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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
横井 研究室

3Dプリンターで作る筋電義手、
臨床応用を目指す

所属 大学院情報理工学研究科 知能機械工学専攻、脳科学ライフサポート研究センター
メンバー 横井 浩史 教授
所属学会 日本機械学会、精密工学会、
計測自動制御学会、
日本ロボット学会
研究室HP http://www.hi.mce.uec.ac.jp/yklab/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

横井 浩史
Hiroshi YOKOI
キーワード

筋電義手、筋電センサ、サイバネティクス、サイボーグ、触覚フィードバック、脳科学、脳機能評価、バイオフィードバック、パワーアシスト、ブレインマシンインターフェース、リハビリテーション、ロボット工学

「筋電義手」は一般にはあまりなじみのない技術かもしれません。筋肉が発する微弱な電気信号(筋電位)を読み取って、自分の意思で手を動かせるようにした電動義手、いわゆるロボットハンドです。先天性障害や事故・災害、疾病などで手を失った人が装着する装置で、欠損した手の役割と機能を担う、文字通り「身体の一部」となるものです。
筋電義手は1960年代にソ連で実用化され、その後、欧米や日本でも相次ぎ製品化されました。しかし、海外に比べて、日本では普及が圧倒的に遅れている現状があります。片側の腕を失った人が筋電義手を利用する割合が日本では数%にとどまるのに対し、米国は約30%、ドイツは70%以上、イタリアでも20%近くあるというデータがあります。
なぜでしょうか。最大の問題は、義手に対する日本の公的支援制度の未整備にありました。日本には労災保険として筋電義手の試験給付制度がありますが、長らく、両側の腕を失った人の「片側の腕」だけにしか支給されませんでした。実際には多数を占める、片腕だけを失った人は制度の対象外だったのです。それがようやく2013年になって、両腕を失った人だけでなく、片側のみを失った人に対しても支給されるようになりました。
当事者にとっては長年望み続けてきたことで、これは画期的な前進です。欧米に遅れること30年以上、筋電義手がついに日本でも一般化することになります。労災保険に加えて、将来は身体障害者福祉法への波及も期待できると言われています。筋電義手は今まさに、時代のニーズに適合した技術だといえるでしょう。
こうした背景から、筋電義手を研究する横井浩史教授が最近開発したのが、“モノづくりの革命”といわれる3Dプリンターを使って、低コストかつ高速に、オーダーメードで作製できる世界初の筋電義手です。一つの義手を24時間で仕上げ、サイズも幼児から大人まで自由自在です。従来は150万円程度だった高価な筋電義手が、3Dプリンターで量産すれば50万円程度まで安価にできる予定で、「これまで筋電義手に手が届かなかった多くの人に使ってもらえるようになる」と横井教授は期待しています。

横井研究室の筋電義手の特徴はこれにとどまりません。従来の筋電義手にはなかった、筋肉の動きを義手に覚えさせることができる「適応学習機能」を備えています。あらかじめ義手を装着する前に、「握る」「開く」「モノをつかむ」などの感覚で筋肉に力を入れてもらい、筋肉が発する電気信号を義手に記憶させておけるのです。
その上で義手を装着し、同じように力を入れてみると、自分の意思で義手の手首や手先を操れるようになります。指の自由度も最近、格段に向上しました。一旦、電気信号を入力しておけば、自分のつかみたいときにいつでもつかむことができるのです。多様な形のモノをつかんだり、体を傾けることなく自然にドアノブを操作したりできるようになりました。搭載したモーターも最新鋭で、「従来は鉛筆を持てる程度の力だったものが、フライパンなどより重いものも持て、自転車の運転も可能になった」(横井教授)そうです。

筋電義手といえば、従来は手の機能を代替することを重要視し、外観は二の次にする傾向がありました。しかし、自分の身体の一部になるのですから、利用者は機能以上に見た目やつけ心地にこだわるはずです。洋服の袖からロボットハンドが飛び出ていたら、必要以上に注目されてしまうでしょう。
そこで横井研究室では、筋電義手にかぶせて使う人工皮膚も併せて開発しています。リアルな手のしわや質感を実現しつつ、柔軟で義手の動作を妨げないよう工夫をしています。最新モデルでは、爪を付けた人工皮膚も開発しました。爪があれば、小さなコインなども正確につまめるようになります。「機能と外観を両立した、安価で使いやすい“個性適応型”の筋電義手を日本に普及させたい」というのが横井教授の思いです。
これらは科学研究費補助金をはじめ、科学技術振興機構(JST)の「A―STEPハイリスク挑戦」など公的な研究費に基づく成果です。2013年には、筋電義手の開発と販売を行う横井研究室発のベンチャー、メルティンMMI(東京都調布市)を設立し、この成果を実用化へつなげる道筋も整いました。筋電義手を身に付ければ、日常生活の動作を改善できるだけでなく、生活の質(QOL)も向上します。就労の機会も拡大し、スポーツや趣味の楽しみも広がります。筋電義手はともすれば、手を失った人だけでなく、そうではない人にも利用が広がる未来が待っているかもしれません。ロボットなどの高性能化にもきっと役立つはずです。

横井教授は筋電義手に加えて、電気刺激装置を使った研究も行っています。神経疾患などで動かなくなった手足に電気刺激を加え、運動回復を行うリハビリテーションへの応用です。神経がまひしていても、筋肉に電気刺激を与えれば、筋肉が収縮し、それまで歩けなかった人が歩けるようになったりします。
筋電義手の指先に使っている触覚センサの研究を出発点として、最近では、電気刺激を身体に与えたときに、その信号を脳がどう受け止めるかという、脳機能の評価にまで研究の関心を広げています。これまでに分かったのは「脳は錯覚を起こす」ということです。人間の脳はトレーニングによってその機能を変えられるというのです。電気刺激のリハビリへの応用はこれからで、横井教授はそのためにも、産業界の協力を強く求めています。
【取材・文=藤木信穂】

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