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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
新谷 研究室

「時間情報」に着目し、ビッグデータから価値を生み出す

所属 大学院情報システム学研究科
情報システム基盤学専攻
メンバー 新谷 隆彦 准教授
所属学会 情報処理学会、電子情報通信学会、日本データベース学会
研究室HP http://home.hol.is.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

新谷 隆彦
Takahiko SHINTANI
キーワード

データ工学、データマイニング、大規模データ処理、並列分散処理、ライフログ

日々蓄積され、刻々と変化する多様かつ膨大なデータは「ビッグデータ」と呼ばれ、その活用に近年、注目が集まっています。しかし、増え続けるビッグデータからいかに価値ある情報を抽出し、知識に変えていくかという研究はまだ緒に就いたばかりです。
種々雑多なビッグデータを解析する手法の一つに「データマイニング」があります。同手法は、データベースに蓄積された大量のデータを解析する技術として登場しました。マイニングは「採鉱」という意味ですから、データマイニングとは、いわば広大な鉱山(ビッグデータ)から金鉱脈を探し出す(マイニング)イメージです。そこでは巧みな探鉱技術(アルゴリズム)が鍵を握ります。
データマイニングの説明で、よく例に出されるのが『おむつとビール』の法則です。何がいつ誰にどれだけ買われたかという商品の購買データを解析した結果、「おむつとビールが一緒に買われることが多い」という意外な併買パターンが明らかになったのです。こうしたパターンを見つけ出す「パターンマイニング」がデータマイニングの原点にあります。
新谷隆彦准教授は正統派のデータマイニングの分野で、特に実用性を重視したアルゴリズムの研究を行っています。以前、企業の研究所で実用価値の高い研究を指向していた経験から、「極端に言えば、美しいアルゴリズムを作るよりも、さまざまな制約条件のある実データから“価値ある情報”を取り出すことを目指したい」と考えています。
そこで新谷准教授は、これまであまり行われてこなかった「時間情報」を効果的に生かす研究に着手しました(図1)。具体的には、人の生活を記録した「ライフログ」をデータとして用い、時間情報に注目して人の行動パターンを抽出することを目指した研究です。この研究によって、「ライフログマイニング」という新しい分野が誕生しました。

図1

例えば、24時間365日ずっと手首に装着し、ライフログが取得できるリストバンド型のセンサが製品化されています。実験では、このようなセンサを使って約600日間にわたって生活を記録しました(図2)。

図2

得られたデータはまず、1日ごとの「行動」に分類します。行動は複数の運動状態の集まりだと考えられるので、センサに内蔵されている加速度センサなどから、「静止時」「安息時」「歩行時」「活動時」「スポーツ時」といった運動状態のレベルに分けます。その上で、各状態が何時から何時まで行われたかという時間情報に変換します。
各状態の「継続時間」と、各状態間の「時間間隔」とを両方考慮するきめ細かな時系列パターン処理を行うのが特徴です。例えば、「8時間睡眠後、朝起きて30分間ランニングする」というパターンと、「30分間昼寝をしてから3時間ジムで汗を流す」というパターンとを分けて抽出することができます。継続時間を考慮していなかった従来の手法では、これらは「寝て起きて運動する」という同一のパターンとして分類されていました。
さらに、それらの行動が行われた順序を考慮することで、普段よく行うパターンと、そうではないパターンとに分けることができます。これによって、ある一日と別の一日の「生活パターンの類似度」を数値で表すことに成功しました。平日と休日の生活の違いなどを明確に導き出すことができます(図3)。

図3

適用シーンとして、まず高齢者やペットの見守りサービスが考えられます。医療現場などでミスにつながりやすい行動パターンを突き止められるかもしれません。もともとライフログは、過去の記憶を呼び覚ます目的で作られました。記憶を無くした人の記憶補助ツールとして、よりきめ細かな治療にも役立つでしょう。
また、生活の記録として考えれば、自分がどのくらい規則的に行動しているかが一目瞭然です。病気の治療中やトレーニング中、ダイエット中などに自ら生活スタイルをチェックできるでしょう。「時間情報を取り入れたライフログマイニングを使って、大規模なデータから人に役立つ情報を提供したい」と新谷准教授は考えています。ビッグデータはさまざまな領域に入り込んでおり、その適用可能範囲は想像するよりずっと広いかもしれません。
実際にゲーム会社と協力し、ソーシャルゲームの過去ログを使って、どんなパターンで行動するプレイヤーが高額課金者になりやすいかなどを予測する研究も行っています。また、ビッグデータを手軽に複数のマシンに分散して処理できるオープンソースのプラットフォーム「Apache Hadoop」を使った研究も手がけています。
連携企業に対しては、「大規模なデータと顧客ニーズさえあれば、さまざまな形の共同研究が見込める。何ができるかを一緒に考え、知恵をしぼりたい」と新谷准教授は言います。研究室で取得したデータではなく、大規模な実データを用いることで実用が加速できるとみているからです。データを提供してもらえるだけでありがたく、決して多くの研究費は望んでいないとのことです。
【取材・文=藤木信穂】 

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