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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
岡田 英孝 研究室

歩行やランニング、スポーツにおける身体運動の解析

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 岡田 英孝 教授
所属学会 バイオメカニズム学会、ランニング学会、国際スポーツバイオメカニクス学会、国際バイオメカニクス学会、日本バイオメカニクス学会、日本体育学会、日本体力医学会、日本発育発達学会
研究室HP http://www.hb.mce.uec.ac.jp
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掲載情報は2017年3月現在

岡田 英孝 Hidetaka OKADA
キーワード

バイオメカニクス、歩行、ランニング、スポーツ、長距離走、アスリート、超高齢社会、高齢者、ヘルスケア、フィットネス

年齢を重ねてもいつまでも若々しく、健康でいることは多くの人にとって大きな願いでしょう。例えば、「歩くこと」はあらゆる動作の根幹を担っていますが、加齢によって歩行にはどのような変化が生じるのでしょうか。こうした現象を科学的に解明しようとする試みは、意外にもこれまでほとんどなかったそうです。

歩行動作のモデル作成

岡田英孝教授は、人間の日常生活やスポーツにおける身体の動きを研究しています。なかでも、加齢に伴う歩行時の動作の変化や、その原因の究明を目指して長らく研究してきました。ここで前提となるのが、歩行動作の良し悪しの判断や基準となる歩行動作のモデルの作成ですが、従来はこれらの実現が困難だったのです。
そこで岡田教授は、歩行時の標準動作モデルの作成に乗り出しました。日本人の成人男女の平均的な歩き方をモデル化できれば、加齢に伴って歩き方がどう変わるかを動作学のレベルで明らかにできます。岡田教授は、これによって最終的に「個人の『歩行年齢』を算出することができる」と見込んでおり、このツールを将来、「継続的に若々しく歩くための啓発につなげたい」と考えています。

成人女性を対象に実験

健康な200人以上の成人女性を対象に行った実験をご紹介しましょう。まず、年齢別に若年群(18~49歳)、中年群(50~64歳)、高齢群(65歳以上)の三つのグループに振り分けます。その後、全員に対して、モーションキャプチャなどを使って身体につけたマーカーから個人の歩行時の動作を計測します。そこから、下肢の動作を示す「足関節」や「膝(しつ)関節」、「股関節」のそれぞれの角度や角速度、トルク、パワーなどを求め、グループごとに歩行の特徴を導きます。年齢のほか、体重の違いも考慮しています。

歩行動作解析
歩行動作解析

ここで、若年群に対して、中年群、および高齢群の特徴を当てはめて比較したところ、個人差は大きいものの、「中高年は離地時の足関節トルクが小さく、離地後に足を前方に振り出す際の股関節のトルクが大きくなる傾向にある」ことが分かりました。これは、「中高年は足関節よりも股関節をよく使う、すなわち、若者に比べて足を蹴り出す力が弱い」ことを示しています。
岡田教授によると、「まだ『歩行年齢』とまではいかないが、成人女性の歩行動作の加齢変化を総合的に判断する評価法ができた」そうで、これを「歩行動作加齢度指数」と呼んでいます。しかし、歩く速さが異なれば、動作も変化します。今後は速度のほか、身長など体格も考慮し、さらに評価精度を高めていく予定です。

合理的なランニング技術を明らかにする

また、歩行の延長として、ランニング(走行)動作も研究しています。長距離を速く走るために、「どうすれば効率の良い走りができるか」という視点で取り組んでいます。長時間にわたる下肢の動きや筋肉の活動、地面から受ける外力(地面反力)を解析することで、合理的なランニング技術を明らかに開発することが目的です。
陸上長距離は日本が得意としてきた競技種目の一つですが、現在圧倒的に強いのが、ケニアやエチオピアなどのアフリカ勢です。しかし、生理学的な比較調査によれば、ケニア人よりも日本人の方がむしろ、長距離走行時の「エンジン」の指標である最大酸素摂取量(有酸素パワー)は大きいそうです。そのため、岡田教授はランニング技術の改善によって日本人がケニア人の走りに近づくことは可能とみており、「いずれこうした基礎研究がフィールドに生かされればうれしい」と期待しています。

ダルビッシュの投球フォームも解析

岡田教授は実際に、アスリートの運動技術についても研究しています。フィールドにおけるアスリートの動きをカメラで撮影し、3次元データを生成します。このデータを使って、技の習熟に伴う動作の変化や、優れた運動技術のメカニズムを解明しています。
こうしたスポーツ動作の研究として、これまでに、野球の投球動作や合気道の動きを研究してきました。合気道は試合がなく、勝敗を争わない武道ですが、達人の動きは素人とは全く異なります。この違いは何かを究明しています。
過去には、「金取れ(筋トレ)マシンで国際競技力の向上を目指す」とのスローガンの下、他大学のチームと共同で研究成果を生かした柔道のトレーニング器具を開発し、オリンピックの金メダル獲得につながったこともあるそうです。現在も、筑波大学などと共同で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたプロジェクトに関わっています。

目標はヒューマンパフォーマンスの改善

このように、岡田教授は多様な活動に取り組んでいますが、共通するのは、「身体運動を科学的に扱うことで、ヒューマンパフォーマンスの改善に役立たせたい」という思いです。生体を力学的に解析することで、競技スポーツだけでなく、人間の動作全体を対象にする「ヒューマンバイオメカニクス(人間生体力学)」という学問を浸透させたいと考えています。
同時に、現場と研究の間に立ちふさがるギャップを埋める「ブリッジ・ザ・ギャップ」を目指すことも目標です。岡田教授は電気通信大学の陸上競技部の監督、およびコーチを務めており、研究成果をすぐに現場に生かせるのは大きな強みかもしれません。

【取材・文=藤木信穂】

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