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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
山北 研究室

ナノクラスターの光・電子物性の研究

所属 大学院情報理工学研究科 共通教育部、先進理工学専攻
メンバー 山北 佳宏 准教授
所属学会 日本化学会、日本分光学会、分子科学会、米国物理学会、原子衝突研究協会、強光子場科学研究懇談会
研究室HP http://qpcrbk.es.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

山北 佳宏
Yoshihiro YAMAKITA
キーワード

機能分子、生体関連分子、金属分子クラスター、多環芳香族炭化水素、光反応、化学反応過程、ペニング電子分光、立体反応画像観測、質量分析、ナノテクノロジー、量子化学計算

研究概要

誰も見えないものを、見えるようにしたい

当研究室では、真空中に浮かぶ1つ1つの分子とナノクラスター(集合体)を対象にして、形や構造、さらに、どこが化学反応で機能する場所なのか、どこが生命活動の機能に関わる場所なのかなどを、究極の感度で決定することを目指している。従来の測定器ではできなかった観測を可能にし、デバイスや生命現象の本質に関わる化学現象の基礎を解明している。
分子を真空中でビームにすることによって、周囲に何もない孤立した低温状態の分子を生成することができる。
研究テーマは、2つの装置と理論計算をもとにした、以下の3つである。

気相ナノクラスターと生体分子を超高感度で電子分光

当研究室は、磁気ボトル効果を用いて、連続的に放出される電子の捕集効率を1000倍程度に高め、世界最高感度で電子エネルギー分析できる装置を開発した。強磁場と弱磁場を組み合わせた不均一磁場では「磁気ボトル効果」が生じ、全立体角方向に放出された電子を捕集することができる。
この世界最高感度のペニング電子分光器を用いると、当研究室しか見えない物質や化学反応を発見することができる。これまでは見えないと言われていた希薄な物質、例えばナノクラスターや気相微量生体分子を測定できる。また、分子量が大きなタンパク質や生体物質に適用できれば、化学反応に関与する外に露出したフロンティア領域のみを選択的に見ることができるのが特徴である。これまでに希ガスクラスターやアミノ酸についての実験に成功している。

真空装置はすべて自作

クラスターの創製と並進運動の制御

ナノクラスターは原子や分子が数~数1000個集まった物質である。その構造や化学反応性は気相で最も高感度かつ精密に研究することができ、新規ナノクラスターの発見や、生命現象を理解し人工的に模倣する基礎になる。
分子やクラスターは、励起されると電子と正孔の対をつくり、これが化学結合の解離や電子移動につながる。当研究室では、励起状態における化学反応を真空中で動的かつ立体的に追跡する観測手法を開発している。通常は固体や液体である物質を、真空中でビームにすることで1分子として取り出し、原子と分子からなるナノクラスターを創製する。そしてレーザーで光解離反応させると、イオンのフラグメントが花火のように飛ぶので、これを画像として撮影する。この画像から化学反応の生成物のスピード・向きがわかる。本装置は、電場でビームを反射させる装置という点で特殊な方法をとっており、見たいものだけを選択的に見ることができるため、混合物であるクラスターにおける特定のクラスターの反応を見るのに有利である。

多環芳香族炭化水素の振動分光

多環芳香族炭化水素(PAH)は、分子デバイスやナノカーボンを構成する物質で、環境汚染物質の1つである。
当研究室では、任意の形状をしたPAHの振動状態を精度良く予測できる計算手法を打ち立て、ベンゼン環のつながったグラフェンナノリボンの振動分散関係を2007年に世界で初めて構築した。また、実験的にも赤外・ラマン分光法を用いてベンゼン環の関わる分子振動の様子を明らかにした。これらの研究は、種々の炭素クラスターの特異な電子状態の解明に大いに役立つと言える。

アドバンテージ

究極の感度を追求し、微量な物質を逃さない

反射型飛行時間質量分析計を用いた化学反応イメージング装置

当研究室では、装置をすべて自作することを基本にしている。ものづくりで一番大事なことは、自分の手を動かすことだと思っており、試行錯誤は大変ではあるが、楽しみながら改良を重ねている。現代では当たり前になっている無線通信の技術も、かつてマルコーニが屋根裏部屋で実験を繰り返すことによって発明されたのである。技術力を身につけつつ、新しい現象の発見と方法の開拓にチャレンジしている。
装置の製作では、感度を究極に上げることにこだわっている。例えば、超高感度電子分光装置では、従来法に比べて1000倍の感度を出すことができた。2000年この装置を使って気相クラスターのペニング電子分光に世界で初めて成功している。感度が上がると、これまでは見えないと思われていた希薄な物質が見えるようになる。つまり未踏のナノ物質の化学を探索できるようになるのである。

ナノカーボンの振動状態を、シンプルな理論計算で裏打ち

あくまでも当研究室は実験を重視しているが、複雑な現象を裏打ちするために理論計算(量子化学計算)にも力を入れている。そうすることによって、1つ1つの分子に注目し、何が起こっているかを正確に把握することができる。
先述の、任意の形状をしたPAHの振動状態を予測する理論計算モデルは、大型コンピュータによる大規模計算と同レベルの精度を持ち、しかも圧倒的に速くナノカーボンの予測計算を可能にする。
我々がグラフェンナノリボンの振動分散曲線を世界で初めて報告したのは2006年であるが、当時は大型コンピュータを使った大規模な計算方法しかなく、途方に暮れるような状況で我々のアプローチは画期的であった。実在するナノカーボンの振動特性を、パソコンで計算可能なほど非常にシンプルなモデルで精度良く計算できた。つまり、従来の計算方法では到底できないようなナノカーボンの物性を、たちどころに予測してしまう理論計算方法を開発してきている。

ナノ秒パルスレーザー

今後の展開

リフレクトロンを用いた化学反応のイメージング装置を発展させ、ナノクラスターの構造と反応を解明したい

TiO(CH3COCH3)3+クラスターの分子構造

これらの研究を発展させることにより、さまざまな方面に応用できると考えている。特に、超高感度の電子分光装置は、PAHなどの微量な大気汚染物質や特定の生体関連物質を検出するのに役立つ。簡便で手軽に持ち運べる分析装置への応用が可能だ。
また、今あるナノカーボンをモデルとした理論計算を、ナノチューブやナノワイヤーの力学的特性に拡げたらどうなるかを調べ、炭素をベースとしたエレクトロニクスの先駆けとなるような研究を進めて行きたい。
さらには、太陽電池や光合成のような、光に反応するナノ物質や分子化合物を分析することができれば、人工光合成のデザイン開発や太陽電池の高効率化を実現できると思っている。また、携帯電話用電池や有機ELディスプレイなどに応用されている機能ナノ材料を真空中で創製することや、状態制御した分子線を固体表面に蒸着する手法の開発などに発展させられると期待している。

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