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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
仲村 研究室

脳における「体内時計」と「匂い」の研究

所属 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻
メンバー 仲村 厚志 助教
所属学会 日本動物学会、日本比較生理生化学会、日本味と匂学会、日本時間生物学会、日本生物物理学会
研究室HP http://kaeru.pc.uec.ac.jp
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掲載情報は2017年3月現在

仲村 厚志 Atsushi NAKAMURA
キーワード

体内時計、匂い、食欲、記憶・学習

ヒトはなぜ、毎日決まった時間に眠くなり、決まった時間に目覚め、決まった時間におなかが空くのでしょうか。これは、単に日が沈んだり昇ったりするからではなく、環境の変化のない条件下でも体内活動のサイクルが維持されているからです。したがって、例えば、夜更かしや不規則な食事などが続くと、途端に体の調子やリズムが狂ってしまいます。

体内時計はどのように時を刻むのか

ヒトは皆、体内時計を持っている

我々ヒトをはじめ、地球上のほぼすべての生物は、体の中に約24時間の周期で時を刻む「体内時計」を持っています。海外に行ったときに“時差ぼけ”に苦しむのも、この体内時計が一時的に乱れてしまうためです。

心臓や肝臓、腎臓などすべての臓器が体内時計を持っており、これを調整するのが時計遺伝子と呼ばれる、一連の遺伝子群です。遺伝子工学の発展によって、体内時計の仕組みはだいぶ明らかになりつつありますが、一方で、体内時計の周期的なリズムをどのように正確に保っているのかは、まだよく分かっていません。
仲村厚志助教は、ヒトと同じ哺乳類であるマウスを使って、特に難しいとされている「脳」の体内時計がどのように時を刻んでいるのかを解明しようとしています。最近、マウスの脳の視床下部にある体内時計の中枢(時計中枢)を培養し、その中の時計遺伝子の発現リズムを測定する実験を行いました。その結果、時計中枢は予想通り約24時間のリズムを刻んでいましたが、あるタンパク質の機能を変化させると、リズムの周期や振幅が変化することが分かりました。

体内時計の遺伝子の1日の変化量を示した電気泳動の図
さらに、そのタンパク質の時計中枢内での分布を顕微鏡で観察したところ、これは特定の領域のみに存在するタンパク質であることが分かり、また、夜の時間帯に光を当てた場合には、その活性が大きく減少することを見いだしました。夜に光を浴びると体内時計が乱れることから、このタンパク質は体内時計の時刻の調節に関わっている可能性があると仲村助教は考えています。

ズレてしまった時計を整える仕組み

それでは、一度乱れた体内時計はどのようにして整えればよいのでしょうか。一般に、朝に日光など強い光を浴びると体内時計がリセットされるということが広く知られていますが、仲村助教は、「匂い」を刺激として与えて体内時計を調整できないか、という観点で研究に取り組んでいます。

マウス脳の時計中枢を培養し、遺伝子発現リズムを測定。脳から切り離しても数十日間も24時間のリズムを維持し続ける
リモネンやラベンダーといった芳香成分を自動で与えるシステムを完成させており、今後、光によってあらかじめ体内時計をずらした遺伝子改変マウスにこうした匂いを与える実験を行う予定です。香りには体の代謝を高める効果があることが知られており、それによってホルモンのバランスが整えば、「香りに体内時計を正常に動かす作用を持たせられるかもしれない」と仲村助教は期待しています。


好物+嫌いな匂い=?

一方、体内時計との関わりだけでなく、匂いの研究も突き詰めようとしています。その一つが「匂いと食欲との関係」を探る研究です。単純な脳構造を持つハエに、好物の糖を与えながら、嫌いな匂いを嗅がせるという実験を行いました。

マウス脳の時計中枢の顕微鏡写真
ハエの嗅覚と味覚における実験

するとどうなるでしょうか。ハエは大好きな糖を嫌いになってしまうのです。好きな食べ物と嫌いな匂いをセットで学習させた結果、好物でも嫌いになってしまうことが分かりました。その時のハエの脳を遺伝子レベルで調べたところ、匂いよって変化する遺伝子が特定できました。さらに解析を進めていけば、「匂いがどのように食欲に影響を与えるかの一端が明らかになるだろう」と仲村助教は見通しています。

匂いを感じる鼻の中の嗅上皮という部分の顕微鏡写真

その先には、「匂いへの“慣れ”がどのようにして起こるのか」といったテーマも検討しています。これは、マウスに具体的な匂いを嗅がせ続けたときの変化を遺伝子レベルで調べる実験です。鼻の中には匂いの情報を運ぶタンパク質があり、「そのタンパク質の量や場所が変わることで、匂いが分からなくなるのではないか」と仮説を立てて研究を進めています。

食欲と体内時計の関わりを追究

このように、「体内時計」と「匂い」という“二大研究”を手がける研究室は世界的に見ても珍しいそうです。食事にも一日のリズムがあり、食欲と体内時計は密接に関わるとされています。将来は、食欲を調整する遺伝子と体内時計との関わりに匂いを結びつけた研究に発展させたいそうです。
遺伝子工学やタンパク質工学だけでなく、細胞生物学や解剖学、薬理学、行動学など、あらゆる分野にまたがる研究を行っているのも特徴です。分子生物学的な手法から生化学的な手法まで幅広く手がけているため、「新しいタンパク質の精製や、体内のタンパク質の働きの特定といった研究もできる」と企業にもアピールしています。

【取材・文=藤木信穂】

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