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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
結城 研究室

モノが壊れるときの叫びを聴くアコースティック・エミッションと、
技術者教育のコンピュータ支援ツールが二大テーマ

所属 大学院情報理工学研究科
知能機械工学専攻
メンバー 結城 宏信 准教授
所属学会 日本機械学会、日本非破壊検査協会、日本設計工学会、精密工学会、日本e-Learning学会
研究室HP http://www.ds.mce.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

結城 宏信
Hironobu YUKI
キーワード

アコースティック・エミッション、非破壊検査、光ファイバセンサ、波形解析、教育支援システム、技術者教育、機械設計、製図

モノが壊れるとき音が生まれる

図1 アコースティック・エミッション(AE)の概要。
図2 アコースティック・エミッション(AE)の計測から分かること。傷の発生を検知するとともに、発生原因を突き止めたり、発生した位置を求めたりできる。

何かが割れたり、ヒビが入ったりすると、たいていは音が聞こえてきます。例えば割り箸を折ると「ボキッ」という音がします。シャープペンシルの芯が折れると「パキッ」という音が聞こえてきます。
このように物体(固体)の急激な変化によって音が放出される現象を「アコースティック・エミッション(AE:Acoustic Emission)」と呼びます(図1)。これは専門的に言うと、物体に蓄えられていたひずみエネルギーがき裂の発生などによって解放され、その一部が弾性波(一種の音波)に変換されて周囲に放出される現象です。放出される弾性波を「AE波」と呼びます。AEは物体が壊れるときの叫び声とも言えます。結城研究室では、このAEに関する研究を手がけています。
AEを計測すると、どんなことが分かるのでしょうか(図2)。まず、状態変化の検知です。AEを計測するセンサで常時、物体の状態を監視すれば、AEの原因となる何らかの変化を検知できます。それから、AE波の波形を解析することで、発生原因である変化の種類を突き止められます。さらに、複数のセンサでAEを計測していれば、検知時刻の違いから、変化の起こった場所(AE波の発生源の位置)が分かります。

シャープペンシルの「芯」がAEの擬似的な音源

結城研究室が行っている研究の一つに、光ファイバを使ったAEセンサの開発があります。センサに電気が流れないので、まわりにある機械のノイズに強く、水の中でも使えます。ただ、開発を進めていると、ある問題にぶつかります。それは物体が「いつ」AEを発生するか、あらかじめ分からないことです。そこでセンサの性能を調べるときは、本物のAEの発生を待つかわりに、それとよく似たAEを発生する擬似的な音源を利用します。
最も手軽な音源は、身近に存在しています。それはシャープペンシルの「芯」です。シャープペンシルの芯は人間がわずかに力を加えるだけで折れ、き裂の発生時とよく似たAEが計測できます。
また小さな鋼球(例えばパチンコ球)を落下させてAEを発生させる方法が使われることもあります。

AE波の捉え始めを見つける

AEの発生時刻が予測できないということは、計測信号の中からAEを捉えている部分を見つける必要がある、ということを意味します。AEを計測するセンサの出力信号は、AEが発生していないときは微小な雑音(バックグラウンドノイズ)に対応したものだけです。AEが発生し、それをセンサが検知すると、出力信号は大きく変化し始めることになります。
AEの波形を解析するにあたっては、AE波を捉え始めた時刻を決めなければなりません。この時刻を決める最も確かな方法は、熟練者が出力波形を見て判断することです。しかし目視による判断は効率が悪く、慣れないと大きなばらつきがあります。このばらつきが解析の結果に影響を与えることは、好ましくありません。
そこで結城研究室では、コンピュータでAEの検知時刻を見つける方法を研究しています。コンピュータで検知時刻を見つける方法そのものは従来から存在していました。しかし、パラメータの設定が煩雑であったり、複雑な計算が必要であったりといった問題がありました。そこで雑音データを基準としたパターン認識によってAE波の検知時刻を見つける、簡便で使い勝手の良い方法を考案しています。

技術系の能動的な学習をコンピュータで支援

ところで、結城研究室はこれまで述べてきた「アコースティック・エミッション」以外に、もう一つ、大きな研究テーマに取り組んでいます。それは「教育支援システム」に関する研究です(図3)。技術系の教育では、知識を修得するとともに、技能を習得することが求められます(図4)。知識の修得をコンピュータで支援することは、教科書の文章や図などをマルチメディア化することで実現できます。しかし技能の習得には、単なるマルチメディア化だけではなく、能動的な学習を支援する仕組みが必要となります。
技術系の教育といっても扱うべき内容は数多くあります。結城研究室が取り組んでいるのは、機械設計教育の支援と製図教育の支援です。
機械設計の力を身に付ける上で大切なことの一つは、機械の動きを正しくイメージできることです。しかし最近は、理工系学部の学生であっても、実際にモノを作った経験のないことが珍しくありません。動くモノを作った経験がないと、図や数式だけで機械の動きをイメージすることは簡単ではありません。一番よい解決策は実験実習の機会を増やし、機械について多くの体験をしてもらうことです。しかしそれには、人員的にも時間的にも多大なリソースを必要とするという問題があります。
そこで結城研究室では、学生がコンピュータ上に機械のモデルを構築し、動作を確認できるシミュレーションシステムを開発中です。このシミュレーションシステムでは、歯車や軸などの機械要素がブロックとして用意されていて、学生はブロックを組み合わせることで機械の設計を進めていきます(図5)。そして組み上げた機械の動作をアニメーションで確認することで、理解を深められます。
一方、製図能力を身に付ける最初の段階では、今も昔も手書きが譲れません。そこでは、均一な濃さの線をシャープペンシルで引くことが求められます。ここで注目したのが、線を引くときにシャープペンの芯は摩耗し、それによってAEが発生するということです。書く線が濃いときは単位時間当たりの摩耗が大きく、AE波の振幅も大きくなります。この線を引くときに生じるAEを計測することで、線の濃淡を評価することを試みています。
大学教育の現場が置かれている環境は以前とは様相が変わってきたことは否めません。教育の質の低下を防ぐためには、こういった教育支援システムが鍵の一つになると結城さんは考えています。
【取材・文=福田昭】

図3 結城研究室の研究テーマ。アコースティック・エミッション(AE)に関する研究と、設計・製図教育支援システムに関する研究が二大テーマである。
図4 技術系の学習における特徴。知識の修得と技能の習得が求められる。
図5 機械設計の学習用シミュレーションシステム。シミュレーションの画面例。左は機械要素ブロックの操作パネル。右上と右下は組み上げた機械システムの例。
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