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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
庄司 研究室

光でナノの立体構造を作り、新たな機能を付与する

所属 大学院情報理工学研究科
先進理工学専攻
メンバー 庄司 暁 准教授
所属学会 応用物理学会、分光学会、レーザ学会、米国光学会(OSA)、国際光工学会(SPIE)、米国材料学会(MRS)
研究室HP http://www.phomat.es.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

庄司 暁
Satoru SHOJI
キーワード

レーザ顕微鏡、分光技術、ホログラフィ、光放射圧、自己組織化、ソリトン形成、カオス現象、プラズモニクス、ナノサイズ効果、非線形光学

科学の世界において、ナノメートル(ナノは10億分の1)スケールの微細な領域に踏み込んだ研究は決して珍しくはありません。しかし、それが立体構造となると話は別です。

図1 カーボンナノチューブ/ポリマーコンポジット材料をレーザー成形した3次元微細構造

庄司暁准教授はレーザ光を操って、世界を驚かせる微小なナノの立体構造を次々と作製しています。ただサイズの限界に挑むだけでなく、ミクロな構造の中にも、「将来、デバイスとして使えるような新しい “機能”を見いだしたい」というのが庄司准教授の研究のモチベーションになっています。
ナノテクノロジーの代表選手といえば、カーボンナノチューブ(CNT)です。CNTは炭素原子が網目のように結びついた筒状の炭素材料であり、電気通信大学の卒業生である名城大学の飯島澄男教授が発見した日本生まれの材料です。
庄司准教授は、単層のCNTを均一に分散させたプラスチック(ポリマー)のナノ立体構造を作製しました。この立体構造の最も細い線の直径は約300ナノメートルで、髪の毛の直径の300分の1以下のサイズに相当します。まさに“ナノスケールの造形芸術”です。下の写真は電子顕微鏡で撮影したものです。

図2 カーボンナノチューブを一軸配向して作製した紫外・可視・近赤外用偏光板

「2光子加工法」と呼ぶ光の加工技術を使って、ポリマーとCNTの複合材料を立体成型しました。いわゆる炭素繊維強化プラスチックは航空機や自動車、スポーツ用品の材料などに使われていますが、これをナノスケールで作ったのは世界で初めてです。このほか、弾性力を持つナノスケールのばねなども作製しています。ナノの立体構造に力学特性や導電性、熱伝導性などの機能を持たせれば、光機能性材料や光駆動デバイスとして使えると庄司准教授は考えています。
CNTの光学特性を生かした「偏光板」も作製しています。偏光板とは、特定の方向に偏光または偏波した光だけを通す板であり、パソコンや携帯電話、デジタルカメラなどの液晶画面の表示板として使われています。ポリマー中に単層CNTを分散させ、引っ張るだけでCNTが配向した偏光板が簡便に作れるといいます。
「CNTを使った偏光板は前例がない」そうです。CNT偏光板は、色素を使う従来の偏光板では不可能だった、紫外線から近赤外線までの広い波長領域にわたって光を98%程度も吸収します。液晶ディスプレイの上にかざした実験で、偏光板を置く方向によって光を通したり通さなかったりできることを確認しました(図2)。CNTの新しい機能を見いだした例だといえるでしょう。

別の研究では、CNTを光で捕まえることにも成功しています。これは「レーザトラッピング」と呼ばれる技術で、光放射圧の仕組みを利用しています。単層CNTは直径が変わると吸収スペクトルも変化します。つまり、直径の違いによってCNTの“色”が変わるのです。したがって、CNTの色に合わせて所望のレーザ光を当てれば、CNTを選別できます。CNTはわずかな直径の違いで半導体になったり金属になったりする性質を持つため、CNTを選択的に抽出する技術が求められていました。この手法は、半導体のナノ粒子である量子ドットや、金属ナノ粒子の選別法としても使えます。
最後にご紹介するのは、レーザ光の干渉を用いた3次元構造のフォトニック結晶です(図3、図4)。フォトニック結晶とは、屈折率を周期的に変化させた人工的なナノ構造体です。例えば、この結晶中に光の微小な通路を設ければ、光の進む速度を飛躍的に上げることなどが可能です。2次元のフォトニック結晶は光集積デバイスなどへの導入が進んでいますが、3次元構造の作製は難しく応用はこれからです。

図3 レーザー光の干渉パターンで一括成形した3次元フォトニック結晶構造
図4 フォトニック結晶構造によって特定の波長が反射される様子

庄司准教授は、レーザ光の干渉縞を感光性樹脂(ポリマー)に転写する、新しい3次元フォトニック結晶の作製法を世界に提案しました。本流であるシリコンではなく、ポリマーで作る3次元フォトニック結晶は、約1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の等間隔に並んだ格子の層を、100層以上積み重ねた多層構造を一括で形成できるのが特徴です。「スポンジのような弾力性のある構造を持っており、すぐに応用できなくても構造的に興味深い」と庄司准教授は考えています。
このように、光を操って多様なナノの立体構造を創造する匠の技は、“職人芸”とも言えるでしょう。ミクロなナノ構造は突き詰めるほどに奥が深いようです。未来のモノづくりは「光」が担うといっても過言ではないかもしれません。時代の一歩先を行く研究は、新しい産業の芽がたくさん眠っている予感がします。
【取材・文=藤木信穂】

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