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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
平野 研究室

「光の関わる生体機能」から学ぶ、光機能分子科学の開拓

所属 大学院情報理工学研究科
先進理工学専攻
メンバー 平野 誉 教授
所属学会 日本化学会、光化学協会、有機合成化学協会、アメリカ化学会、アメリカ光生物学会
研究室HP http://www.firefly.pc.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

平野 誉
Takashi HIRANO
キーワード

生物発光、化学発光、蛍光、超分子、バイオイメージング、バイオセンサー、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、発光材料、光化学反応、有機合成、分子エレクトロニクス、ルミネッセンス化学

研究概要

生物発光や光合成など、光が関わる優れた生体機能を研究

ホタルやウミホタルなど自ら発光する生物の発光物質が注目され、医療やバイオなどの分野では、これらの発光物質を標識試薬として利用する応用例が増えている。これに伴い、応用を支える発光生物が光る仕組みにも注目が集まっているが、まだ解明されていない発光原理や反応メカニズムが数多く存在する。
当研究室は、光化学の専門を活かして「“光が関わる生体機能”から学ぶ、光機能分子科学の開拓」を目指し、化学を基盤としたさまざまな研究を行っている。
まずホタルやウミホタル、オワンクラゲなどの「生物発光」に学び、生体由来の発光物質の化学基盤を固めている。この研究成果を、生命活動を可視化するバイオイメージング技術に利用できる標識試薬の創製や発光分子材料の開発に活かす取り組みを行っている。
ついで植物の「光合成」に学び、超分子化学と触媒化学を取り入れたグリーンな光化学反応を開拓する新たな研究にも着手し始めた。
光科学の分野の中でも、生物が光を発する(光る)際の反応と、光を受けた(光合成する)際の反応の両方に着眼する点に特徴を持つ研究室だ。

ホタル発光体の励起状態を追究し、光る仕組みを分子レベルで解明

電気通信大学の光化学研究室では、長年、生物発光の高効率性、発光色制御、反応制御、超分子構築の特徴を追究して、多くの研究成果を積み上げてきた。ホタル、ウミホタル、オワンクラゲなどの発光生物が光を発するために使っている物質について、どのようにすれば効率よく光るか、色の種類をどれだけ大きく変えられるか、反応を速くできるかなどについて、光る化学反応の仕組みを精密に研究している。ここでは、分子内の電子の状態と性質をきちんと理解しながら化学構造とその反応性を関連付けて、発光に適した分子骨格・励起状態の生成メカニズム・励起分子からの発光プロセスなどを分子レベルで解明し、その理論と知見を基に新たな分子を組み立てる先端的基礎研究を行っている。
物質(分子)は一般に基底状態(安定な状態)で存在する。基底状態の物質に光を当てる(エネルギーを与える)と励起状態(電子のエネルギーが高い状態)になり、再び基底状態へ戻る際に光を放出する。ホタルの発光反応の場合、発光酵素(ルシフェラーゼ)の制御の下で、発光物質(ルシフェリン)と酸素の化学反応エネルギーを使って励起状態のホタル発光体(オキシルシフェリン)を生成して発光する。この反応は複数のステップを踏んで進み、効率良く光を生成することが知られている。各反応ステップが効率良く光るための役割を持つことに注目し、それぞれの仕組みを地道に探究してきた。

アドバンテージ

生物発光の多くの新事実を見出し、原理を解明

ホタル発光体に基づくマルチカラー蛍光色素

当研究室では、生物発光の原理に基づいて分子設計の理論を構築することに主眼を置き、数多くの知見を得てきた。この発光の仕組みに関する理論と知見を使って、生物発光の特性を活かしたさまざまな光機能材料(発光色素、蛍光色素など)を開発する研究プロジェクトを推進し、新物質を生み出す研究と応用技術に最適化する分子改良を行っている。
特にウミホタルの発光については反応機構の原理を世界的に一番詳しく理解していて、その応用に結び付けている。例えば、ウミホタルの発光に関わるルシフェリンの誘導体を使って活性酸素を検出する分析方法が既に利用されている。ただ、これはウミホタルのルシフェリンの簡単な誘導体が活性酸素に触れると光るという特性を活かしただけだった。

当研究室は、その発光物質の分子構造の優れた特徴、効率良く光るための活性化学種の分解過程やルシフェラーゼ(発光酵素)の働き、効率良く光を出すための励起状態の性質といった反応メカニズムの知見を活かして、新しい高性能誘導体の開発に結びつけている。
このように発光物質の研究には、分子の励起状態の性質を理解することが必要だ。実験的に分子の励起状態をきちんと理解し、計算化学も併用して技術開発や研究を進めていることが、当研究室のアドバンテージだ。

発光の色や強さを変え、多色発光させる研究

光機能物質の有機合成

当研究室では、生物発光の反応メカニズムに関して実験に裏打ちされた事実を見出し、これを応用して、金属や溶剤の種類によって色が変わる物質をつくり、センサー試薬の開発につなげることができた。これは天然の物質ならではの面白い性質を活かしたものだ。
また、ホタルの仲間でブラジルに生息する鉄道虫は、頭が赤く光り、体が緑もしくは黄色に光る。この鉄道虫の発光は同一の発光物質が同じ反応をして、発光酵素が少し違うだけで違う色に光っていることが知られていた。

当研究室の研究で、発光中心であるオキシルシフェリン(発光体)をいろいろな条件で発光させる実験を繰り返し、1つの発光物質だけで緑から赤までの発光の色と強さを変えられることを世界で初めて実証した。

今後の展開

共同研究で光機能分子科学の先端技術開発をバックアップ

今後は、生物発光全体の反応メカニズムや励起状態の生成プロセスをうまく使い、多くの分野に応用することが重要になってくる。そのために、当研究室ではその理論や原理を確かなものにし、基礎的な側面から先端技術をバックアップしていきたい。既に、最先端のナノテクノロジーや生命活動を可視化するバイオイメージング技術、環境科学の技術開発のための光化学基盤の確立・応用やセンサー試薬の創製、発光分子素子用の材料開発に向けた、基礎研究を展開している。
ここでは、生物発光の特性に基づく光機能分子科学分野の開拓を目指し、有機発光ダイオード(OLED)に使える蛍光色素、発光性ゼオライト材料など、さまざまな特徴を持った光る物質をつくり出したいと考えている。
当研究室の知見と研究成果は発光が活かせるさまざまな材料に応用が可能なことから、目的に合った光る物質を使いたい、特定の物質を検出する発光・蛍光・発色試薬を作りたいというご要望には、共同研究で新しい光機能性の試薬・材料の開発に協力できる。

人工光合成の新たな方法論を構築し、人類のために役立つものを

生物の光機能に基づく技術開発

もう1つの研究の柱である受光(光反応)については、植物の光合成を模倣した反応の開拓研究を進めたいと考えている。光合成は周知のように、光を受けて二酸化炭素から炭水化物を合成し、光エネルギーを化学エネルギーに変換している。また、大気中の二酸化炭素の削減にも貢献するであろう。
平野自身、光合成の素晴らしさに魅せられて有機光化学を学んできたことから、人工光合成の研究に意欲的だ。開始した研究では、昔ながらの光化学の手法に現代的なエッセンスを加えて、新しい研究シードを探索している。専門とする有機光化学に、超分子化学と触媒化学を取り入れた研究を進め、環境科学を支えるグリーン光化学の技術開発研究に貢献することを目指している。光を使って、これからも人類のために役に立つものづくりを進めたい。

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