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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
橋本 研究室

一 般家庭の室内空間を使って人間を映像空間に
没入させるバーチャルリアリティ環境の構築

所属 大学院情報理工学研究科
総合情報学専攻
メンバー 橋本 直己 准教授
所属学会 日本バーチャルリアリティ学会、電子情報通信学会、映像情報メディア学会、情報処理学会
研究室HP http://www.ims.cs.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

橋本 直己
Naoki HASHIMOTO
キーワード

バーチャルリアリティ、3D、没入型ディスプレイ、HDR輝度補正、等身大仮想現実環境、プロジェクションマッピング

研究概要

一般家庭の室内空間を使った没入型ディスプレイの研究

釣りをしながらでも、国際会議に参加できます。河原の岩肌にスクリーンを映し出せば、パソコンがなくてもスクリーンのタッチ操作で簡単に作業が可能です。もちろん、投影されているのはきちんとしたスーツ姿です――。

これは、総務省が「アクティブ・ジャパン戦略」として策定したICT(情報通信技術)のロードマップが描く、未来社会の一コマです。舞台は2020年のビジネスシーン。冒頭の登場人物の胸のポケットに、センサーが内蔵された小型のプロジェクタが隠れているのがそのカラクリです。

プロジェクタとは、画像や映像をスクリーンなどに投影して表示するディスプレイ装置です。プロジェクタの小型化が進み、現在ではビデオカメラやスマートフォンなどにも取り付けられるようになりました。

近年、建物や物体、空間などに映像を投影する「プロジェクションマッピング」が普及しています。研究レベルでは00年ごろに実現しましたが、実用面では、12年に東京駅・丸の内駅舎の復元記念イベントに採用されたのを皮切りに、現在はテーマパークや展示会などで広く使われています。

橋本直己准教授は、このように年々革新が進むプロジェクタを使った応用工学を推進しています。プロジェクタは、基本的にどこにでも映像を投影できます。そのため、あらゆる対象がディスプレイになり、「現実に存在するモノに異なる映像を映すことで、モノの見た目を自在に変えられる」という特徴を持っています。

橋本准教授は特に、映像の持つ「臨場感」や「没入感」に着目しています。映像が人に与える影響は想像以上に大きく、ともすれば、「リアルを超えた存在にもなり得る」と考えています。従来は、コンピュータや、特別な機械を装着したそのディスプレイの中だけで体験していた映像の世界を、「日常の空間で、全身で体感できるようにしたい」というのが橋本准教授の目標です。

いわゆる「仮想現実感(バーチャルリアリティ、VR)」や、拡張現実感(AR)と呼ばれる技術領域に属していますが、現実の体験とバーチャルの体験とを混ぜ合わせることで、日常空間そのものを“没入型VR空間”に変貌させたいと橋本准教授は考えています。それによって、「我々の生活を拡張できるだけでなく、現実世界を書き換えられる可能性もある」と見通しているのです。

あらゆる場所に映像を投影できるといっても、現在のプロジェクタにはまだ多くの課題があります。例えば、室内をディスプレイにしてそこに鮮明な映像を映し出すには、投影する場所にある物体の色を打ち消すような処理をする必要があります。また、歪みを補正せずそのまま投影すれば、映像の形は崩れてしまいます。

橋本准教授はこれらの課題を解決するため、背景に合わせて投影する映像の輝度を補正したり、特殊なパターン映像を投影して位置合わせの精度を上げたりする技術を開発しました。こうした技術を家庭で使えるようになれば、その日の気分で部屋のテーブルやソファの色を変えたり、壁の模様を自在に変えたりすることができるでしょう。

カーテンに映像をそのまま投影した場合
輝度補正後の投影映像

さらに、動く物体にリアルタイムに映像を映し出す技術も開発しました。物体や人の位置、姿勢を高速で認識した上で、そこに映像を投影する動的プロジェクションマッピングです。映像を映すまでの時間(表示速度)は十数ミリ秒まで縮められたそうで、これは従来技術比で約6倍と世界最速を誇ります。実験では、マネキンを動かしながらそこにバーチャルな表情を映し出しました。

映像で人の存在を消す「透明人間」も可能

応用としては、例えばパーティー会場に入ると、フォーマルな服の映像が瞬時に映し出される「着せ替えシミュレーター」などが可能かもしれません。好きなキャラクターに扮(ふん)するコスプレも容易です。エンターテインメント分野だけでなく、車を走らせながら渋滞情報を空間に投影したり、ロボットをより人らしく変身させたりすることもできそうです。

また、橋本准教授は医療応用も見すえており、現在、脳外科手術用の支援システムとして、脳内部の映像を手術台の上の患者の頭に投影する技術を開発中です。

マネキンを動かしながら映像で表情を映し出す

脳のシワで映像と実際の頭部との重なり具合を判断し、2ミリメートルの精度で位置合わせを行うことを目指しています。映像によって手術を補助できれば、例え経験の浅い医師であっても的確な施術が行えるかもしれません。

一方、投影技術だけでなく、投影するディスプレイ自体についても、凸面鏡や霧を使った装置、バルーン型の触れるタイプなど多様なディスプレイを考案しています。

映像でジャケットを着せる様子

このように、無限の可能性を秘めたプロジェクタを企業はどう使いこなし、社会に活用していくのでしょうか。産業界の柔軟な発想力が試されています。

【取材・文=藤木信穂】

変身も自由自在
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