このページの先頭です

メニューを飛ばして本文を読む

ここから本文です

サイト内の現在位置

研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
正本 研究室

脳を計測する「脳活計」を作る

所属 大学院情報理工学研究科 知能機械工学専攻、脳科学ライフサポート研究センター
メンバー 正本 和人 准教授
所属学会 世界脳循環代謝学会(ISCBFM)、国際酸素輸送学会(ISOTT)、日本脳循環代謝学会、日本生体医工学会、日本微小循環学会、日本機械学会
研究室HP http://www.ymdlab.mce.uec.ac.jp/index.html
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

正本 和人
Kazuto MASAMOTO
キーワード

生体医用工学、生体光イメージング、脳計測学、神経血管工学、脳微小循環調節、酸素輸送ダイナミクス、多次元画像解析、生体物質輸送、光遺伝学、二光子レーザー顕微鏡

朝起きて鏡の前に立つと「あなたの脳の活動指数は35%です――」と、今日も脳活計が教えてくれる。「そうか、今日は脳が疲れ気味なので、勉強はほどほどにしてスポーツで汗を流そう」。いつしかこんな日常が当たり前になるかも知れません。

脳の状態をモニタリング

正本和人准教授は、脳の血行動態(血液の状態)を非接触で測って日常生活の脳の状態をモニタリングする、「脳活計」と名づけた脳活動の計測装置の研究を進めています。脳を計測する方法は、現在もMRI(磁気共鳴断層撮影法)やPET(陽電子放射断層撮影法)などがありますが、いずれも装置が大がかりで病院に行かないと測れません。これに対して、正本准教授が目指すのは、小型かつ軽量で身に付けて持ち運べるウェアラブルな計測装置です。正本准教授は「将来は一人一台持つようになるかもしれない」と考えています。
MRIやPETのほかに、光を使った脳の診断装置もありますが、既存の装置は脳の血流の変化を波形のパターンとして表すだけで、脳がどんな状態にあるのかを計測することはできません。体温計や体重計などのように、脳の状態も数値として定量的に示すことができれば、手軽に脳の状態を知ることができるでしょう。

増える脳の病気

こうした研究の背景には、脳の病気の罹患数が増えている現状があります。脳の病気は主に脳血管疾患と精神疾患に大別されます。脳血管疾患は血液の循環に関する疾患であり、がん、心疾患に次ぐ日本人の死因別死亡数の第3位になっています。一方、精神疾患は精神活動に関する疾患であり、糖尿病、がん、脳血管疾患、虚血性心疾患とともに「5大疾病」と呼ばれ、精神疾患の患者数はその中でトップです。精神疾患に悩む患者は年々増え続けているのです。
脳の病気は、たとえ命にかかわらなかったとしても、生活の質の急激な低下を招きます。例えば脳卒中や認知症などは、一度発症すると寝たきりになったり、介護が必要になったりすることが多いことはよく知られています。こうしたことを避けるためにも、正本准教授は、「普段から脳の血行動態を測って血管の機能をモニターし、機能低下の兆候をいち早く察知する『早期診断』が重要だ」と強調します。

血流を測る

二光子レーザー顕微鏡

正本准教授はこれまでに、生体を立体的に撮影して断層画像を得る「二光子レーザー顕微鏡」と呼ばれる光を使った顕微鏡装置を使って、脳を直接見られる状態にし、血流、すなわち「血液の流れ」の速さを解析するソフトウエアを開発しました。この血流の速さに、「血管の直径」と「長さ」の情報が加われば、血流量が測定できます。

生きたまま観察

血流の測定による脳の早期診断はもちろん大切ですが、近年はそれ以上に、病気になるのを未然に防ぐ「予防医学」の重要性が高まっています。と言うのも、脳の病気は治すのが非常に難しいのです。先進医療によって、病気に罹りにくくできるとしたら、それに越したことはないでしょう。
そのために、血流の変化と細胞の活動とを関連づける実験も行っています。脳はさまざまな細胞から構成されていますが、例えば正本准教授は、ニューロンやアストロサイト、ミクログリア、平滑筋、血管内皮、赤血球、白血球など7種類の細胞に異なる蛍光標識をつけ、細胞とその周りにある血液の流れとを一緒に同時に可視化して観察しています。これは、「ブラックボックスである脳の活動を、直接、細胞ごとに生きたままの状態で、かつリアルタイムに観察できるようになった」(正本准教授)ことを意味します。
正本准教授は、今後はより本質的な問題として、脳の血流がいかに神経機能と関連しているのかという、神経科学における血管の役割について明らかにすることを目指しています。2014年には、成体の脳において、血管が新生する様子を初めてライブでとらえることに成功しました。また、光遺伝学の手法を使って、光の刺激によって脳の血流を操作できることも示しました。このような実験から、「血管の機能の低下を抑えることで、神経の機能の低下を防げるかどうかを明らかにすることができる」と正本准教授は考えています。

複数細胞の多色蛍光イメージング

医工の連携

正本研究室の特徴は、工学部に所属しつつ医学部の研究室と密接に協力していることです。「工学が一人歩きしてしまうと、医療に必要なニーズを汲み取りにくい」と語る正本准教授。医療応用を見越したその研究は、理想的な医工連携の実践の形だと言えるでしょう。電気通信大学には、最近、工学系の先生方が中心となって推進する「脳科学ライフサポート研究センター」が新設されました。異分野を超えてつながる「脳科学」研究の一層の発展が期待されます。
【取材・文=藤木信穂】

最初の観察から11日目に新たな血管が生まれた様子
光遺伝学の手法による脳血流への刺激
研究・産学連携