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研究者情報:研究・産学連携

ユニーク&エキサイティング研究探訪
【No.19】 2012年11月 掲載
次世代太陽電池の光電変換メカニズムを探る

光から複数の電子・正孔対が生まれる過程を詳細に観測

沈 青 助教
情報理工学研究科 先進理工学専攻

情報理工学研究科先進理工学専攻の沈青助教らの共同研究グループは、次世代の超高効率太陽電池として期待される「量子ドット太陽電池」が太陽光を吸収して複数の電子・正孔対を発生させる様子を初めて詳細に観測しました。量子ドット太陽電池の効率を高める手掛かりとなる研究成果です。なお共同研究グループには、先進理工学専攻の豊田太郎特命教授、中央大学理工学部の片山建二教授、科学技術振興機構(JST)の澤田嗣郎博士らが参加しています。本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)の一環として実施されています。

太陽電池とは何か

太陽電池とは、太陽光のエネルギーを電気のエネルギー(電力)に変換する発電デバイスです。太陽電池の材料にはふつう、半導体が使われます。半導体が光を吸収すると、マイナスの電荷を持つ電子と、プラスの電荷を持つ正孔(せいこう)のペア(対)が発生します。この電子・正孔対を外部に取り出すことで、電池として利用できます。腕時計や卓上電子計算機(電卓)などの比較的小さな電力を取り出す用途に太陽電池は普及しています。また最近では、地球温暖化問題やエネルギー資源問題などから、オフィスや工場、住宅などの電力を賄う電力用太陽光発電に注目が集まっています。太陽光エネルギーは無尽蔵で安全であり、環境に優しいエネルギーだからです。

このため最近では、ビルディングの壁面や屋上、工場や住宅の屋根などで太陽電池パネル(数多くの太陽電池を収納した、板状のモジュール)を目にする機会が増えてきました。これらの太陽電池が、電力用太陽電池です。より多くの太陽光エネルギーを有効に活用する動きが、あちこちで活発になっています。

太陽電池開発の現状

太陽電池の世代

私たちが良く目にする太陽電池パネルは、太陽電池の世代では「第1世代」と呼ばれるものです。材料はシリコンで、マイコンやメモリなどの半導体チップと同じ材料です。シリコンは比較的安価な材料なのですが、太陽電池のように面積を拡大することで大きな電力を得ようとする用途では、面積と材料コストがほぼ比例するため、既存の発電方式に比べると発電コストが高くなってしまいます。

そこで開発が活発になっているのが、「第2世代」と呼ばれる色素増感型の太陽電池です。酸化チタンの電極に色素を吸着させることで太陽光を吸収する太陽電池で、シリコン太陽電池よりも材料コストが低いという特長を備えています。

第3世代太陽電池への期待

太陽電池の性能を示す代表的な数値に「変換効率」があります。第1世代と第2世代の太陽電池の変換効率は理論値で28%です。言い換えると、太陽光エネルギーの72%は電力エネルギーとならずに、捨てられているということです。

この捨てられるエネルギーを少しでも減らすために、変換効率が理論値で40%以上と高い太陽電池が研究されています。これが次世代太陽電池、具体的には「第3世代」と呼ばれる太陽電池です。「量子ドット太陽電池」も「第3世代」の太陽電池です。従来の太陽電池よりもはるかに高い変換効率を理論的に実現できる太陽電池として、研究開発が活発になってきました。

量子ドットと太陽電池応用

ところで「量子ドット」とは何でしょうか。量子ドットとは、直径が数nm(ナノメートル:100万分の1ミリ)の半導体の球あるいは立方体のような3次元構造に電子を閉じ込めた構造を指します。厳密にはマイナスの電荷を持つ電子と、プラスの電荷を持つ正孔(せいこう)の両方のキャリアを閉じ込められる、微細な3次元構造になります。

