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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
宮嵜 研究室

地球・宇宙規模から分子スケールまで幅広く渦の神秘に迫る
スポーツ流体力学も研究

所属 大学院情報理工学研究科
知能機械工学専攻
メンバー 宮嵜 武 教授
所属学会 日本物理学会、日本機械学会、日本流体力学会、日本応用数理学会
研究室HP http://www.miyazaki.mce.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

宮嵜 武
Takeshi MIYAZAKI
キーワード

渦運動、環境流体力学、地球規模、乱流、スポーツ流体力学、流体力学、渦、液滴、混合、数値シミュレーション、カオス、ラグラジアンカオス、PSP(感圧塗料)、クヌーセンポンプ、ラジオメーター、低圧気体、クーロン相互作用、環境問題

研究概要

幅広い分野の渦を研究

流体の渦は、地球・宇宙規模からマイクロスケールに至るまで、さまざまな分野で多くの事象を生み出す原因となる。
当研究室では、あらゆる流体運動に伴う物質・エネルギーの輸送現象を、理論・数値シミュレーション・実験によって研究している。流体の渦の研究は、ユニークなスポーツ流体力学にも発展している。

地球規模の渦

まず、地球環境問題に関連して、大気や海洋中の渦の解析が研究室の大きなテーマの一つとなっている。渦の大きさが地球規模になると、自転や安定密度成層(下層が低温、上層が高温で安定)の影響で鉛直方向の運動が妨げられ、普通の状態よりも渦構造が安定化し寿命が長くなる傾向がある。例えば、大気中の渦は寿命が1週間くらいだが、海中で発生する中規模(直径約100㎞)の渦は、2~3年にもなる。当研究室では、これらの渦が形成され維持される仕組みを統計力学的観点から調べている。多数の渦が混在する系では、系のエントロピーが一番高い状態が最も安定な状態であると考え、その理論を検証している。この研究で気候変動について、より正確に予測できるようになればと考えている。

マイクロスケールの渦

微小なものでは、液滴(2㎜くらいの液体の粒)の表面張力による振動現象で引き起こされる内部流動の結果としてみられる混合現象について、実験と理論により調べている。表面張力波を作って液滴内部を混合するためには、複数の振動モードがなければ混合現象は起こらない。つまり、流体粒子の軌道をラグランジアンカオスにして、物質の移動をカオス的にすることが必要だ。
これが実現できれば、医薬品業界などの製造工程で、小さな粒状液滴の中を非接触で混ぜることができ、応用範囲は非常に幅広いと言える。
さらに微細なスケールでは、マイクロメートル(μm)サイズの流体現象について調べている。気体の場合、マイクロスケールの世界では、流体を分子の集まりとして見る必要がある。このサイズになると、マクロでは見られない現象が起こるが、マイクロスケールの世界の気体の振る舞いは、低圧のそれと似ている。マイクロスケールの世界では、分子の平均自由行程(衝突までの分子の飛距離)が大きくて分子の衝突が起こりにくい低圧の場合と、同様の現象が現れるのだ。これらの共通点に着目し、実験や数値シミュレーションで互いを補いつつ、両方の研究を進めている。

スポーツ流体力学

例えば、野球のピッチャーが投げる変化球は、球の回転にばかり目が行きがちだが、実は球が作り出す空気の振る舞い方、つまり流体現象が重要な点となっている。具体的には、硬式野球のボールの縫い目の向きや回転方向がボールのまわりの気流の変化を生み出し(渦が剥がれたり、逆にスムーズな流れになったり)、魔球になったりするのだ。
このように野球のボールをとりまく流体現象と渦との関係を研究して、野球の変化球の仕組みを解明する試みも行っている。さらに、卓球やアーチェリーなどの他のスポーツでも、各々の競技と渦の関連を調べている。

アドバンテージ

流体力学を通して出会ったさまざまな人たちとの幅広い人脈・共同研究

JAXAでの磁力支持天秤装置付風洞実験風景

研究対象のスケールの幅広さが、当研究室の特徴である。先述したように、宇宙・地球規模からマイクロスケールまで幅広い分野の渦について研究していることから、応用分野が非常に広い。そのおかげでいろいろな方々と共同研究を行い、幅広い人脈を持つことができた。
国立環境研究所、東京大学海洋研究所、 理化学研究所など、日本流体力学会所属のさまざまな人たちと交流を持っている。東北大学流体科学研究所やJAXA(宇宙航空研究開発機構)などとも共同研究を行っており、関係する研究施設も利用させてもらうことができた。例えば「矢の空力特性─境界層遷移に対する先端形状の影響─」(ながれ29(2010)、 287-296)などの研究成果となっている。

スポーツ流体力学の実験測定に風洞、ビデオ撮影

磁力支持天秤装置付風洞内部

現在のおもしろい研究「アーチェリーの矢についての調査」は、国立スポーツ科学センターとの共同研究だ。これはアーチェリーの矢が飛行中にどれくらいの空気力(抗力、揚力、モーメント)を受けているかの実験で、測定には風洞を使う。一般的な風洞では矢を支える部分自体が空気抵抗を受けるので、実験精度が大きく低下してしまう。そこで、JAXAの磁力支持天秤装置付風洞(測定物の中に永久磁石を入れ、周りに磁場を発生させ、浮かせた状態で風を吹かせる風洞装置)を使用させてもらい測定を行った。
しかしそれだけでは不十分なので、実際に矢を飛ばして、飛んでいる矢の減速過程を高速度ビデオカメラで撮影する実験を行った。その結果、風洞実験とほぼ同じ結果が得られたものの、両者には若干の差が生じていた。これにより、飛んでいる矢は射ったときに振動現象が起こり、風洞実験時以上の抵抗を受けている可能性があることが判明した。矢のシャフトのそばで起こる流れ(境界層)が、層流であるか乱流であるかによる違いだと考えられる。これらを踏まえて、矢じり(ポイント)や矢羽をどのように工夫したらよりよい飛行結果を得られるかを算出することが最終的な目的だ。
このスポーツ流体力学を、オリンピック選手やアスリートの強化練習・支援に利用したい。

分子動力学専用計算機
GRAPE-DR

国立スポーツ科学センターでの実射実験

数値計算のために分子動力学の専用計算機GRAPE-DRを導入していることも、流体力学の研究室では珍しい。分子がクーロン力で相互作用している場合、分子数が増えると分子動力学のシミュレーションはとたんに複雑になってくる。そのシミュレーションを効率よく行う計算機がGRAPE-DRだ。渦の相互作用はクーロンの相互作用と似ていることから、複雑な渦の計算にこのGRAPE-DRを活用している。

今後の展開

まったく新しい圧力計測手法の開発

今後の重要課題として、JAXAと共同研究しているPSP(感圧塗料)を使った新しい圧力計測手法を完成させたいと考えている。PSPを使った新しい手法を使えば、物体表面に塗るだけで簡単に、その物体にかかる圧力がわかるようになる。
この手法は、PSPに励起光を当てて化学物質からの発光量を調べる。これはPSPが周辺の酸素濃度によって発光量が変わる特性を活かしたものだ。つまり、物体にPSPを塗って光を当てるだけで、物体に加わっている圧力分布が瞬時にわかるのだ。
この手法が確立されれば、今まで不可能だったさまざまな場面での圧力測定が可能になる。この手法をできるだけ早く確立することが、今後の大きな目標だ。

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