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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
鷲沢 研究室

聴覚や視覚を利用した使いやすい脳インタフェースの研究 

所属 大学院情報理工学研究科
情報・通信工学専攻
メンバー 鷲沢 嘉一 准教授
所属学会 米電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会
研究室HP http://wasip.cei.uec.ac.jp
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掲載情報は2016年10月現在

鷲沢 嘉一
Yoshikazu WASHIZAWA
キーワード

脳コンピュータインタフェース(BCI)、機械学習、生体信号処理

脳波を使って、パソコンや機器を操作する脳コンピュータインタフェース(Brain-computer Interface:BCI)の研究が世界的に盛んに行われています。
パソコンではなく、機械を操作する場合には、特にブレイン・マシン・インタフェース(Brain-machine Interface:BMI)と呼ばれ、一般にもその用語が定着しつつあります。筋萎縮性側索硬化症(ALS)や閉じ込め症候群など、体を動かすことのできない病気の患者や高齢者のためだけではなく、最近ではスポーツ分野などで人間の機能を拡充する先端的な取り組みとしても注目されています。
鷲沢嘉一准教授はこうした分野で、聴覚や視覚を使った新しいBCIを研究しています。テーマの一つは、自然言語を利用した聴覚BCIです。聴覚を使う聴覚BCIは、視覚を使う視覚BCIに比べて、被験者に情報を提示するための刺激を簡単に与えられるという利点があります。
従来の聴覚BCIはパルス音や変調音などを刺激として使っていたため、ある刺激がどんな命令に対応するかを被験者に事前に覚えてもらう必要がありました。これに対して、鷲沢准教授は人が日常で使う「自然言語」を活用した聴覚BCIを開発しています。「ユーザーにとって使いやすいBCIでないと普及しない」と考えるからです。
実験では、「上(ジョウ)」「下(ゲ)」「左(サ)」「右(ユウ)」という四つの音をランダムに記録した約5秒間の録音データを、複数のスピーカーから流して繰り返し被験者に聞かせます。被験者が「上」というコマンド(命令)を選択したい場合、「上」という音が聞こえたと同時に、「1回」「2回」と「上」が聞こえた回数を、頭の中だけで声を出さずに数えてもらいます。その間、被験者の頭皮に16チャンネルの電極を置いて脳波を計測します。
脳波から、思考の結果として脳に生じるP(陽性)300と呼ばれる「事象関連電位」反応を抽出します。ただ、1回の脳信号でこの反応を見つけることはできません。そのため鷲沢研究室では、確率的な意味で推論する統計学などに広く応用されている「ベイズ推定」手法を使って、数百回の脳信号を平均し、反応の特徴を探す信号処理を行っています。
被験者が頭の中で数を数えた時には、刺激提示後の脳波にP300反応を示す山が現れます。反対に、数を数えていない時には山は現れません。この手法を使って実験データを解析した結果、被験者が「上」を選択したいのか、あるいは「下」を選択したいのかという命令を、高精度かつリアルタイムに判別することができました。従来手法に比べ、最大で3・9%の識別率の向上を達成しています。

視覚刺激によるP300の例:視覚刺激提示から500-600ms後に正のピークが見られる

さらに、刺激の与え方には工夫の余地があります。例えば、スピーカーの数を増やすだけでも識別率の向上に寄与するとみられます。「試行錯誤しながら、より識別精度の高い聴覚BCIの開発に向けて技術を改良していきたい」と鷲沢准教授は考えています。
一方で、視覚BMIの研究も行っています。従来の視覚BMIは前述のP300だけを使って解析していますが、鷲沢准教授が開発した視覚BMIは、P300に加えて、検出が難しいN(陰性)100の事象関連電位を世界で初めて使っています。
アルファベット文字を点滅させて表示し、選択したい文字が光った時に頭の中でその文字が出現した回数を数える実験を行います。P300とN100とを組み合わせることで、脳波を効率良く識別できるようになりました。

従来は6×6の行列として文字を配列していました。これに対して、新しい提案方法は2×2の簡易な表示であり、さらに文字を表示している時間が短いにもかかわらず、従来に比べて識別性能を約1・5倍に高めました。こうした技術の改良によって、例えば、ユーザーが見やすいように文字表示を大きくしたりできます。
このほか、グラスマン多様体と呼ぶ数学的手法を使った新しいパターン識別の研究も行っています。グラスマン多様体とは「空間の集合」を表す概念です。平面のベクトル同士の距離を測る従来のパターン認識とは異なり、空間の距離を求めることで識別する手法を開発しました。

P300 Spellerの実験の様子

顔の識別に応用した場合を例に挙げると、横顔や斜めを向いた顔、表情が異なる顔なども同一人物として検出することができます。従来は難しかった3次元物体の識別精度が飛躍的に高まります。「カーネル主成分分析」と呼ばれる非線形な特徴抽出手法を取り入れることで、計算量を大幅に減らし、実用的なアルゴリズムに組み込めるようにしています。
鷲沢准教授の研究は高性能なBCIの開発にとどまらず、広い意味でとらえれば、「ロボットの目」を作るいわゆるコンピュータビジョンの分野へ飛躍させることも可能でしょう。「聴覚、視覚に続いて、触覚を使った研究もいずれ始めたい」と話す鷲沢准教授は、数式とシミュレーションを駆使して理論と実証を行き来しながら、ユーザーの視点に立った新しいインタフェースの開発を目指しています。
【取材・文=藤木信穂】

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