と関連づけることで、飛散液滴の総量とサイズ分布の予測精度が飛躍的に向上することが分かりました。
本研究は、日本原子力研究開発機構と共同で行い、その成果は国際学術誌「Experimental Thermal and Fluid Science」に掲載されました。 また、千代田化工建設(株)と共同で気液二相噴流に関する研究も別途実施しており、液体噴流に関する研究成果を化学プラントにおける気液分離性能の向上に展開する試みも行っています。

論文情報

  • 雑誌名:「Experimental Thermal and Fluid Science」
  • 論文タイトル:Droplet generation during spray impact onto a downward-facing solid surface
  • 著者:Yi Zhan, Guofu Sun, Tomio Okawa, Mitsuhiro Aoyagi, Takashi Takata
  • DOI番号:10.1016/j.expthermflusci.2021.110402

用語説明

  • [1]スプラッシュ(液滴飛散)現象:ミルククラウンのように液滴と液膜が衝突したときに液滴が飛散する現象
  • [2]気液分離:気体と液体の混合物を、遠心力などを使って気体と液体に分離すること
  • [3]エアロゾル:気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子
  • [4]高速炉:高速中性子により核分裂を生じる原子炉で、運転中に燃料を生産できる
  • [5]軽水炉:冷却材として軽水を用いる最も一般的な原子炉
液体噴流の流動状況と液滴飛散の激しさの関係

液体噴流の流動状況と液滴飛散の激しさの関係

詳細は下記PDFをご覧ください。