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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
佐藤(証) 研究室

都市型ICT農業の提案と、世界標準の暗号評価ボードの開発

所属 大学院情報理工学研究科
情報・通信工学専攻
メンバー 佐藤 証 教授
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

佐藤 証
Akashi SATOH
キーワード

ハードウェア、組み込み、センサネットワーク、IoT、ビッグデータ、情報セキュリティ、暗号、GPGPU、農業

明るく、楽しく、おいしい研究室を目指す―。そんなモットーを掲げ、「ゲームやパズル、料理グッズなどの設備を充実させ、日々、 研究環境を整えている」と話す佐藤証教授。その研究室にひとたび足を踏み入れれば、清潔なキッチンや食器棚、おしゃれなソファが美しく並んだ空間に驚くことでしょう。 まるでカフェに入ったかのような居心地の良さです。
日本IBM、産業技術総合研究所を経て2013年に電気通信大学に着任した佐藤教授は、教育や論文発表にとどまらず、ベンチャー企業を立ち上げるなど研究成果の事業化を積極的に進めています。 「コンピュータの中だけで研究していても意味がない。工学は世に出て初めて価値を生む」と考え、「世の中に広まった研究が良い研究である」との信念を持って取り組んでいます。

農業を労働からサービスへ

一つの研究領域にとどまらないのも佐藤研究室の特徴です。佐藤教授はこれまで、LSIの開発や暗号技術の研究などいわゆるハードウェアの研究開発をメインに行ってきました。 こうしたバックグラウンドを生かして、現在取り組んでいるのが「農業」です。「農業はこれまで作物の生産が目的だったが、 これからは農業それ自体がサービスになり得る」と佐藤教授は見通しており、「都心で栽培や収穫を楽しむ」スタイルの次世代農業を広めたいと意気込んでいます。

昨今、栽培の楽しみや食育などの観点から、入園者が収穫する観光農園やレンタルファームなどの人気が首都圏を中心に高まりつつあります。 こうした潮流もあり、従来は地方の農地で行われていた農業を都市部へ移し、さらに、栽培や収穫を単なる「労働」ではなく、「サービス」として提供しようという新しい試みです。

ICTを活用した水耕栽培

空宙栽培方式で育てたフルーツトマト

これを実現するために、佐藤教授が現在取り組んでいるのが、情報通信技術(ICT)を活用した水耕栽培の研究です。水耕栽培は土を使わずに水だけで栽培する生産方式です。その中でも佐藤教授は、作物を上からぶら下げて、水をパイプで上から流す「空宙栽培」と呼ばれる新しい栽培方式の普及を進めています。
空宙栽培は通常の水耕栽培と違い、空中に浮いた根が自由に伸びるため、作物の成長が促進される利点があります。化学農薬を使わず、土壌や地下水も汚しません。その上、水を一定量以下に制限することで、高糖度のフルーツトマトなどを作ることができます。

天候に左右されにくい特徴を持つ植物工場として、発光ダイオード(LED)や蛍光灯などの人工光による屋内型も増えていますが、電気代や栽培スペースのコストの問題から、栽培できるのは葉物野菜が中心です。これに対して、佐藤教授は太陽光を利用し、多種の果菜類を育てられる水耕栽培システムを開発しています。センサーを使った高効率な栽培方法がその鍵です。

都市部で「地産地消」を推進

銀座に設置した太陽光利用の栽培システム

水位や温度、湿度、照度、液肥濃度などさまざまなセンサーから集めたデータを解析し、スマートフォンなどで生育環境を確認しながらこれらの値を制御すれば、 遠隔地にいても作物を上手に育てられます。手軽で導入コストの安いこうした小規模の栽培システムなら、例えば、ビルの屋上の空きスペースなどでも栽培が可能です。

レストランのトマトケーキ

このような「都市型ICT農業」は、本来の目的以外にも、屋上緑化や食育、憩いの場といった副次的な効果が見込めます。 佐藤教授は学内だけでなく、銀座のビルや調布市内の小学校、病院などにシステムの導入を進めており、イチゴやトマトなどを試験的に栽培しています。 ほかにキュウリやとうがらし、メロン、ハーブなどさまざまな野菜や果物が栽培可能だそうです。すでにレストランなどと連携しており、 「栽培から加工、販売までを含めた“地産地消”による6次産業化を都市部で進めたい」と佐藤教授は考え、農業のビジネス化にも積極的に取り組んでいます。

事業化された暗号技術

一方、専門のハードウェアの知識を生かした暗号実装技術の研究にも取り組んでいます。 暗号はデジタル放送や携帯電話、ネットショッピング、電子マネーなどさまざまなサービスに広く使われています。 あらゆるモノがネットワークにつながるモノのインターネット(IoT)時代が到来し、今や、暗号技術によるセキュリティの確保はあらゆる領域で必須になっているといっても過言ではありません。
佐藤教授はこれまで、ハードウェアやソフトウェアなどさまざまな形で実装された「暗号アルゴリズム」の性能を評価するための基盤技術を開発してきました。 例えば、暗号デバイス(ICカードなど)の消費電力や電磁波を解析し、内部の「秘密鍵」を盗み出す攻撃(サイドチャネル攻撃)が近年、脅威になっています。 佐藤教授は、この攻撃に対する対策の有効性を検証する評価ボード「SAKURA」を開発しました。これは、暗号デバイスの物理的な安全評価の事実上の世界標準になっており、海外にも広く普及しています。
また、ユーザーが手元で機能を書き換えられるハードウェアであるFPGAや、 グラフィック用プロセッサー(GPU)を科学技術計算に応用したGPGPU(汎用GPU)などを使った暗号アルゴリズムの実装性能と安全性の評価手法も研究しています。
開発した暗号評価ボードは、2014年に佐藤教授らが立ち上げたベンチャーから事業化されています。 その売り上げを前述の都市型ICT農業による栽培システムの開発費に回しているそうで、全く異なる二つのテーマも研究室の中では有機的につながっています。 今後、都市型農業は個人向けサービスとしても展開する予定で、佐藤教授は製品開発に余念がありません。外資系企業出身の教授ならではの巧みな“出口戦略”が光る研究室です。
【取材・文=藤木信穂】

開発した暗号評価ボード
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