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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
南 研究室

コンピュータと人間が自然に対話する未来へ

所属 大学院情報システム学研究科
情報システム基盤学専攻
メンバー 南 泰浩 教授
所属学会 情報処理学会、電子情報通信学会、言語処理学会、米電気電子学会(IEEE)、音響学会
研究室HP http://www.sd.is.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

南 泰浩
Yasuhiro MINAMI
キーワード

言語発達、言語処理、音声認識、意味理解、対話処理、語彙発達、語彙獲得、認知心理、認知科学、音声生成、コミュニケーション科学

人間のように自然に言葉を操るコンピュータはいつ実現するのでしょうか。自ら言葉を覚え、人と柔軟に会話をするコンピュータには、どんな知能を持たせればよいのでしょうか。
NTTの研究所から2014年に電気通信大学に着任した南泰浩教授は、そんな未来の実現に向けた研究に取り組んでいます。「コンピュータが人と自然に対話するようになれば、高度なコンピュータであっても誰もが使いこなせるようになる」と考えるからです。
これまでに三つのアプローチに取り組んできました。一つ目は、コンピュータに人と同じ機構で言葉を覚えさせるための研究です。その第一歩として、まず、幼児が言葉を獲得する仕組みの解明を目指しました。
特筆すべき成果を挙げましょう。「語彙爆発」と呼ばれる、子どもの言語発達において従来の定説であった現象が、「一定の速度の語彙獲得とお休みの期間からできている」ことを証明したのです。子どもは通常、1歳くらいを境に急速に言葉を覚えはじめますが、従来はある期間に突然、「言語を獲得する機構」が動きだし、そこから語彙が爆発的に増えると考えられていたのです。
南教授らは十数人の幼児の言葉の獲得過程を約2年間にわたって継続的に追跡し、1500人を超えるお母さん方に子どもの語彙についてアンケートをしました。こうした実際の言語活動の大量のデータを統計解析した結果、「語彙の獲得の速度は一定である」ということを明らかにしたのです。

一見、語彙が爆発的に増えるように見えるのは、その途中に語彙を全く覚えない“空白の期間”があるからだというのです。南教授は「子どもは言葉を休み休み、立ち止まりながら、ゆっくりと獲得しているのではないか」とみています。このほかにも、子どもによって言葉の獲得の時期が早かったり遅かったりするのは、「最初に覚えるほんの20語の言葉の種類に関係がある」とする興味深い成果も出ています。
二つ目は、コンピュータに人と「雑談させる」ための研究です。雑談とは、いわゆる“とりとめのない話”ですけれども、インターネット上に存在する多様な文章のビッグデータを使って「対話」のデータを集め、これをコンピュータに学習させることで、コンピュータと人との自然な対話を目指しています。
NTTドコモは、人がスマートフォンに向かって話しかけると、その要望に沿う回答を自動で表示してくれる『しゃべってコンシェル』アプリを提供しています。これは、想定内の発言に対しては的確に返答するものの、そのバリエーションは豊富ではありません。
そこで開発されたのが、ドコモの『雑談対話API(Application Programming Interface)』です。これは、例えば「アイス食べたいな」と入力すると、機械が「アイスを食べるならバニラですよね」などというように、入力した文章に対して、雑談で応じてくれるのです。南教授はこの技術の実用化に携わりました。
最後の三つ目のアプローチも有名な研究です。国立情報学研究所(NII)の人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」への参画です。ここで英語の試験問題を解くシステムを開発し、センター模試で平均点を超える好成績を達成しています。
南教授が特に関わったのは発音問題です。音声認識技術に使われている、アルファベット文字と発音の「音」とを自動で対応づけ、英語の試験に適した発音の辞書を作りました。これによって、発音問題やアクセント問題の高い正答率を達成しました。
南教授はNTT在職中、長年にわたって音声認識の研究に携わり、国会議事録の作成などに使われている「会議録作成支援システム」の基礎技術の開発なども手がけてきました。その後はもっと人に寄り添う機械の実現を目指して、「人とコンピュータのコミュニケーション」をテーマに多方面へ研究領域を広げています。

コンピュータはまだ、人間の知識レベルには到底及びません。だからこそ「人はどこまで人に近いコンピュータを作れるのか」という問いが、言ってみれば人類に向けられた“挑戦状”でもあるわけです。三つの研究課題はそれぞれが一大トピックです。しかし、最終的には「サイエンスとエンジニアリングをうまくつなげて、これらの知能を統合し、人が愛着を持てるようなコンピュータを作りたい」と南教授は考えています。
【取材・文=藤木信穂】

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