量子ドットを太陽電池に応用したときの利点
量子ドットにおける多重励起子生成(MEG)の模式図

量子ドットには、通常の金属や絶縁物、半導体などと違った性質があります。ここでは太陽電池応用に関連した特長を説明します。まず、同じ材料の量子ドットでも、その大きさによって光を吸収する領域(波長領域)が変化します。現在の太陽電池に使われているシリコンは大きさによらず、光を吸収する波長領域は一定です。言い換えると、太陽光は波長の広がりを持っているのですが、シリコンではその一部の波長領域の光だけを吸収していることになります。これに対して量子ドットでは、大きさを変えることによって太陽光のすべての波長の光を吸収して電力に変換できる可能性があります。

次に、1個の光の粒(光子)から、二つ以上の電子・正孔対を生成できることです。高いエネルギーを持った光子から、まず高いエネルギー状態の電子・正孔対が生じ、次にこの電子・正孔対が低い状態のエネルギーに移行する過程で、放出されたエネルギーが別の電子・正孔対を生成します。これを「多重励起子生成(MEG:Multi Exciton Generation)」と呼びます。シリコン太陽電池では、高いエネルギーを持った光子を吸収しても、1個の電子・正孔対を発生させるのに必要なエネルギーを差し引いた余りは、熱となって逃げてしまいます。

さらに、量子ドットは化学的な手法によって製造できるので、製造コストがシリコン太陽電池に比べると低くなるという特長があります。

これらの特長の中で沈助教らの共同研究グループは、「多重励起子生成(MEG)」に着目しました。この現象を利用した量子ドット太陽電池の変換効率は、理論的には44%以上と非常に高い値に達するからです。

多重励起子生成(MEG)の過程を初めて観測

多重励起子生成(MEG)を利用した太陽電池開発の課題は、MEGの発生から完了までの過程がきわめて短い時間内に起こるということです。MEGは数ps(ピコ秒:1,000億分の1秒)オーダーの時間内で発現するので、これまでの測定手法では直接、MEGの発現する様子を測定することができませんでした。MEG発現以降の観測結果から、MEGの発現を推定するといった状況でした。

量子ドットに光を照射したときにMEGが発現する様子

そこで沈助教らの研究グループは、1ps未満の時間分解能を備えるMEGの測定方法を考案し、量子ドットにおいてMEGが発現する様子を観測することに初めて成功しました。この測定方法を使い、エネルギーの大きさを変えて光を量子ドットに照射したところ、高いエネルギーの光を照射したときにだけ、MEGの発現を示す信号が現れました。MEGの発現を示す信号は光照射開始のわずか200fs後に発生しはじめ、2ps~3ps後にMEGの発生が完了しました。そして数十ps後には生成された多数の電子・正孔対は消滅し、1個の電子・正孔対だけが存在する状態になりました。

量子ドットには鉛の硫化物である硫化鉛(PbS)を使いました。MEGの発現には、量子ドットのバンドギャップ・エネルギーの2.7倍のエネルギー(hν)を有する光が必要でした。光エネルギーがバンドギャップ・エネルギーの2.7倍未満ではMEGを示す信号は現れず、2.7倍以上になるとMEGを示す信号ピークが現れ、さらに光エネルギーを高めるとMEGの信号強度が大きくなりました。なお量子ドットの大きさは3nmから5nm、バンドギャップ・エネルギーは0.86eVから1.25eVです。

量子ドット太陽電池の開発を加速

大きな可能性を秘めた量子ドット太陽電池ですが、現在のところ、既存の太陽電池を超えるような変換効率は実現できていません。およそ4%から5%と低い値にとどまっています。ただし、数年前にはわずか1%しかなかったことから考えると、変換効率は急速に上がってきたともいえます。

MEGを利用できれば、量子ドット太陽電池の変換効率は飛躍的に高まるでしょう。そのためにはMEGの発現メカニズムの解明がきわめて重要です。沈助教らの研究成果は、MEGの発現メカニズムの解明と量子ドット太陽電池の効率向上に今後、大きく寄与すると期待されます。

(取材・文:広報センター 福田 昭)

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