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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
牧 研究室

ホタルの発光機構をモデルにした光イメージング用材料の開発と実用化

所属 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻
メンバー 牧 昌次郎 准教授
所属学会 日本癌学会、分子生物学会、電気化学会、日本化学会、米国電気化学会、有機電子移動化学研究会
研究室HP http://www.firefly.pc.uec.ac.jp/
メールアドレス s-maki@uec.ac.jp
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掲載情報は2019年9月現在

牧 昌次郎
Shojiro MAKI
キーワード

ホタル、生物発光、生体内可視化、発光基質、人工材料、長波長、光イメージング、がん、再生医療、実用化

研究概要

近年、再生医療の研究が活発に進められていますが、再生医療の実用化には、標的とする臓器などを可視化する画像診断技術が不可欠です。細胞を生きたまま、ダメージを与えずに可視化する非侵襲の画像診断法としては、現在も陽電子放射断層撮影(PET)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの手法がありますが、これらは広い範囲を撮像するため、例えば1個のがん細胞など生体内の狭い領域をピンポイントで可視化したり、細胞を精密に区別して可視化したりといった用途には向いていません。
一方、光を使った光イメージングは、精度が高いため標的とする細胞や臓器を選択的に可視化でき、また特別な施設を必要としないことから、基礎研究では広く用いられてきました。光イメージングには蛍光イメージングと発光イメージングがあり、明るく簡便に可視化できる蛍光イメージングが現在の主流です。ただ、蛍光色素を使った蛍光イメージングには照射光が必要で、現在は5ミリメートル程度の深さが可視化の限界です。そのため、マウスの臓器でも適用が難しいのが現状です。

深さ5センチまで可視化

天然北米産ホタルの発光酵素と人工合成による発光基質でRGB(赤緑青)の三原色発光を世界で初めて実現

こうした事情を考慮し、牧昌次郎准教授は波長約560ナノメートルの天然ホタルの発光機構をモデルにした、発光イメージング用の新しい標識材料を開発しました。従来の発光イメージングは、生体内で吸収・散乱されやすい可視光を標識材料として使っていましたが、牧准教授は人工合成した近赤外領域の光を使うことにより、吸収や散乱を抑えて生体組織に対する透過性を高めました。

一般に、肺や脳など血流量の多い部位を可視化するには、「生体の窓」と呼ばれる、生体を透過しやすい近赤外の光(波長650ナノメートル以上)が必要です。従来材料は、波長が約617ナノメートルで可視化できる深さは2センチメートル程度でしたが、牧准教授が開発した材料は、波長が675ナノメートルで約5センチメートルの深部まで可視化できるため、生体深部のがん細胞などを追跡しながら観察できます。
ホタルは発光基質(ホタルルシフェリン)と発光酵素(ホタルルシフェラーゼ)が反応して発光します。牧准教授が創製した標識材料(人工発光基質)「アカルミネ」は、ホタルルシフェラーゼと化学反応して近赤外の光を発します。天然のホタルルシフェリンと比べてイメージング(画像化)の感度は約6倍で、市販材料としては現在、世界最長波長です。

水溶性や中性も可能に

これに続いて、水に溶けにくかったアカルミネの課題を解決し、波長は変えずに水溶性を付与した材料「TokeOni(トケオニ)」も開発しました。ホタルルシフェリンに比べると、水溶性能は約400倍です。生体に投与する際の濃度を自在に調整できるため、より使いやすくなりました。 最近では、中性で投与できるように改良した新材料「seMpai(センパイ)」の市販も始めました。アカルミネは体内に投与すると水溶性に、トケオニは酸性に傾いてしまうことから、実験によっては扱いにくいという問題がありました。牧准教授は「動物実験を行う研究機関であるユーザーの声に一つひとつ答えていくことが研究の原動力になっている」と言います。

iPS細胞の計測も視野

開発した標識材料はがん細胞などに導入し、実際にマウスの肺や肝臓、脳などの深部に移植してイメージングを行い、その有効性を確認しています。例えば、肺がん転移モデルマウスによる実験では、従来材料の約50倍の感度で可視化できることを示しました。マウスやラットだけでなく、ヒトとマウスの中間モデル動物であるミニブタやマーモセットなどでもその性能を確かめています。
将来、再生医療が身近になれば、医療は臓器を「治療する」のではなく、「交換する」ような形へと変わるでしょう。牧准教授が開発した標識材料を使った発光イメージングでは、再生医療の切り札とされるiPS細胞(人工多能性幹細胞)も正確に計測できると期待されています。

日本での市販化難しく

ホタルルシフェリンとホタルルシフェラーゼの反応

アカルミネ、トケオニ、センパイの各材料は現在、黒金化成(名古屋市中区)が製造し、アカルミネは富士フイルム和光純薬、トケオニとセンパイは米シグマアルドリッチ(独メルク子会社)がそれぞれ日本および海外で販売しています。日本のメーカーは新しい試薬の販売には慎重で、「あらゆる企業に売り込んだが、日本のメーカーからすべて販売することはかなわなかった」(牧准教授)と市販化については大きな苦労があったそうです。しかし、こうした材料が世界中で使われることによって、再生医療の実用化が確実に近づいていることは日本にとって誇るべきことでしょう。

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