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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
松本 研究室

人とロボットの新しい関係を考える

所属 情報理工学部 総合情報学科
メンバー 松本 光春 准教授
所属学会 米電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会
研究室HP http://www.mm-labo.org/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

松本 光春
Mitsuharu MATSUMOTO
キーワード

知覚情報処理、知能ロボティクス、ヒューマンコンピュータインタラクション、 画像音響処理、パターン認識、ヒューマンインタフェース、セルフアセンブリ、心理学、行動経済学

未来のロボットはどんな姿をしているのでしょうか。ロボットの視覚や聴覚には人工知能の仕組みがふんだんに取り込まれ、人と同じようにフルに五感を働かせているかも知れません。人とロボットは持ちつ持たれつの関係になり、人がロボットに支えられているだけでなく、ロボットも人なしでは有効的に活動できなくなっているかも知れません。自由に設計できるロボットは柔軟性に富んだ存在であり、環境に応じて自在に形を変えることができます。自ら傷を修復したり、自己を複製したりすることも可能になっているかも知れません。

人とロボットの共生

松本光春准教授は、そんなロボットの未来を見すえ、人とロボットの共生のあり方を幅広い観点から研究しています。両者が快適な日常を送るためには、例えば、生物の精巧なメカニズムに学び、その感性をも取り入れたロボットを作る必要があるでしょう。そのために、松本准教授は「従来のロボットの枠組みを外し、全く新しいシステムを作りたい」と考えており、こうした研究を通じて、「生命とは何か」を明らかにしたいと考えています。そこには何か哲学的な壮大な問いも含んでいます。

人工知能で賢い「目」や「耳」

新しいロボットを構想するに当たり、松本准教授は三つのテーマを柱に研究を進めています。一つは知覚情報処理の研究です。ここでは、ロボットの「目」となる画像処理と、ロボットの「耳」となる音響処理の技術開発に人工知能の考え方を導入しています。
例えば、ロボットが人を認識する際に、カメラで撮影した画像の精度が粗かったとしても、人の画像であると容易に判断できるように知的な処理を加えることで、認識精度を高めることができます。また、人の録音した音声から雑音を取り除くなどの際に、ロボットに対する人の命令をある程度知的に予測することで、効率良く音声だけを抽出することができます。こうして開発した“賢い”視覚・聴覚の機構は、将来、小型のロボットに組み込む予定です。

ワガママロボット

二つ目の研究が、ロボットと人とのコミュニケーションに関する研究です。この前提として、松本准教授は、「ロボットはもっとワガママであるべきだ」と考えています。従来のロボットは人を常に支援する存在であり、人は助けてもらう立場でした。しかし、「人を助けるだけでは、必ずしも人の助けにならない」と松本准教授は強調します。例えば、退職した高齢者に寄り添うロボットが、いつも彼の行動を手伝ってしまったら、もしかすると、自ら行動しようとする人の意欲を低下させてしまうかも知れません。
最近では、仕事は何もできず、ただ構ってもらうだけの赤ちゃんロボットや、ペットロボットなどが“癒やし”の対象として人気を集めています。子どもも、「手がかかる子ほどかわいい」、あるいは「駄目な子ほどかわいい」と言いますが、ロボットにもそんな要素が必要だと松本准教授は考えています。例えば、ロボットが人の期待に反して動くことで、人が構ってあげる必要性が生じ、それによって、「人はロボットに対してより愛着を持つようになる」と見ているのです。

ゴミを落とす駄目ロボット

ゴミ箱ロボット

一例として、松本准教授が作ったのが、「ゴミを落としてしまう」ゴミ箱ロボットです。人がゴミを捨てると丁寧にお辞儀をしてくれるのですが、その拍子に、なんと中に入っているゴミを床に落としてしまうのです。人の仕事を増やしてしまう出来の悪いロボットなのですが、その際に、「こぼしちゃってすみません」と謝ってくれるので、「人は仕方がないなと思いながらも、率先してゴミを拾うだけでなく、ロボットが失敗してしまう姿に『愛着がわく』と意外と好評だった」(松本准教授)そうです。このような、「人の行動を促すロボットがむしろ重要だ」と松本准教授は考えています。

自ら複製し、育つ仕組み

最後の研究は、「自ら成長し、育つロボット」を目指す取り組みです。自分自身を複製し、同一の構造物を大量に生成するDNAのメカニズムを模倣するというアイデアを実行しようとしています。ロボットを組み立てる際に、ネジ止めなどをせずに、「まるで料理を作るように、材料を入れ、混ぜたり熱したり、冷ましたりすることでロボットが作れたら面白い」と松本准教授は考えているのです。
実際に、お湯で溶ける低融ハンダを貼り付けた複数の部品を混ぜて煮込み、さらに冷やすと、同種の部品同士がくっついた新しい部品が出来上がります。これを分割すると、同一の構造物が“複製”できることを確かめました。まだ課題は多いですが、これは自己複製ロボットの実現に向けた第一歩と言えるでしょう。
このほかにも、1枚のシートからどんな形にも変化する「折り紙型ロボット」を開発しています。飛行機の形に折り畳めるほか、尺取り虫のように動いて、コインをすくって運ぶ機能なども持っています。こうしたアイデアを基に、環境に適応して自ら変形する、柔軟なロボットが将来、実現できるかも知れません。

多様な学問領域と応用の可能性

松本准教授はいわゆるロボットの専門家ではありません。知覚情報処理をベースに、生物学や化学など多方面へその興味を広げています。ロボットは、科学だけでなく、心理学や行動経済学など多様な学問にまたがってデザインされるべきものです。もっと言えば、高性能なロボットは、車の自動運転や介護システム、新たな乗り物の開発などに役立つでしょう。さまざまな学問を網羅するロボット研究は、ロボット以外のほかの多くの応用を切り開く可能性もあるのです。「それこそがロボット研究の醍醐味」(松本准教授)だと言えるでしょう。

尺取り虫のように動き、コインを拾う折り紙型ロボット

【取材・文=藤木信穂】

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