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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
榎木 研究室

伝熱管内の「気液二相流」を可視化し、
伝熱や圧力損失のメカニズムを解明。熱交換器の高性能化をはかる

所属 大学院情報理工学研究科
知能機械工学専攻
メンバー 榎木 光治 助教
所属学会 日本冷凍空調学会、日本機械学会、日本伝熱学会、日本原子力学会
研究室HP http://www.eel.mi.uec.ac.jp
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掲載情報は2015年8月現在

榎木 光治
Koji ENOKI
キーワード

熱工学、伝熱工学、流体力学、エネルギー、熱交換器、ヒートポンプ、冷凍空調、気液二相流、流れの可視化、吸収、吸着

暑い夏は「打ち水」で涼気をとるのが、日本に昔から伝わる風習です。道路や庭先などに水をまくと、その水が蒸発する時に、地面から熱を奪い取ってくれるのです。これは、液体が気体になる際に、周囲から熱を奪う「気化熱」の仕組みを利用したものです。
エアコンなどの冷凍空調機は、この打ち水と同じ原理で働いています。冷凍空調機は、熱を移動させるために使う「冷媒」が蒸発して熱を奪う性質を利用しています。榎木光治助教は、この冷凍空調機について研究しています。

蒸気圧縮式冷凍機

冷凍空調機は、蒸気圧縮式冷凍機、吸収冷凍機、吸着冷凍機の大きく3種類に分けられます。榎木助教はこれらすべてについて研究していますが、ここでは、最も汎用的な「蒸気圧縮式冷凍機」の研究についてご紹介しましょう。
家庭で使われているエアコンは、この蒸気圧縮式冷凍機に分類されます。例えば、真夏の冷房運転では、室内の熱を冷媒の気化熱で奪い取り、奪い取った熱を室外へと排出します。いわゆる「ヒートポンプ」と呼ばれる仕組みです。

気液二相流の研究

ヒートポンプの内部を流れる冷媒(現在はフロン冷媒が主流)は、気体と液体が混在し、複雑な流れになっています。こうした流れは、物理現象として「気液二相流」、または「混相流」と呼ばれています。特に、「沸騰」や「凝縮」といった相変化を伴う気液二相流による熱の輸送は、液体や気体それぞれの「単相流」と比較して、より多くの熱を移動することができます。このため、相変化による熱伝達は、熱輸送の“要”として、発電所や自動車、空調・冷凍機、電子機器など、非常に多くの産業機器に利用されているのです。
この領域で榎木助教が取り組んでいるのが、冷凍空調機の効率を大きく左右する「熱交換器」内の相変化熱伝達の研究です。特に、近年、熱交換器に使われ始めた内径が1ミリメートル程度の微細管内の相変化熱伝達の研究を行っています。榎木助教は、「熱交換器の性能を上げることで、家庭で消費される電力量のトップである『空調機』の省エネルギー化に貢献したい」と考えているのです。

冷媒の流れを撮影

榎木助教は、これまでの実験研究では珍しい実際の空調機と同じ冷媒、および運転条件で、冷媒を外部から加熱して沸騰・蒸発している様子を可視化する実験に乗り出しました。フロン冷媒が熱を伝える性能を定量的に測定したり、圧力の損失特性を明らかにしたりするために、銅製の「伝熱管」を使います。さらに、「ガラス管」を使って、冷媒の流れを高速度カメラで25マイクロ 〜500マイクロ秒(1マイクロは100万分の1)間隔で撮影し、冷媒の様子を詳細に観察して熱伝達や圧力損失のメカニズムの解明を目指しています。
まず、伝熱管、およびガラス管の断面形状を円形にし、フロン冷媒が垂直上昇と下降、および水平方向に流れる様子を高速度カメラで撮影しました。その結果、水平流では、垂直流には見られなかった気液(気体と液体)が、浮力(重力)の影響を受けて流動している様子が確認できました。
同様に、断面形状を長方形や三角形に変えた場合についても実験しました。円形と同様に、水平流では浮力の影響が観察されましたが、長方形や三角形では、表面張力の効果で、角部に液を保持している様子が観察されました。榎木助教は、この角部に溜まった「液膜」によって、辺中央部の液膜が非常に薄くなり、蒸発し易くなるために伝熱効率が高まることを見いだしました。
こうした熱伝達実験の結果、「円形管ではなく、『非円形管』を採用することで、伝熱管内を流れる冷媒の熱を伝える効率が数倍に高まる」(榎木助教)ことが分かりました。さらに、浮力の影響によって、冷媒を流す方向は、垂直方向よりも水平方向の方が熱伝達効率が高いことが明らかになったのです。このように、流れの方向や流路の形状の影響を包括的に検討した実験は従来、ほとんどなかったそうです。

実験で使った銅製の伝熱管と、可視化のためのガラス管

沸騰熱伝達整理式を導く

これらの結果を基に、共同研究者と議論しながら、まずは円形管についての「熱伝達整理式」を導きました。これは、冷媒が熱をどのくらい伝えられるのかを予測する整理式で、熱交換器の熱伝達性能の予測に役立ちます。世界中で実施された微細管の既存の研究の実験データベースを作成し、整理式の計算値と比較したところ、「既存の整理式と比べて格段に高い精度で実験値を予測する整理式になった」(榎木助教)そうです。また、冷媒はフロンだけでなく、自然冷媒である二酸化炭素(CO2 )や水(H2O)にも適用できるそうです。導いた整理式やデータベースとの比較結果は、2015年に投稿論文(オープンアクセス)で公開されました。

円形管における冷媒の気液二相流の様子の可視化

空調からさらなる応用へ

榎木助教は、温度や圧力を精密に測定する方法を熟知し、高速度カメラの操作方法にも長けています。これらを巧みに操って、正確な実験データを積み上げ、さらに可視化実験によって物理メカニズムを明らかにした上で、数式に落とし込むところまで突き詰めようとしています。こうした緻密な研究こそ、大学の研究室が為せる業と言えるでしょう。「今後は、空調用にとどまらず、微細管をさまざまな機器に応用するための研究に取り組みたい」と榎木助教は考えています。
【取材・文=藤木信穂】

長方形、および三角形管における冷媒の気液二相流の可視化
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