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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
桑原 研究室

NMR(核磁気共鳴)における分析手法の研究

所属 研究設備センター
メンバー 桑原 大介 准教授
所属学会 日本核磁気共鳴学会、日本化学会
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

桑原 大介
Daisuke KUWAHARA
キーワード

NMR、固体の核磁気共鳴、電子スピン共鳴

研究概要

研究設備センターの大規模・高機能・高額な機器群

当研究室主宰の桑原は、研究設備センターの管理者でもあるので、このセンターについて少し説明したいと思う。
本センターは、物性科学の研究に欠かせない機器を一括管理する目的で設けられた。現在いずれも大規模で高額な研究用機器が集められている。これらの機器類は、大まかに言えば「表面・界面構造解析系」と「化学構造解析系」の2つに分けられる。
表面・界面構造解析系の柱は何といっても電子顕微鏡である。現在、200kV熱電子放出型透過型電子顕微鏡、200kV電界放出型透過型電子顕微鏡、電界放出型走査電子顕微鏡、結晶方位分散分析走査電子顕微鏡の4つがある。
また、固体表面を調べるためのX線光電子分析装置、超高真空走査型トンネル顕微鏡、原子間力電子顕微鏡もある。
化学構造解析系の柱はNMRと質量分析装置だ。NMRは超伝導フーリエ変換NMR装置2台(300MHz、500MHz)、質量分析計はタンデム質量分析計、二重収束質量分析計、MALDI-TOF型質量分析計の3種がある。
物理・化学の双方の分野で構造解析に重要な機器であるX線分析装置も、4軸型単結晶X線回折装置、微小部X線応力測定装置、CCD型単結晶X線回折装置、DSC粉末X線同時測定装置と充実している。
この他、超伝導量子干渉型磁束計、電子スピン共鳴装置などの分析・計測機器を含めて、現在、20数台の大型機器がある。
研究設備センターで特筆すべきことは、液体ヘリウムの回収・リサイクルシステムを保有していることである。学内で使用されたヘリウムを回収して液化・再利用することが可能である。

NMRで物質を「見る」研究

桑原が電気通信大学研究設備センターの管理責任者であることは、自らの研究テーマ「NMR(核磁気共鳴)の研究」と密接に関係している。具体的には、NMRで物質をもっとよく「見る」方法、その分析手法・方法論自体が研究テーマであるからだ。
第1の研究課題は「超音波照射による固体高分解能NMR」である。これは、溶液中の固体状態試料に超音波を当てて、その下でNMR信号を観測する。試料が固体状態を保ったままで、液体のようなシャープなNMRスペクトルを得ることを目指した研究である。
小さな分子が溶媒に溶けている場合は、溶媒中の等方的な速い運動によって各種相互作用が平均化され、非常に高い分解能を持ったNMRスペクトルが得られる。よって、そのような試料であれば問題はないのであるが、例えば、分子量が大きいタンパク質や生体系物質などは、溶媒中で速い運動はできない。このような物質では高分解能のスペクトルが得られず、結果として試料の同定や構造解析がうまくできないという問題が生じるのである。この問題は、核磁気共鳴の世界では「分子量の壁30K」と呼ばれている。
分子全体ではなく分子の局所的な構造を見ることに絞れば、固体状態のタンパク質や生体系物質に適用できるいろいろな手法が開発され、NMRでかなりよく見ることができるようになった。しかし、試料の同位体置換といった特殊なテクニックが必要で、“生の”試料のままNMRで測定することについてはまだまだ困難が多い状況である。
第2の研究課題は、固体状態のタンパク質に何の細工も行わず、そのままで構造解析ができるような「NMR手法の開発」である。

アドバンテージ

「分析手法」そのものを研究している国内でも稀少な研究室

超伝導フーリエ変換NMR(300MHz)

NMRで物質を見る分析手法や方法論の研究を専門的に行っている研究室は国内でも少なく、貴重な存在である。特にわが国では、これまで手法や方法論の開発といったことを研究テーマとする研究者は多くはなかった。しかし、欧米ではこうした磁気共鳴分光学の手法研究は非常に盛んであり、現在までに4人のノーベル賞受賞者を輩出している。
よりよい分析手法が開発されれば、これまで見ることができなかったものが見えるようになる。あるいは、もっとよく見えるようになる。これは、物性科学分野の研究には絶大な威力を発揮する。
豊富な研究機器を使って、こうした分析手法・方法論研究という面白いジャンルの研究に取り組めることが、当研究室の強みであろう。

今後の展開

究極の目標は「分子1個だけを見る」

200kV熱電子放出型透過型電子顕微鏡

“分子量が大きいタンパク質や生体系物質などを、より高い分解能で見ることができないか”という問題は、この20年以上の間、NMR分光学の世界での大きな課題となっていた。X線回折装置を使えば結晶構造を見ることはできるのだが、そのためには単結晶が必要となる。タンパク質などでは、この試料となる単結晶を作り出すことに困難が伴うことが多い。したがって、分析に単結晶を要しないNMRで見ることができれば、という欲求が当然起こってくるわけである。また、X線は試料に対して破壊的な影響を及ぼすこともある。その点でも、試料に対して“優しい”NMRは、アドバンテージがあると言えるのである。
当研究室は、前記物質のブロードなNMRスペクトルを何とかシャープにしたいと考えて、試料のブラウン運動を人為的に起こすため、試料を溶液の中に入れて高速で揺らしてみるといった様々な試みを行っている。
もう1つ取り組んでいることは、NMRの信号強度を上げるという課題である。NMRの最大の弱点は、他の分光学的手法に比べると、どうしても信号強度が弱いことである。この弱点を補うために、ESR信号にNMRの情報を載せてやれないかと考えている。そのためには、その物質が不対電子を持っていることが必要だ。それさえあれば理論的には可能なので、実現可能性があるのではないかと考えている。
こうした手法の開発によって(長い年月がかかることであろうが)、究極的には「分子1個だけを見る」あるいは「分子の表面だけを見る」といったことが可能になればよいと考えている。

超高真空走査型トンネル顕微鏡
CCD型単結晶X線回折装置
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