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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
市川 研究室

いつでもどこでも仮想的に作り出す
無線空間が〝未来〟を変える

所属 大学院情報理工学研究科
総合情報学専攻
メンバー 市川 晴久 教授
川喜田 佑介 助教
所属学会 米電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会、計測自動制御学会、情報処理学会
研究室HP http://www.ichikawa.hc.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

市川 晴久
Haruhisa ICHIKAWA
川喜田 佑介
Yuusuke KAWAKITA
キーワード

自立給電型ワイヤレスセンサ、IoT、グローバルIoTインフラ、ソフトウェア無線、電波空間情報配信、電波空間情報ストレージ、無線プロトコル検出、多元接続、信号処理、機械学習

米グーグルや米アップルは、なぜ斬新なビジネスを生み出せたのでしょうか。先端的な技術開発を行っている日本企業が、なぜ苦戦しているのでしょうか。彼らは先端的な技術のみならず、ビジネスに必要な外部資源をインテグレート(融合)する能力で勝ち抜いていると言われています。世界的に躍進する企業の多くは、インテグレート能力によって産業の基盤的な技術を制する「プラットフォームリーダ」になっているのです。
市川晴久教授は、日本の産業競争力を強化するためには、技術開発と同時に、プラットフォームリーダを生み出す「中長期的な研究開発のスキーム(枠組み)」を形成する必要があると考えています。これは“破壊的イノベーション”によって基盤技術の性能を爆発的に向上させ、新しいプラットフォームを誕生させるための仕組みであるとも言えるでしょう。
プラットフォームは、基盤技術の性能向上とともに徐々に形を現します。このプロセスに参加している者の中から、プラットフォームリーダが生まれます。その際、研究開発はプラットフォームを形成する場を作りながら遂行していくことが求められます。したがって、基礎研究を行う者や組織と、事業化を行う者や組織が“協働する”スキームを作ることが重要なのです。
もっとも、プラットフォームを確立し、産業を形成する過程で直接利益を生み出すということは実際難しいでしょう。産業界は、かつて以上に営利活動に専念しなければならない環境にあるのです。そこで市川教授は、「大学こそが、産学官が協働するスキームの中心的な役割を果たすべき状況にある」と考えています。

図1

爆発的な性能向上が続いている半導体やインターネット、コンピューティングなどの技術を背景に、すべてのモノをネットワーキングして価値あるアプリケーションを開発しようとする「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」が注目されています。市川教授と川喜田佑介助教は、この動きを先取りして、世界的なプラットフォーム形成に必要な技術の研究を進めています。
図1のような世界では、ワイヤレスセンサが家具や衣服、カーペットなど、生活空間の至るところに見えないように埋め込まれています。このセンサは電源を供給しなくても半永久的に動作します。情報は常時センサに蓄積され、いつでも送信可能です。ユーザはどこにでも無線機を配置でき、情報が欲しい時にいつでもアクセスできます。

図2

こうした未来の実現に向けて、市川教授らが提唱する新たなコンセプトが、「端末主導型のユビキタスネットワーク(Appliance Defined Ubiquitous Network:ADUN)」です。ADUNとはその名の通り、センサのような端末が“主役”になるネットワークのことです。未来は、端末自体が空間に埋め込まれ、人間に見えないようになるのです。アプリケーション(応用)は無数に存在するでしょう。それぞれのアプリケーションに応じた無線通信プロトコルを開発し、その仕様を標準化していたらとても作業が追いつきません。
そこで端末に合わせて、無線空間をいつでもどこでも“仮想的に”作り出せる仕組みを考案しました。いわば「オンデマンドで提供する無線空間(仮想電波空間)」です。仮想的にコンピュータを構築するクラウドコンピューティング技術を使って、ますます大容量化が期待できるサーバ上で「ソフトウェアの無線機」を大量に作り出し、仮想電波空間上の大量のワイヤレスセンサ信号を受信するのです。
「インターネットが地球上の全てのコンピュータをつないでいるのに対して、これは地球上の全ての“電波空間”をつないでいるようなイメージだ」と市川教授は説明します。さらに、コンセプトの提示だけでなく「不特定多数の要求が来たときでも、実際にスムーズに動くサービスを提供したい」と川喜田助教は考えています。

図3

ワイヤレスセンサを微弱な電力で動かせるならば、生活振動や室内の照明、温度差など、身近な環境から自然に取り出せる電力エネルギーで「自立給電動作」をさせることができます。図3は、振動発電によって、1マイクロワット(マイクロは100万分の1)程度の微弱な電力を発電して無線通信を行うLSIの例です。市川教授らの共同研究パートナが、開発しました。この例では、キャリア周波数の安定性や信号の電力などを大幅に犠牲にして、通常のワイヤレスデバイスが消費する電力よりも3桁少ない電力で動作させることに成功しています。

図4

今後、多様なワイヤレスセンサが誕生したとしても、その無線通信が低品質にとどまることを想定し、市川教授らはADUNを使った無線空間の仮想化技術に加えて、新しい無線信号やシステムの発見、無線通信に伴う干渉の除去、電波空間情報の保存・活用技術など幅広いテーマの研究開発を手がけています。これらの技術を有機的に結びつけることで、「実世界の至るところで情報を集められるシステム」を作るのが研究室の目標です。
時代が求めるテクノロジーをいち早く見抜き、「未来の産業を目指して“やるべき研究”を推進する」という市川・川喜田両研究者。もう、日本がプラットフォームリーダになるための第一歩は、すでに踏み出されているのかもしれません。
【取材・文=藤木信穂】

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