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研究者情報:研究・産学連携

ユニーク&エキサイティング研究探訪
【No.29】 2013年9月 掲載
人間の五感を詳細に定量化し、より良い製品の開発を支援する

「オノマトペ」(擬音語・擬態語)が表す感性情報を活用

坂本 真樹 准教授
情報理工学研究科 総合情報学専攻

坂本 真樹 准教授

情報理工学研究科 総合情報学専攻の坂本真樹准教授を中心とする研究グループは、「オノマトペ」と呼ばれる言葉を利用して人間の五感(感性)を細かく定量化することに成功しました。感性を定量化することで、製品開発において顧客の感性に関する情報を数値化し、きめ細かく制御できるようになりました。化粧品や建築、デザイン、医療などの広い分野で応用が強く期待されている研究成果です。

「オノマトペ」とは何か

「オノマトペ」とは何でしょうか。人間の話し言葉(口語)には、音を模擬した擬音語と、音以外の感覚(視覚や触覚、嗅覚、味覚)を模擬した擬態語が数多く含まれています。擬音語には「ガンガン」(打撃音)や「ドカーン」(爆発音)、擬態語には「きらきら」(光る様子)、「つるつる」(手触り)、「ツーン」(匂い)、「さくさく」(歯ごたえ)といった例があります。これらの擬音語と擬態語を総称して「オノマトペ」と呼んでいます。

感性を定量化する

SD法による感性の定量化

消費者向けの製品開発では、ものの触り心地や材質感などの人間の感性を評価することが一般的に実施されていました。感性の評価に標準的に実施されていた手法の1つが、「SD(Semantic Differential)法」と呼ばれている方法です。SD法では感性の強弱や対比などの度合いを5段階や7段階などの段階に分け、該当する度合いを被験者に回答してもらいます。例えば、「かたさ」を評価するときは、「かたい」と対になる形容詞「やわらかい」を使用して両者の言葉の間を段階的に回答してもらいます。7段階評価では「非常にかたい」を「マイナス3」、「どちらともいえない」を「ゼロ」、「非常にやわらかい」を「プラス3」と定量化します。

しかし日常生活において私たちは、SD法のように感性を評価している訳ではありません。例えばかたい物であれば「ゴツゴツしている」と言ったり、やわらかい物であれば「フワフワしている」と言ったりします。短い言葉で直感的に表現することが多いのです。この例で述べた「ゴツゴツ」と「フワフワ」は始めに説明した「オノマトペ」です。すなわち日常生活で私たちは、数多くのオノマトペを使って自分の感じたことを他者に説明しています。

これに対してSD法の尺度に使う形容詞句と段階は、実験者が作成したものです。このため、被験者が感じたことを実験者の作った「物差し」に当てはめることになります。ここにSD法の制約があります。

オノマトペで印象を定量的に予測する

「べたべた」というオノマトペの印象を推定した結果。「不快」、「うっとうしい」、「粘つく」といった印象が強く出ている
「さらさら」というオノマトペの印象を推定した結果。「乾いた」、「軽快な」、「滑る」といった印象が強く出ている

オノマトペが質感(触覚や視覚など)を表現していることは、良く知られています。ここで坂本准教授らの研究グループは、オノマトペが持っている情報を、体系化し、さらに、定量化することに成功しました。

そして一定数のオノマトペに対して私たちが持つ印象を被験者から集め、集めたデータを統計的に処理することで音と意味の結びつきを特定し、被験者実験で調査していない新しいオノマトペの印象も推定できるシステムを構築しました。あるオノマトペを入力すると、オノマトペが与える印象を定量化して推定してくれます。システムの推定値を実験で確かめたところ、非常に高い精度で実測値と一致していました。

開発したシステムは、43対と非常に多様な形容詞で印象を推定してくれます。この43対の形容詞(例えば「明るい-暗い」や「暖かい-冷たい」など)は、触覚と視覚(色彩)の分野で使用頻度の高い共通の尺度から選んだものです。

例えば「べたべた」というオノマトペからは、「不快」や「うっとうしい」、「粘つく」といった印象を受けるとシステムは推定しています。また例えば「さらさら」というオノマトペからは、「乾いた」や「軽快な」、「滑る」といった印象を与えるという結果を得ました。

模造金属の評価にオノマトペを応用

オノマトペを利用して質感を定量的に評価する手法を、実際の製品開発に応用した事例が、「模造金属」の開発です。模造金属は、金属よりも安価で軽い材料(合成樹脂)を使って金属と同様の質感を得ようとするもの。金属に質感を近づけるため、表面に加工を施していることが少なくありません。しかし、ある企業では、模造金属の質感を金属に思うように近づけることができず、坂本研究室に相談を持ちかけてきました。

そこで坂本研究室では、同じデザインの表面加工を施した金属の板と模造金属の板を被験者に見せ、質感をオノマトペで表現してもらう実験を実施しました。その結果、そもそも出てくるオノマトペの数に差があることが分かりました。本物の金属板の方が、数多くのオノマトペを得られるのです。さらにオノマトペそのものに違いがあるという結果を得ました。例えば金属の板は「ざらざら」しており、模造金属の板は「つるつる」していると人が感じているといった違いが現れました。そこで模造金属では表面加工の深さを大きくしたり、つやを消したりすることで、質感を金属に近づけることができました。

オノマトペで患者の症状を定量化

医療分野への応用では、オノマトペを問診の支援に利用する研究を進めています。患者が症状を訴える言葉には、オノマトペが含まれていることが少なくありません。例えば頭痛では「ずきずき」、咽喉痛では「ひりひり」などの表現で患者さんは症状を説明します。

ところが、痛みの強さは定量化しやすいのですが、痛みの質は定量化しにくいという課題がありました。そこで坂本准教授らの研究グループは医療機関と共同で、オノマトペで表現した痛みの質を定量化するシステムを開発しました。

痛みの質は、「強い-弱い」のほかに、「鋭い-鈍い」、「重い-軽い」、「広い-狭い」、「深い-浅い」などの形容詞対で定量化しています。形容詞対を日本語だけでなく、英語やフランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語などに翻訳すれば、海外で医療機関を受診したときに症状を訴えるときの重要な支援ツールとなり得ます。

このようにオノマトペはとても興味深い性質を持っており、いろいろな応用が考えられており、すでに一部は実用化されています。様々な形で私たちの生活に役立つシステムの登場が、今後も期待できそうです。

(取材・文:広報センター 福田 昭)

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