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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
ボーラ 研究室

ポリマーエレクトロニクスの威力
――光るナノ構造と新型有機太陽電池の実現へ

所属 情報理工学研究科 先進理工学専攻
メンバー Vohra Varun 助教
所属学会 応用物理学会
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

Vohra Varun
キーワード

有機太陽電池、発光素子

『生きた宝石』と形容される、美しいモルフォ蝶をご存じでしょうか。南米に生息するモルフォ蝶の羽は金属光沢のような鮮やかな青色を放ちますが、実はこの色は、色素によるものではありません。羽の表面の微細な構造が織りなす「構造色」によって輝いているのです。また、クジャクの羽毛やタマムシの体表なども代表的な構造色の例です。
自然界に見られるこのような構造色は、ナノメートル(ナノは10億分の1)レベルの微細な穴が多数空いた構造(ナノ多孔質構造)によるものであることが分かっています。では、人工物でこれを再現するとどうでしょうか。それがVohra Varun(ボーラ・バルーン)助教の研究テーマになっています。

ナノ多孔質構造

モルフォ蝶の羽(上)と、自己アセンブリー法で作製したポリマーナノ多孔質構造(下)の比較

フランス出身のボーラ助教は同国で修士号を修め、その後イタリアで博士号を取得し、2010年に博士研究員(ポスドク)として来日しました。電気通信大学では14年に研究室を構え、イタリアで始めた研究に引き続き取り組んでいます。
主要テーマの一つが、前述した人工的なナノ多孔質構造の作製です。二つの高分子ポリマーを混ぜてスピンコート法によって高速回転させ、遠心力で基板上にポリマーの薄膜を形成します。できた薄膜を有機溶媒(アセトン)に溶かすと、数十秒で多孔質構造が得られるそうです。この際、使う材料が1種類だと表面は平らになりますが、2種類以上の材料を混ぜると、薄膜上に自然にナノレベルの穴が作られるのです。自ずと構造が作製されるため、この手法を「自己アセンブリー法」と呼んでいます。
自己アセンブリー法で2次元のポリマーナノ多孔質構造を作る際に、ポリマーの濃度を変えると穴の大きさをコントロールすることができます。小さいものでは、直径100ナノメートル程度の穴が多数作れます。電子顕微鏡で観察すると、「モルフォ蝶の羽とこの人工物の構造は似ており、スケールもほぼ同じ」だとボーラ助教は言います。今後、この構造を使って、角度によって色が変わる発光素子、いわゆる構造色を持った人工物を作ることを目指しているそうです。

ファイバーで発光素子

ボーラ助教は、ナノファイバーを使って発光素子を作る研究も手がけています。エレクトロスピニング法(電界紡糸法)という、紡糸ノズル内のポリマー溶液に高い電圧をかけてナノファイバーを作る手法を使って、電気的に発光する有機発光ダイオード(OLED)を初めて作製しました。ナノファイバーは、材料の選択、およびエネルギーの移動によってその色を自在に変えられます。そのため、同一の素子に多種のファイバーをのせれば、素子をさまざまな色に発光させることができるのです。
また、2種類の発光色を使えば、電圧で駆動できる有機発光電気化学電池(OLEC)の実現にもつながります。エレクトロスピニング法に加えてイオン性液体を添加することで、ナノファイバーを使ったOLECが作れます。現在は有機色素で着色するにとどまっていますが、今後は量子ドットなどの半導体粒子を使って電気的に発光するOLECをナノファイバーで作り、これを集積して青色や緑色、赤色、さらには白色の高輝度なナノファイバー発光素子を作ることを目指しているそうです。

エレクトロスピニング装置(上)と作製した発光ナノファイバー(下)

ディスプレーに応用

高輝度なナノファイバー発光素子が実現すれば、高性能化が進むスマートフォンやタブレットのディスプレー用の新型発光素子として使えるほか、照明デザインなどにも新たな手法をもたらすかもしれません。ナノファイバーを衣服の繊維に織り込むことで、“発光する服”なども作れそうです。発光素子の研究には、発光効率を高める、寿命を伸ばす、などの方向がありますが、ボーラ助教は「新しいプロセスを使って、世の中にない面白いデバイスを作りたい」と考えています。

有機太陽電池で世界トップ

さらには、発光特性は用いませんが、折り曲げ可能なフレキシブル性を備え、有機半導体を塗るだけで作れる有機太陽電池への応用があります。太陽電池は高効率化が必要なため、発電部(セル)の表面積をできるだけ大きくすることが求められます。多孔質構造にすることで、セルサイズを変えずに表面積をより大きくすることができます。ボーラ助教は「理論的には変換効率を30%程度上げられる」と期待しています。
既に、新型の有機太陽電池の研究プロジェクトが進められています。一般的な太陽電池素子(順構造素子)の発電層を2倍に厚くした上で、この素子の陽極と陰極を入れ替えた「逆構造素子」も合わせて使うことで、世界トップレベルとなる10%以上の変換効率を持つポリマー太陽電池を15年に開発しました。今後はさらに素子全体の向きを大胆に変えて、ホール(正孔)の流れる向きを垂直方向から水平方向に転換させることで、窓などに貼り付けやすい、実用的な太陽電池を作りたいと考えているそうです。

新型の有機太陽電池を構成する順構造素子と逆構造素子、その特性(上)と測定装置(下)

【取材・文=藤木信穂】

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