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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
森重 研究室

工作機械を賢く動かすためのソフトウエアの開発

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 森重 功一 准教授
所属学会 精密工学会、日本機械学会、日本設計工学会、型技術協会
研究室HP http://www.ims.mce.uec.ac.jp/
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掲載情報は2017年3月現在

森重 功一 Koichi MORISHIGE
キーワード

製造系ソフトウエア、知的生産システム、CAD/CAM、情報・知能化工作機械、産業用ロボットの知能化、多軸制御加工、インタフェース、バーチャルリアリティ、ものづくり

工作機械や産業用ロボットは日本の“お家芸”といわれる産業分野です。工作機械は、自動車や家電製品などの生産に使われる機械であり、機械を作る機械として「マザーマシン(母なる機械)」とも呼ばれます。一方、溶接や部品の取り付けなどの作業を人間に代わって行うのが産業用ロボットです。いずれもモノづくりの根幹を支える重要な分野です。

ソフトウエアが機械を動かす

日本は1980年代から最近まで、工作機械の生産額で世界トップを維持していましたが、現在は中国にその座を奪われています。もっとも、日本は機械を「作る」技術にたけている一方、機械を「動かす」技術ではいまだ欧米の後塵を拝しています。
実際、CAD(コンピューター援用設計)やCAM(コンピューター援用製造)のソフトウエアはほとんどが海外製です。「ハードウエアに強く、ソフトウエアに弱い」日本の状況は、残念ながら現在も変わっていません。
森重功一准教授はこうした状況に危機感を持ち、高い精度で機械を操る世界屈指のソフトウエアを開発してきました。資源が少ない日本にとって、モノづくりは「生きる道」です。だからこそ、「日本は機械を作るだけでなく、それを適切に動かすためのソフトウエアの開発にも力を注ぐ必要がある」と森重准教授は長年訴え続けています。

「C‐Space」を工作機械に初めて導入

5軸制御加工の様子

森重准教授の研究は、三つの柱と一つの活動で成り立っています。一つ目のテーマが、多軸制御可能な工作機械を動かすためのソフトウエアの開発です。例えば、高い品質が求められる航空、宇宙関連の製品には、最先端の「5軸制御マシニングセンタ」で加工された部品が数多く使われています。マシニングセンタとは、工具を自動で交換しながら、多種類の複雑な加工を1台で行う工作機械です。

「3次元C-Space」で工具が衝突しない最適な移動経路を割り出す

空間内で互いに直交するX軸、Y軸、Z軸に加えて、傾斜軸と回転軸が付加された5軸制御マシニングセンタは、工具の「位置」だけでなく、「姿勢」まで制御できるのが特徴です。
動作の自由度が大きい分、その制御には高度な技術が求められます。これに対し、森重准教授は、ロボットの制御に使われている汎用的な手法である「C‐Space」の概念を初めて工作機械に応用し、5軸制御マシニングセンタを正確、かつスムーズに動かすためのデータを作ることに成功しました。

この手法は、マシニングセンタの工具が不適切な場所に移動しないように、あらかじめ3次元の「地図」を作った上で、その領域内で工作機械を滑らかに動かす方法です。「障害物を回避しながら、いかに機械を動かすか」という複雑な問題を簡略化したことがそのポイントです。滑るように機械を動かせるこのソフトウエアを使えば、「例えば、オーダーメードの人工骨など、複雑で付加価値の高い加工ができる」と森重准教授は考えています。

ロボット研磨、良否判定も

産業用ロボットによる自動研磨

二つ目は、産業用ロボットをスマートに動かすためのソフトウエアの開発です。ロボットに動作を教える際に、ロボットの機体を使わずにコンピュータ上でプログラムを作成してロボットに転送する「オフラインティーチング」を昔から手がけてきました。近年は、画像処理技術を使って、ロボットが加工の良否を判定しながら、自動で研磨する技術の開発を目指しているそうです。

触覚デバイスによるバーチャル加工

Haptic device を利用した5軸制御加工インタフェース

三つ目は、バーチャルリアリティ用の触覚デバイスを使った加工インタフェースの開発です。画面に表示された仮想空間の物体をデバイスで触ると、押し返されるような感覚(力覚)がフィードバックされる触覚デバイスを利用します。これを使えば、画面を見ながらこのデバイスを操作するだけで、実際の機械を思いどおりに動かしながらモノを加工することができます

旋盤加工中の様子

まるで実際に削っているかのようなリアルな感覚があり、難しい機械でも直感的に動かせるのが利点です。従来のような工作機械の煩雑な操作から解放され、「誰でも使えてミスのない、安全な加工インタフェースになり得る」と森重准教授は期待しています。

最近では、工具の「姿勢」や加工時の「深さ」なども制御でき、実際の切削に近い感覚を持たせた5軸制御加工や、難しい旋盤加工に成功しています。最新の旋盤加工インタフェースは、工具を変えながらあらゆる形状の加工に対応できます。これは大量生産ではなく、一点物を速く安く、簡単に作る用途に向いているといえるでしょう。

モノづくりを人のそばに

森重准教授は“モノづくりを人のそばに”との思いで、コンパクトなデジタル工作機械を使って、いわゆる「パーソナルファブリケーション(個人的なモノづくり)」の普及に向けた活動にも力を入れています。子どもや学生などを対象に、紙に描かれた絵をその場でデータに変換し、小型の工作機械で加工する実演などを各地で行っています。「若い世代にモノづくり業界に興味を持ってほしい」というのが、その活動に込める森重准教授の願いです。
昨今、日本の製造業は、アジア諸国の台頭によって大きな岐路に立たされています。これに加えて、少子高齢化や、熟練工、技術者の漸減といった環境の変化も日本にとって切実な問題です。「実用化の可能性のない研究は工学とは言えない」と考える森重准教授は、「具体的な方法を産業界に提示できる研究室であること」を常に心がけているそうです。

【取材・文=藤木信穂】

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