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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
白川 研究室

高出力レーザーを求め、次世代ファイバーレーザーの研究

所属 レーザー新世代研究センター
メンバー 白川 晃 准教授
所属学会 応用物理学会、レーザー学会、Optical Society of America、International Society for Optics and Photonics
研究室HP http://www.ils.uec.ac.jp/~shirakawa_lab
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掲載情報は2015年8月現在

白川 晃 Akira SHIRAKAWA
キーワード

ファイバーレーザー、セラミックレーザー、固体レーザー、フォトニックバンドギャップ技術、フォトニックバンドギャップファイバーレーザー、位相同期レーザー、マルチコアファイバーレーザー、高出力超短パルスセラミック光源、超短パルスフォトニック結晶ファイバー光源

研究概要

フォトニックバンドギャップ技術を使った新しいファイバーレーザー

当研究室では、ファイバーレーザー、位相同期レーザー、セラミックレーザーなど、レーザー技術を中心に研究・開発を行っている。特にファイバーレーザーは高出力レーザーとして、現在最も注目しているレーザーだ。
シリカファイバーの中央コア部にイッテルビウム(Yb)という1ミクロンの波長でよく光る特性を持つ希土類イオン(レアアース)を添加する。その周りを囲むクラッドにゲルマニウム等を添加させて屈折率を上げた微細周期構造を作る。通常のファイバーとは逆にコア部の屈折率が低く、周りのクラッドの屈折率が高いため、全反射伝搬できない。しかしクラッドの周期構造中では、光子を結晶中の電子と同様に扱うことができ、フォトニックバンドギャップ(光の禁止帯:特定の帯域の光が内部を伝搬できない性質)が形成される。その波長帯の光は一度コアに入ると外に出られずコアを伝搬することになり、高効率にレーザー発振する。われわれはこれをフォトニックバンドギャップファイバーレーザーと呼んでいる。

フォトニックバンドギャップファイバーレーザー

フォトニックバンドギャップファイバーの顕微鏡像

通常のYb添加ファイバーレーザーは、波長が1050nmのあたりでよく光る特性を持っている。1200nmくらいではほとんど光らない。
そこで、フォトニックバンドギャップを使い透過する波長帯を制限すると、利得スペクトルの形が変わり1200nm帯で高出力が得られるようになった。効率も普通のファイバーレーザーと変わらないレベルを実現している。これは世界に先駆けた研究である。
この新しいファイバーレーザーはさまざまなものに利用し得る。例えば、第二高調波発生を使い589nmに変換することで、ナトリウムのD線に相当するレーザー光に変え、レーザーガイド星と呼ばれる、すばる望遠鏡等の大口径の望遠鏡で空気ゆらぎを補正するための点光源などにも利用可能である。
フォトニックバンドギャップ技術はファイバーレーザーの波長だけでなく非線形特性も変えることができる。ファイバーレーザーの高出力化の限界はラマン散乱(分子が振動して光のエネルギーが失われる)までだ。そこで、バンドギャップによりラマン散乱の波長帯で透過できないようにしてラマン散乱を抑制することで、より高出力なレーザーにできる。
当研究室では、ファイバーのコア径を大きくしてこれに対処するかわりに、フォトニックバンドギャップ効果によって非線形特性をコントロールすることで、高出力レーザーの実現を目指している。

位相同期レーザー

破壊限界を超えてファイバーレーザーの出力を上げるためには並列化するしか方法が無い。ただ、複数のレーザーを集めても出力は上がるが輝度を上げることはできない。そのため、それぞれの位相を合わせてビームを重ね合わせる必要がある。位相同期レーザーとして当研究室では、マルチコアファイバーレーザーを研究している。これは、フォトニック結晶技術を使って複数のコアを作り、それぞれの位相が合わさったモードを形成させるものだ。当研究室ではまた、ファイバーの端面を溶かして特定の長さに制御して、位相の合わさったモードのみを選択するエンドシール法と呼ぶ新しい位相同期法を生み出した。検証結果では、非常に効率が良く、普通のファイバーレーザーと比べて差のない効率を実現している。

新素材を使った固体レーザー

淡く光るファイバー。高出力レーザーは主に近赤外線のため、
明るくない

セラミックレーザーの研究では、新しい材料の探索や物質場制御に取り組んでいる。共同研究で開発しているセラミック製法を使えば、融点が高すぎて結晶化するのが難しく今まで使えなかった希土類酸化物などの材料が使えるようになった。これが便利なのは、高い熱伝導率と広い利得スペクトルを持っているので、高出力の超短パルスレーザーに利用ができることだ。新素材に関しては、共同研究でピエゾセラミックスに類似した酸化物や、フッ化物材料を作っている。これらは無秩序結晶セラミックと呼ばれ、レアアースがランダムに入っている。これにより広い発光スペクトルを実現している。今までの単結晶レーザーではできなかったことが今後可能となる。

アドバンテージ

独創的なアイデアで次世代のレーザーを生み出す

1980年から、電気通信大学レーザー研究所(現レーザー新世代研究センター)は既存の理論に捕らわれない柔軟な発想を持ち続け、ファイバーレーザーやセラミックレーザーなど、従来のレーザーの概念を覆す斬新なレーザーを生み出してきた。
この思想は現在でも息づいており、当研究室では、フォトニックバンドギャップファイバーレーザー、位相同期レーザー、高出力超短パルスセラミックレーザー、超短パルスフォトニック結晶ファイバー光源などの独創的なアイデアで、次世代のファイバーレーザー、高出力レーザーの研究に取り組んでいる。

大口径ファイバー融着接続機
希土類酸化物thin-diskレーザー

今後の展開

レーザーを「自在技術」に昇華させたい

わが国では光科学研究は盛んに行われている。しかし、レーザーを用いたものの研究が主流で、レーザーそのものの研究はほとんど行われていない。レーザー技術は成熟しつつあるが、多くの課題が置き去りにされたまま限られた応用分野でのみ利用されているのが実情だ。
白川は、ファイバーレーザーと固体レーザーに軸足を置きながら、さまざまな視点からレーザーを研究し、誰もが使える「自在技術」に昇華させたいと考えている。
また、これまで国内外のさまざまな企業と縛りのない自由なスタイルで共同研究を進め、数多くの学術的な成果を得てきた。
今後はこれらを継承・推進しつつも、一方でしっかりした枠組みを構築し、産業的にも価値の高い成果を創出していきたいと考えている。

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