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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
芳原 研究室

電波を観測し、地震や竜巻、宇宙天気の予測を目指す

所属 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻、宇宙・電磁環境研究センター
メンバー 芳原 容英 教授
所属学会 日本大気電気学会、米地球物理学会(AGU)、電気学会、電子情報通信学会、地球電磁気・地球惑星圏学会(SGEPSS)、国際電波科学連合(URSI)
研究室HP http://www.muse.ee.uec.ac.jp/new_hp/
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掲載情報は2016年5月現在

芳原 容英
Yasuhide HOBARA
キーワード

電磁波工学、人工衛星、プラズマ、電離層、ULF、ELF、VLF、Qds、中間圏発光現象(レッド・スプライト)、地圏・大気圏・電離圏結合、GLIMS、国際宇宙ステーション、雷放電、地震予知、宇宙天気予報、シューマン共振、極端気象予測、世界気候変動、トータルライトニング

2011年に発生した東日本大震災とそれに伴う津波は、我々日本人に深い傷跡を残しました。地震だけでなく、集中豪雨(雷雨)や竜巻など局所的な気象の乱れ(擾乱(じょうらん))現象は各地で起こっており、甚大な被害をもたらしています。世界的には、地球温暖化などの気候変動や台風(ハリケーン)の巨大化が脅威になっており、地球規模で見ると、太陽の表面で起こる大爆発(フレア)などが地球全体を脅かす存在になりつつあります。

地圏、大気圏、宇宙が対象

地上・衛星観測を用いた、宇宙地球環境の監視と予測

こうした自然現象は不可避であるのはもちろん、多くは突然発生するため、予兆をとらえるのが非常に困難です。気象現象一つとっても、通常の天気予報の範囲を超えています。そのような大自然の猛威を前にして、芳原容英教授は、電磁波(電波)を観測することで、「いつ、どこで、どのくらいの規模の自然災害が起こりそうか」という予測を試みる壮大な研究に挑んでいます。

芳原教授は電磁波などの電磁気現象を観測し、「地圏」から「大気圏」、さらには「宇宙」の果てまでを対象とした地球宇宙環境の監視と予測に関する研究に取り組んでいます。自身が構築した観測ネットワークのデータなどを基に、地圏では地震に伴う電磁気現象、大気圏では主に雷の活動、宇宙では太陽活動の地球に与える影響などを研究しています。電磁波の特徴として、長距離を伝わる点のほか、ある物理現象の前に発生する「先行性」が挙げられます。そのため、電磁波は遠隔地から環境の変動を監視したり、予測したりする重要なツールになり得るのです。

地震と電離層擾乱

地震の研究については最近、大きな進展がありました。上空80キロメートル以遠には「電離層」と呼ばれる電磁波を反射する層状の領域がありますが、地震発生の1週間くらい前になると、この電離層が擾乱する異常な現象が起こることが知られています。芳原教授は約5年間にわたって、日本周辺で起こった地震とこれに関連する電離層擾乱の発生状況を調査しました。

その結果、日本の地震に多い「逆断層型地震」に先行して、40〜60%の高い確率で電離層の擾乱が起こることを突き止めました。この擾乱現象は、太陽活動の影響など地震以外にもさまざまな要因が複雑に絡み合っています。今後、高度な信号処理技術などを使ってこれらの外部要因をできるだけ排除し、地震による影響だけを抽出できれば、「地震の短期予測や、いまだ解明されていない異常現象の発生機構の理解につながるかもしれない」と芳原教授は期待しています。

地震に関連する電離層擾乱は、国内の9地点に加え、インドネシアと台湾を含む全11地点に置いたVLF帯(超長波(3キロ―30キロヘルツ))の送信電波の観測拠点をつないだ広範なアジア観測ネットワークを駆使して観測しています。芳原教授自身、ロシアやフランス、スウェーデン、英国での研究者としての勤務経験があり、海外で培った人脈を生かした国際共同研究にも活発に取り組んでいます。

電気通信大学VLF帯送信電波観測ネットワーク(国内ステーション)
インドネシアBengkulu(大学観測点)

雷から竜巻の発生を予測

一方、雷の研究では、全国をカバーする日本初の雷観測ネットワークを構築しています(現在、国内10拠点)。このネットワークを使って、国内の局所的な突風現象(竜巻やダウンバースト)を調べ、突風の発生前に雷の総数(対地雷と雲内雷の合計、トータル雷)が顕著に増加することを確認しました。最近では、竜巻に伴うトータル雷の発生だけでなく、降水量との関係についても研究し、竜巻や集中豪雨の予測を目指しています。

これまでに、竜巻が起こった降水量の多い地域にトータル雷が高密度に分布することや、竜巻が地上に起こる約15分前にトータル雷が急増することなどを発見しました。「既存の気象レーダーによる観測では10分程度かかるが、この法則に基づけば、1、2分おきに結果を提供できる」(芳原教授)との見通しで、竜巻の発生地点や発生時間を予測できる可能性が示されました。

竜巻発生に先行するトータル雷の増加(Hobara et al., AGU, 2015)

雷のハザードマップ作成も

さらに、上記の雷とは別に、雷から発生する電磁波のうち、著しく低い周波数であるELF帯(極極極超長波(3―30ヘルツ))の磁場を北海道と九州で連続的に観測しています。地球上のあらゆる場所で発生したエネルギーの大きい雷を観測できるため、近い将来、「落雷のハザードマップ(災害予測地図)」などが作れるでしょう。落雷エネルギーの大きい雷は、送電線や風力発電設備などに大きな損傷を与えてしまいます。ハザードマップができれば、減災への取り組みとして注目されそうです。

雷は宇宙からでも観測できます。芳原研究室は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に設置された「大規模雷に伴うスプライト(高高度放電発光現象)、および雷放電の高速測光撮像センサ(JEM-GLIMS)」を使った宇宙航空研究開発機構(JAXA)のミッションに参画し、13年に世界で初めて、宇宙から真下の雷やスプライトをとらえました。また、18年に打ち上げ予定のフランスの観測衛星「TARANIS」のプロジェクトにも共同研究者として参加する予定で、現在、これに向けたデータ解析の準備を進めています。

ISSの日本実験棟「きぼう」のイメージ(JAXA提供)
18年に打ち上げ予定のフランスのスプライト観測衛星「TARANIS」 (copyright CNES)

自然に耳を傾ける

併せて、太陽の活動などを調べ、宇宙環境を定常的に監視することで、「宇宙天気」を予測しようとしています。これは、電離層擾乱の影響による通信や放送、全地球測位システム(GPS)などの障害を予測する試みです。地上の観測ネットワークだけでなく、人工衛星を使って宇宙からの電磁波をとらえ、地圏、大気圏、宇宙それぞれの観測データを統合的に解析することで、より精度の高い災害予測を目指しています。

自然を対象にするこのようなスケールの大きな研究は、データの収集に長い年月がかかるうえ、そこには複雑な要素が相互に絡み合うため、一朝一夕には発展しません。だからこそ、「常に『自然に学ぶ』という姿勢を貫き、感性を研ぎ澄ませ、大地のかすかな声にも耳を傾けることが重要だ」と芳原教授は考えています。こうした地道な科学を積み重ねていくことで、「災害予測」という人類のための技術へ着実につながっていくのです。

【取材・文=藤木信穂】

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