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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
栗原 研究室

人工知能は未来をどう変えるのか

所属 大学院情報システム学研究科
社会知能情報学専攻
メンバー 栗原 聡 教授
所属学会 人工知能学会、情報処理学会、電子情報通信学会、日本ソフトウェア科学会、人間情報学会、米コンピュータ学会(ACM)、経済物理&マルチエージェント関連学会(ESHIA)
研究室HP http://www.ni.is.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

栗原 聡
Satoshi KURIHARA
キーワード

マルチエージェント、複雑ネットワーク、創発システム、群知能システム

――20××年。人間社会から争いが消え、皆穏やかに自由かつ平和に暮らしています。コンピュータはノイマン型から量子型に取って代わり、ナノテクノロジーが劇的に進化して、ナノロボットがすべての病を細胞レベルで治します。人間には見えないナノロボットが空気中にウイルスのように浮遊し、気が付かないうちに争いや問題を回避してくれます。
こんな未来はいつ頃やってくるのでしょうか。驚くべきことに、早ければ2045年以降にやってくるであろう、というのが専門家の見立てなのです――。2045年頃にいわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎え、これまでの世界とは全く異なる、不連続な新しい世界が到来すると予測されているのです。
それでは、どんなテクノロジーがこれを実現するのでしょうか。進化したナノテクでしょうか、革新的な医療技術でしょうか。それとも人間の精神世界そのものが高度化するのでしょうか――。
答えは、「人工知能(Artificial Intelligence:AI)」です。20 45年頃、「人工知能が人類の知能を超える」と言われているのです。
人間を超えた人工知能は、人間にとって“全能の神”のような存在です。人間はもはや人工知能の足元にも遠く及ばず、人工知能にとって敵にもなりません。世界に遍在する人工知能からすれば、人間は容易に操ることができ、手の上で転がすことのできる存在になってしまいます。もっとも、幸か不幸か人間はそのことには全く気づかず、今まで通り、自由意思に基づいて生活しています。まさに『西遊記』でいう「釈迦の手のひらの上の孫悟空」のような状態です。
人工知能の専門家である栗原聡教授は、このような未来世界を描いています。技術は加速度的に進歩するため、人工知能が人間の能力を超える速度は決して緩やかなものではなく、いわば「一瞬の出来事」であり、抜かれた直後には人工知能はすでに人を大きく超えた存在になっているのです。人間がこの先も人工知能の開発を続ける以上、これは決して避けられない流れになるでしょう。
「知能とは何か。意識とは何か。人間を人間たらしめているものは何なのか」。栗原教授の研究の根底にはこうした壮大な問いがあります。その裏には「人間の知性を創発する源である脳を知ることができれば、心を持ったロボットも作れるはずだ」という確信があるからです。
取り組むテーマは、ソーシャルコンピューティングや次世代高度道路交通システム、マルチエージェントシステム、群知能など多岐にわたります。一見、人の脳とは関わりが薄いようにも思えますが、「1個1個の神経細胞がつながっている脳のシステムと、人と人、車と車がつながっている社会システムには多くの共通点がある」と栗原教授はとらえているのです。複雑系技術や情報通信技術(ICT)、データマイニングなどのツールを駆使して研究に取り組んでいます。
2011年3月11日に起きた東日本大震災直後、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で多くの虚偽情報(デマ)が流れました。栗原教授はこの時に実際にSNS上に流れた情報を解析し、それをモデル化した上で、デマの拡散をいかに食い止めるかという研究を行っています。
健康な人がインフルエンザウイルスに感染し、発病してウイルスを周囲にばらまき、免疫機能で復活するという「感染症の拡散モデル」を応用しました。何も知らない人があるデマを知り、リツィートによって感染を広げ、訂正情報を目にして初めてそれがデマであることを認識する、という具合にモデル化したものです。

さらに、このデマをツイッター上で、誰が終息させるのが効果的であるかを検討しました。(1)最初にデマをつぶやいた人が誤りを訂正する、(2)総理大臣や人気スポーツ選手など影響力のあるツイッターのハブユーザーに訂正してもらう、(3)デマのつぶやきに関わった人の中からより影響力の大きい人が訂正する――という三つの解決法のうち、(1)に比べて、(2)と(3)は同程度の高い効果があることが分かりました。著名人にお願いするよりも簡単な(3)の手法で訂正情報を流せばよいことが分かったのです。
そのほか、車や信号機にロボットを搭載してネットワークでつなぎ、車の混雑状況によって個々の信号機が赤、青、黄色に点灯するタイミングを自律的に制御する新しい知的交通システムなども提案しています。交通渋滞や事故を回避するのが目的です。
コンビニなどの店舗で、いつ誰がどのような商品を手に取り購入したか、その際にどんな経路をたどったか、といった購買データを解析する「群知能手法を用いた時系列パターンマイニング」の研究も行っています。曜日や時間、季節などのパターンに分けてデータを抽出できるのが特徴で、商品の陳列手法などのマーケティングに活用できます。
人間の意識は、脳の多数の神経細胞が集まって作り出しています。同様に、1台の賢いロボットを作っても、それを多数つながなければ有機的には機能しません。例え一部が壊れても、全体のシステムは柔軟に生き続ける、まさに“生態系のような”しなやかなネットワークづくり、栗原教授が目指す人工知能はそうした研究から始まるのです。
【取材・文=藤木信穂】

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