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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
西野(順) 研究室

「精密」ではなく、「正確」な判断を導く多次元ファジィ

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 西野 順二 助教
所属学会 日本知能情報ファジィ学会、情報処理学会
研究室HP http://www.fs.se.uec.ac.jp/~nishino/
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掲載情報は2016年5月現在

西野 順二
Junji NISHINO
キーワード

ファジィ、ファジィ理論、ファジィ制御、ファジィ集合、ロボカップ、サッカー、大貧民、トランプ、R言語、制御理論、現代制御理論、最適制御理論、AI

「ファジィ(fuzzy、「曖昧」の意)」という言葉を聞くと、今では懐かしいと感じる人が多いかもしれません。人間の思考や行動にある「曖昧さ」を取り入れたファジィ技術は、1960年代に登場し、80年代後半には地下鉄やエレベーターの運転制御などに応用されました。90年代になると、「ファジィ家電」のブームに火がつき、絶妙な火加減で炊きあげるファジィ炊飯器や、洗濯物の量や汚れの度合いから洗濯時間を決めるファジィ洗濯機などが発売され話題を集めました。

AIブームが追い風

その後、ファジィという言葉は日常生活ではあまり耳にしなくなりましたが、技術自体が廃れたわけではありません。経済産業省の情報処理推進機構(IPA)認定の“天才プログラマー”の称号を持つ西野順二助教は、ファジィ一筋に25年以上も研究を続けてきました。さまざまな問題を大局的かつ正確にとらえ、人間のように柔軟にモノを考えられる機械は、むしろこれからより必要とされるでしょう。昨今の人工知能(AI)ブームも追い風になっています。

ファジィ理論の本質は、「精密にはとらえきれない実世界を、より正確にモデル化すること」だと西野助教は考えています。最近では、世の中のさまざまな事象の数理的な解析が進み、コンピュータの計算能力が飛躍的に向上したこともあって、それまで困難だった問題も数理モデルに置き換えられて解けるようになりました。

飛行機と鳥

しかし、我々の住む世界すべてを、このような精密な数式で表すことは到底不可能です。複雑な要素が絡み合う現実の世界を忠実に表現しようとすれば、必ず、ある程度の「曖昧さ」を含むでしょう。その曖昧さを取り除かずに、きちんと考慮して表すことこそが「正確」だと言えるわけです。そこで、ファジィ理論が威力を発揮するのです。

空を飛ぶ「飛行機」と「鳥」の違いを例に挙げて考えてみましょう。近年、囲碁や将棋で人間に勝つAIが注目されていますが、これは「ある問題を解くための知能を実現する」という目的で開発されました。言ってみれば、これは空を飛ぶ知能、すなわち飛行機を開発することに似ています。それに対して、「鳥の羽ばたきを再現しようとする」のがファジィ技術だと西野助教は説明します。人の行為をまねする知能の実現がその目的です。同じ、「空を飛ぶ知能を作る」という目標を掲げていても、そのアプローチは全く異なるのです。

多次元の『このへんファジィ』

ファジィ集合
ロボット行動

西野助教が進めているのは、日本唯一ともいえる「多次元ファジィ」の研究です。従来のファジィ研究は、1次元(1変数)のファジィ集合だけをし扱っていまた。例えば、「暑い」という感覚的で曖昧な状況をコンピュータに判断させるために、「温度」だけでなく、「湿度」や「風速」など複数の次元を入力して求めようとするのが多次元ファジィの考え方です。この多次元ファジィによる制御手法を、西野助教は『このへんファジィ』と名付けています。

多次元ファジィの応用として、まず考えられるのがロボットです。ヒューマノイドロボットは多変数システムの代表であり、「ロボットが転ばないギリギリの領域(ファジィ集合)」で動かすというように、多次元ファジィを有効的に利用できます。

また、“世界一安いロボット”の実現を目指し、西野助教は、動力付き自動車模型「ミニ四駆」にAIを載せた小型で高速な四輪ロボットを開発しました。市販の安いプロセッサーを使って1000円程度でロボットを作り、多少の不具合があっても、AIで学習させることでうまく制御します。ファジィ理論を使ったこうした操縦技術は、将来、自動運転などにも活用できるかもしれません。

ミニ四駆AI

ファジィとは“人間らしさ”

そのほか、ロボットによるサッカーの競技会「ロボカップ」に向けたチーム編成(46次元ファジィを採用)や、「覚醒度」や「緊張度」によって選手の心理状態を推測した上で、野球観戦を楽しむ心理戦の情報提示システムなどを開発しています。技能の伝承に向けて、弓道の技をファジィ集合で表して、総合的な知識を獲得する研究にも取り組んでいます。

サッカーの曖昧な状態評価
弓道個人データのファジィモデル

多彩なゲームにも応用できます。トランプのゲーム「大貧民(だいひんみん)」において、他人の手に依存せず、最短で手札をさばける最善の手順をファジィ理論によって割り出しました。対戦相手の強さを自動で認識し、それに合わせて適度に負けてくれる「“接待”ぷよぷよ」なども考案しています。人間と同様の「やわらかい」情報処理を行うファジィ理論を採用することで、機械をより強くすることが可能になったのです。

ファジィとは、“人間らしさ”と言い換えてもよいかもしれません。物事をとらえる人間が曖昧である以上、機械が人間に近づくためには、ファジィを使いこなす必要がああります。西野助教は、将来は、あらゆるモノにAIが搭載されると見通しており、「身の回りのモノを賢くするファジィはあらゆる産業に有効であり、AIの一翼を担う技術として今後も広めていきたい」と考えています。

【取材・文=藤木信穂】

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