このページの先頭です

メニューを飛ばして本文を読む

国立大学法人 電気通信大学

訪問者別メニュー

ここから本文です

研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
植野 研究室

厳密解を求める「ベイズ手法」を用いたAIの研究

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 植野 真臣 教授
所属学会 人工知能学会、電子情報通信学会、日本行動計量学会、統計学会、日本テスト学会、日本教育工学会、教育システム情報学会
研究室HP http://www.ai.is.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2021年5月現在

植野 真臣 Maomi UENO

教育の世界では、ITを活用した学習形態であるeラーニングがすでに定着し、現在は学習者の理解度や進度に合わせて最適な学習を個別に提供する「アダプティブラーニング」(適応学習)が注目されています。

日本初のeラーニング論文

日本で最初にeラーニングの論文を発表した植野真臣教授は、当初から一方的に「教える」のではなく、大量の学習データから人工知能(AI)技術を使って自然な自発的学習を誘発するeラーニングシステムを研究してきました。開発したシステム『SamurAI(サムライ)』は50万人以上に利用されるなど大きなインパクトを与えました。

ベイジアンネットワーク

植野教授は、確率モデルの中でも最も予測精度が高く、厳密な計算ができるAI技術の一つである、「ベイズの定理」を利用したベイジアンネットワークについて、現時点で世界最高性能のシステムを2011年に開発しました。さらに、既存技術よりも数十倍速い推論アルゴリズムを使った、200以上の変数を持つ新しい確率推論の手法も提案しています。

一方、ベイジアンネットワークのネットワーク構造の学習については、従来は30―50個ほどの変数が限界だったのに対し、最近、3000変数程度まで扱える厳密な構造学習の手法を開発しました。また、ベイジアンネットワークに比べてかなり近似的に計算する深層学習(ディープラーニング)にベイズ手法を採用した、ベイジアンディープラーニング分類器なども研究しています。

論述式テストの自動採点が可能に

こうしたアプローチは自然言語処理の研究にも応用しています。例えば、文章の内容を自動で学習し、その潜在的な意味解析を行うことで文章の論理性を自動で評価する技術を開発しました。「人間の採点結果と9割近く一致する精度を確認しており、近い将来に小論文やレポートなどの論述式テストの自動採点が可能になるだろう」と植野教授は見通しています。

ほかにコンピュータ上で実施するテスト(eテスティング)向けに植野教授が開発した手法が世界標準になっています。これは異なるテストでも同じ尺度で採点できる「等質テスト」をできるだけ多く作成するシステムで、テストを何度受けても等質かつ精度の高い評価を保証するものです。現在20万を超える等質テストを自動で作成できており、これは世界最大数と最高精度を誇ります。日本最大の国家試験であるIPA情報処理技術者試験や医師国家試験などに採用され、大学入試への導入も検討が進んでいます。

応用力を高める

アダプティブラーニングについては、教育関連企業と共同で研究しており、過去の大量の学習履歴から、個々の学習者に対して適切なアドバイスを行うシステムを開発しました。植野教授によると、「学習者の能力に対してやや難しめの問題を出題し、それに対して複数の適切なヒントを与えて学ばせることで、応用力を4倍近く伸ばせることが分かった」そうです。人間の先生では教えすぎてしまうことも多々ありますが、大量の学習データから機械学習で予測することにより、知的システムがそれを絶妙なさじ加減で行ってくれます。

このように基礎研究によって基本的な部分を革新していかない限り、研究の大きな発展は見込めません。植野教授は基礎理論に寄与できる学術的な研究を進めつつ、応用研究では、数理手法の開発にオリジナリティを持たせながら、現場で役立つものを指向しています。この理論研究と実践の繰り返しによって、植野教授が目指す「真に社会貢献できる研究」が実践できるのです。

【取材・文=藤木信穂】