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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
羽田 研究室

音をもっと楽しくする、
音メディアでコミュニケーションの世界を探る

所属 大学院情報理工学研究科
総合情報学専攻
メンバー 羽田 陽一 教授
所属学会 IEEE、日本音響学会 、
電子情報通信学会
研究室HP http://www.hanedalab.inf.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

羽田 陽一
Yoichi HANEDA
キーワード

サウンド、音響、音声、オーディオ、
マイクロホン、スピーカ、指向性、エコー、デジタル信号処理

エコーキャンセルと音の空間伝搬を以前に研究

羽田研究室は2013年春に本格的な活動を始めた、新しい研究室です。研究室を主宰する羽田さんは、2012年10月に本学の教授に赴任しました。それまでは日本電信電話会社のNTTメディアインテリジェンス研究所で、音響に関する研究に携わってきました。
羽田研究室が手がけているのも、音響に関する研究です。自らを「音メディア(Sound Media)」の研究室と称しています。NTTメディアインテリジェンス研究所で羽田さんは、二つのテーマに取り組んできました。一つはエコーキャンセル技術の研究です。
テレビ電話あるいはハンズフリー電話機の音響システムは、声を拾うマイクロホンと、声を届けるスピーカで構成されています。例えば、AさんとBさんが電話によって会話しているとき、Aさんのスピーカから出るBさんの声の一部は、Aさんの電話機のマイクロホンに入り込みます。マイクロホンに入り込んだBさんの音声は、電話回線を通じてBさんの電話機のスピーカに届きます。するとBさんは電話機のスピーカを通して自分の声をわずかに遅れたタイミングで聞くことになります。これがエコーで、電話の通話品質を劣化させる要因の一つです。
日本電信電話(NTT)はご存知のように電話会社ですから、エコーを減らす技術(エコーキャンセル技術)は重要な研究開発テーマになっています。
NTTで羽田さんはエコーをキャンセルする技術の開発を手がけるとともに、スピーカから出る音声がマイクロホンに入るまでの伝搬の様子に興味を持ちました。この伝搬の様相には、スピーカとマイクロホンの位置関係や、電話機を置いた部屋に固有の響きが、影響を与えます。例えば部屋に固有の響きはスピーカとマイクロホンの位置関係に依存しませんので、あらかじめ部屋に固有の響きを抽出しておけば、エコーの音声信号から部屋の影響部分をある程度事前に分離できるようになります。

マイクロホンアレーで欲しい音だけを集める

図1 羽田研究室が取り組む研究の全体像。音を録り、音を分析・加工し、音を再生する。これらの3つについて研究している。

こういったコミュニケーション手段としての音の研究を、本学の羽田研究室ではさらに押し進めようとしています。音の研究を大きく分類すると、音の採取(収音技術)に関する研究、音の分析と加工(情報処理技術)に関する研究、音の再生(音場制御技術)に関する研究となります。これらの技術を駆使することによって、欲しい音だけを拾う、欲しい音だけを届ける、臨場感の高い音響空間を形成する、といったことを実現しようとしています(図1)。
始めに、音の採取に関する研究をご紹介しましょう。欲しい音だけを拾うために、羽田研究室では複数のマイクロホンを並べたマイクロホンアレーを研究しています。マイクロホンアレーは普通、マイクロホンを1列に並べておき、マイクロホンから見た目的の音源(ターゲット音声)の方向と雑音源の方向が異なることを利用してターゲット音声だけを取り出していました。言い換えるとマイクロホンは中空に浮かんでおり、目的の音源から反射や回折などがない状態でマイクロホンアレーに届いた音声を収集していました。

図2 マイクロホンアレーの研究例。頭部に見立てた球体にマイクロホンアレーを配置することで、反射や回折などの情報を含んだ音を採取する。
図3 反射や回折などの情報を含んだ音を採取し、デジタル信号に変換してから処理を加えることで、雑音を抑える。

これに対し、人間の頭部のようにわざと反射や回折などを生じさせた状態にマイクロホンアレーをレイアウトすると、反射や回折などによって遅れて到着した音声も拾えます(図2)。マイクロホンアレーで収録した音声信号をデジタル信号処理することで、信号対雑音比(SN比)を高めることが期待できます(図3)。
また音源の方向が異なることを利用してターゲットと雑音を分離する従来の方法では、雑音源とターゲット音源がまったく同じ方向に存在する場合、雑音の分離が困難になります。そこで羽田研究室では、雑音源とターゲット音源ではマイクロホンアレーまでの距離が異なることを利用して雑音を分離することを試みています。

スピーカの指向性をダイナミックに制御する

図4 複数のスピーカを並べて指向性を持たせる。正十二面体の各面にスピーカユニットを配置した。12個のスピーカユニットから振幅と位相の異なる音を発生し、指向性を自由に制御する。

続いて、音の再生に関する研究をご紹介しましょう。欲しい音だけを届けるために、羽田研究室では複数のスピーカを並べたスピーカアレーを研究しています。球体に数多くのスピーカユニットを配置し、各スピーカユニットから異なる位相と振幅の音声信号を発生させることで、全体として音の指向性を制御するスピーカの実現が期待できます。すでに球体を模擬した正十二面体の各面にスピーカユニットを配置した、スピーカアレーを試作しています(図4)。
このスピーカアレーのユニークな点は、各スピーカユニットから発生する音の振幅と位相を時間とともに変化させることで、指向性を時間的に変えられることです。これにより、音の出る方向を揺らすといったことで音の新しい表現の可能性を探ろうとしています。
また音の振幅は通常、音源からの距離に反比例して減少します。言い換えると音声は、ある程度の距離まで漏れ出すということです。羽田研究室では音を一定の領域に閉じ込めることで、電話会議の音声や音楽の再生音などが周囲に漏れないようにすることを考えています(図5)。具体的には、数多くのスピーカユニットを円環状に並べたアレーによって音声を再生し、音源からの距離に反比例するよりも急峻に音の振幅が減少する音場を形成しようと試みています。

音を録ることの可能性を広げる

図5 壁や遮蔽物などを使わずに、音を閉じ込める。スピーカユニットを円環状に配置し、各ユニットから出力する音の振幅や位相などを変えることで、音の閉じ込めを試みている。

デジタル技術の進化と普及は録画や録音などの世界を大きく変えました。誰でもデジタルカメラによって手軽に写真や映像を撮影し、楽しむ時代が到来しています。パソコンで写真を加工するも珍しくありません。
しかし音の世界では、デジタルのオーディオを聴いて楽しむ環境は普及しているものの、音を自由に録音する環境が整っているとは言い難い状況です。マイクロホンによる録音をもっともっと研究すべきだと、羽田さんは考えています。例えばカメラのズーム機能のように、マイクロホンにもズーム機能があったら面白いし、やるべきだといいます。
こういった音に関わる付加価値の研究は先行きが見えづらく、企業が手がけづらいテーマです。大学に適した研究分野だと言えます。
【取材・文=福田昭】

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