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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
宮脇 研究室

人間の脳の活動を読み取り、
目に見える形で再現する

所属 先端領域教育研究センター、 脳科学ライフサポート研究センター
メンバー 宮脇 陽一 准教授
所属学会 日本神経回路学会、
日本神経科学会、日本視覚学会
研究室HP http://www.cns.mi.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

宮脇 陽一
Yoichi MIYAWAKI
キーワード

脳神経科学、知覚、感覚、視覚、触覚、ニューラルネットワーク、人工知能、医用生体工学、自然言語処理、ブレインマシンインタフェース、義肢

「何を見ているか」が脳の活動から分かる

図1 人間が見た画像を、脳の活動を読み取ることで再構成する。この手法を「脳情報デコーディング」と呼んでいる。
図2 人間が見た画像を、脳の活動を計測して再構成した結果。最上段は被験者が実際に見た画像を左右にならべたもの。上から2段目より下は、脳活動から再構成した画像。1つの画像について実験を8回実施しているので、再構成した画像は8列ある。最下段は、再構成した画像の平均値。なお実際には、点滅するチェッカボードのパターンを被験者は見ている。この図では分かりやすくするため、コントラスト値をグレースケールに変換して表示した。

宮脇研究室は、2012年度に活動を始めた新しい研究室です。研究室を主宰する宮脇さんは、東京大学大学院の博士後期課程を修了後に、独立行政法人理化学研究所で2001年から2006年まで研究員をつとめてきました。そして株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)に異動し、2006年から2012年まで研究員をつとめています。
宮脇さんは大学院のときに、脳の研究と関わりました。脳波を計測して、人間が物を見る仕組みを理解する研究を手掛けたのです。最初の職場である理化学研究所では、脳の活動をモデル化する理論の研究に取り組みました。そして次の職場であるATRでは、人間が見た画像を脳の活動から再構成する研究で、非常に大きな成果を上げました。
人間が見た画像を脳の活動から予測する研究はそれまで、二者択一のような比較的基本的なレベルにありました。例えば被験者に「クルマ」の画像と「オートバイ」の画像を見せて脳活動の違いを計測し、二者のどちらを被験者が見ていたかを判定するモデルを構築するというものでした。これに対し、宮脇さんらが取り組んだのは「どんな画像でも脳活動から再構成する」という、きわめて野心的なテーマでした(図1)。そして実際に10画素×10画素の画像を脳活動から再構成することに成功しました(図2)。

脳活動の変化は血流の変化に現れる

図3 「fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)」装置による脳活動の計測。脳を「ボクセル」と呼ぶ3ミリ角の小さな立方体に分割して、血流量の変化を観察する。

この研究で威力を発揮したのが、「fMRI(functional Magne-tic Resonance Imaging)」と呼ぶ、脳の血流量の変化を計測する装置です。fMRIは空間的な分解能が高く、3㎜角の立方体の領域(「ボクセル」と呼びます)で血流の変化を見ることができます(図3)。脳全体の血流の変化を計測するために必要な時間は約2〜3秒。ボクセルの数は約10万です。
脳の神経細胞が活動すると、酸素が消費されます。酸素を運ぶのは血液(正確には血液中のヘモグロビン)ですから、酸素が不足した領域では血液の流量が増えます。この変化をfMRIで捉えているのです。このようにして、3㎜角の単位で脳活動のパターンを計測します。
脳の中で視覚に関する領域は、ボクセルの数にすると数千個のオーダーになります。被験者に画像を見せ、この数千個のデータを取得することで、画像を再構成するモデルを構築していきます。具体的には、画像を小さな画素に分割し、画素の状態を並列に予測します。それから、並列に出力した数多くの予測値を組み合わせることで画像を再構成します。
宮脇さんらが開発した手法では、わずか数百のパターンの画像を見たときの脳活動をfMRIで計測することで、一億通りを超える画像を脳活動から予測することに成功しています。

物体を認識する速さの違いを作るもの

図4 宮脇研究室が取り組んでいる主な研究テーマ

宮脇研究室は活動を始めて2年目の若い研究室です。にもかかわらず、すでに二つの研究テーマで成果を上げつつあります(図4)。
一つは、「物体の認識」に関するものです。人間が物体を見てから、その物体が何であるかを認識するまでには、ある程度の時間がかかります。認識に要する時間は、常に一定なのでしょうか。あるいは、物体や画像などの種類によって違うのでしょうか。違うとすれば、それはなぜなのでしょうか。これらの疑問を脳活動の測定から、解き明かそうと試みています。

いろいろな感覚の相互作用

もう一つの研究テーマは、触覚と視覚、聴覚の相互作用に関するメカニズムの解明です。人間の脳では、触覚や視覚などの感覚をつかさどる領域は分かれています。例えば視覚をつかさどる「視覚野」と呼ぶ領域は、後頭部に存在します。
通常、人間は身の回りの世界を眼で認識します。それでは眼の見えない人は、どのようにして世界を認識しているのでしょうか。それは触覚や聴覚などです。
特に手の触覚は鋭敏です。この触覚による認識を利用したのが「点字」です。点字は縦3列×横2列の突起で、突起の有無によって文字を表記しています。
これまでは触覚をつかさどる部分と視覚をつかさどる部分はそれぞれ独立に機能していると考えられていました。しかし実際には、視覚と触覚は相互に作用しているらしいのです。そこで宮脇研究室では、この相互作用の仕組みを解明する研究を進めています。
このほか新しい研究テーマとして、手足の運動に伴う脳の活動を測定しています。まず手の運動の仕方の違いによる脳活動の違いを計測し、脳活動から手の運動を予測するモデルを構築しようとしています。

できるかどうか分からないからこそ、まずはやってみよう

宮脇さんが「どんな画像でも脳活動から再構成する」という研究テーマに取り組んだとき、周囲の反応はあまり芳しくありませんでした。否定的であったり、懐疑的であったりしました。漠然としていて、SF(サイエンスフィクション)のような印象を持たれる方もいらっしゃったでしょう。そして研究は苦労の連続でした。始めはfMRI装置の分解能が十分ではなく、また、測定結果を解析する技術も未熟でした。何度も心が折れそうになったと言います。しかし分解能の高いfMRI装置を使い、宮脇さんの共同研究者が素晴らしい解析アルゴリズムを開発したことなどにより、研究を大きな成功に導くことができました。
最先端の研究とは、分かっていることと分かっていないことの境界を拡張することでもあります。最先端の研究テーマとはすなわち、「できるかどうか分からないこと」なのです。「これ、できるんでしょうか」と言われるような最先端のテーマに挑戦し続けたいと宮脇さんは語ってくれました。
【取材・文=福田昭】

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