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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
大坐畠 研究室

モバイルインターネットをより速く、
より快適に ネットワークを効率良く使う手法を研究

所属 大学院情報システム学研究科
情報ネットワークシステム学専攻
メンバー 大坐畠 智 准教授
所属学会 IEICE、IPSJ、ACM、IEEE
研究室HP http://www.net.is.uec.ac.jp/~ohzahata/index-jp.html
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掲載情報は2015年8月現在

大坐畠 智
Satoshi OZAHATA
キーワード

ネットワーク、インターネット、無線通信、有線通信、無線ネットワーク、無線LAN、クロスレイヤ制御、トラヒック制御、TCP/IP、ネットワークコーディング

研究概要

いつでもどこでもインターネットが現実に

スマートフォンやメディアタブレット、ノートパソコンなどのモバイル機器の多くは、複数の無線インタフェースを装備しています。モバイル機器のユーザーは無線インタフェースを利用することで、いつでもどこでも、インターネットに接続し、テキストや映像、音声などの情報コンテンツを入手できるようになりました。
しかし無線ネットワークを通じてインターネットのコンテンツを入手する作業は、必ずしも快適とは言えません。コンテンツのダウンロードに膨大な時間を要したり、映像再生が途中で何度も停止したり、といった経験をすることが少なくないからです。
ネットワークを通じて情報コンテンツを素早く快適に入手できるようにするには、二つの方法が考えられます(図1)。一つは、ネットワークの物理的な速度を上げることです。もう一つは、ネットワークを使用する効率を高めることです。大坐畠研究室では後者、すなわち、ネットワークの使用効率を高める研究を手がけています。

無線ネットワークの無駄を取り除く

インターネットへの接続技術はそもそも、有線のネットワークを基盤としてきました。1990年代のインターネット接続の主流は有線のローカルエリアネットワーク(有線LAN)です。インターネットと接続する端末はパソコンであり、金属のケーブルを通じてパソコンを有線LAN(イーサネット)に接続していました。接続技術のベースは、イーサネットとTCP/IPプロトコルでした。
有線ネットワークの良い点は、物理的な接続が確実であることです。データはパケットと呼ばれる細かな単位に分割されて伝送されるのですが、送受信の途中でパケットが失われることはあまりありません。
これに対して無線ネットワークでは、ケーブルが存在しません。空中を伝搬する電波によってパケットを伝送します。端末とネットワークの接続は、有線に比べると不安定です。無線のインターネット接続では、空中を伝搬する雑音によってしばしば、パケットの消失が発生します。パケットが消失した場合はデータ通信をやり直しますので、無線のインターネット接続では、有線接続に比べると実効的なデータ転送速度が下がるとともに、データ当たりの消費電力が増加する傾向にあります。
現在のインターネット接続では、無線のローカルエリアネットワーク(無線LAN)が主役となっています。スマートフォンやメディアタブレットなどは基本的に無線LAN経由あるいは携帯電話システム経由でインターネットと接続しており、有線ネットワークのインタフェースは備えていません。ノートパソコンも有線ネットワークのインタフェースは残しているものの、実際の接続は無線ネットワーク経由が主流となっています。
ここで問題となるのが、無線LANでは原則として1チャンネルしか接続が確保されないことです。一つのアクセスポイント(送信サーバー)がカバーする端末が二台以上ある場合は、通信する端末を順番に切り換えることでデータをやり取りしていきます。

図1 研究の方向性。ネットワークを通じた情報の入手を高速化する。

同時に成立する通信チャンネルが一チャンネルしかないので、例えば二台の端末に同じデータをアクセスポイントから送信するときは、一台ずつの送信を二回、繰り返すことになります。このとき何が起きているかというと、宛先でない端末はデータを受信しているものの、自分宛ではないということで、受信したデータを破棄しているのです。
無線でも有線でも、ネットワークは階層構造を形成しています(図2)。電気的にデータを送受信する物理層(PHY層)の上に、アクセス制御を担うMAC層があり、その上にIP層とTCP層が載り、最上層にアプリケーション層が存在するという構造です。宛先ではない端末でも物理層はデータを受信しているのですが、MAC層が自分宛ではないと判断して、データを破棄します。

図2 インターネットのネットワーク階層。

そこで大坐畠研究室では、ネットワーク階層の各層をまたがる制御(クロスレイヤ制御)を導入することによって、同時に二台の端末でデータを受信することを可能にしています(図3)。この場合はデータの送受信が一回で完了するので、実質的にデータ転送の速度が向上し、消費電力が低下します。

図3 クロスレイヤ制御によるデータ送信回数の削減。通常は自分宛ではないデータは、MAC層で破棄される。クロスレイヤ制御によってデータの破棄を防ぎ、同時に複数の端末でデータを受信できるようにする。

またデータをいくつかのピースに分割してから複数の端末がダウンロードする場合、ダウンロードの後半に入ると端末によっては欲しいピースが異なる状況が生まれやすくなります。普通はこのとき、異なるピースを一つずつ送る必要があります。このため、送信回数が増加し、送信完了までの時間と消費電力が増加します。そこで大坐畠研究室では、あらかじめピースのデータを符号化し、符号化したデータを複数の端末に同時に送ることで、送信回数を減らす技術を研究しています。

優先度を偽装した端末を排除する

図4 優先端末とそのほかの端末のスループット。優先端末1台と、そのほかの端末9台とでスループットを比較した。左端の棒グラフが従来のスループット。優先端末のスループットだけが著しく高い。右端から3ブロックの棒グラフは送信側(アクセスポイントやサーバーなど)で端末の待機時間を操作した後のスループット。

このほか、アクセスポイント(送信サーバー)側で各端末の優先度を操作することで、端末側の偽装を無効化することを試みています。通常、各端末の優先度は同じなので、次にどの端末が通信を開始するかは、ランダムに決まります。ところが端末によっては、高い優先度を偽装し、ほかの端末よりも早いタイミングで通信チャンネルを確保するものがあります。こういった端末が存在すると、ほかの端末は待機期間が長期化し、実効的なデータ転送速度が著しく低下してしまいます。そこでアクセスポイント側では、高い優先度を偽装した端末に対してわざと待機時間を長くしておき、端末間でデータ転送速度が偏らないようにします(図4)。
将来の研究テーマとしては、類似候補の推薦によってネットワークの混雑を緩和することを考えています。例えばあるウェブサイトから目的のデータをダウンロードしようとしたときに、サーバーが混雑していてつながりにくくなっているとします。このときネットワーク側で類似のデータを備えたウェブサイトに誘導すれば、混在を緩和するとともに、サーバーがダウンするのを防ぐことができます。
【取材・文=福田昭】

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