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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
榎木 研究室

カーボンニュートラルに向けた未利用熱の効率回収と気液二相流の可視化

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 榎木 光治 准教授
所属学会 日本冷凍空調学会、日本機械学会、日本伝熱学会
研究室HP https://www.therme.lab.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2022年6月現在

榎木 光治
Koji ENOKI
キーワード

カーボンニュートラル、二酸化炭素の削減、未利用エネルギーの活用、排熱回収、熱交換器、熱工学、伝熱工学、流体力学、エネルギー、ヒートポンプ、冷凍空調、気液二相流、流れの可視化、吸収、吸着

石油や石炭、天然ガス、水力、太陽光など自然から獲得した一次エネルギーは、発電や変換加工などを経て最終的に消費者に供給されます。この過程において、日本では一次エネルギーのおよそ60%以上が「熱」として環境中に排出されているといわれています。 この未利用熱のうち、効率的な回収方法が確立されていない200度未満の熱エネルギーが実に70%以上を占めているそうです。この未利用熱をうまく回収して再利用できれば、化石エネルギーへの依存度が低くなり、二酸化炭素の削減に貢献できるでしょう。

ほぼ100%の熱回収が可能に

政府が2050年の達成を目指す「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」の実現に向けて、榎木光治准教授は最近、熱エネルギーをほぼ100%の効率で回収できる伝熱管を開発しました。この成果は、熱工学分野のトップジャーナルに発表され、米科学誌「サイエンス」の発行元である米科学振興協会(AAAS)のサイトにも掲載されたことから、世界中で大きな反響を呼びました。
榎木准教授は三菱マテリアルと共同で、アルミニウムの繊維体を内部に充填した伝熱管が、高い効率で流体の熱エネルギーを回収できることを発見しました。内径約20ミリメートル、長さ約25ミリメートルの短い伝熱管に、アルミニウム繊維体を空隙率80%とスカスカの状態で充填し、200度の乾燥した空気(熱風)を流します。その上で伝熱管の外部を5度で均一に冷やすと、伝熱管の出口から5度の冷風が排出されます。
伝熱管の入口と出口に200度程度の温度差が生じるというこの結果は、流体の持つ熱エネルギーを100%の効率で熱回収できたことを意味します。内径は同じで長さが約150ミリメートルの一般的な伝熱管に200度の熱風を流し、伝熱管外を5度に冷やしても、出てくるのは150度程度の熱風です。つまり、アルミニウム繊維体を伝熱管に充填し、さらに管を短くすることで、これまでほとんど不可能だった熱回収が可能になったのです。

産業応用や宇宙利用も視野

この伝熱管は純アルミ製で非常に軽量であるのが特徴です。したがって、例えば、低温脆性のリスクのあるマイナス200度程度で輸送されるLNG(液化天然ガス)や液化水素の冷熱を回収したり、現在工場などで廃棄されている200度以下の排熱を回収したりといった利活用が見込めると榎木教授は考えています。設置コストやメンテナンス費用も安い高パフォーマンスの伝熱管は、省資源にも資するでしょう。さらに、大量生産が可能になれば、輸出コストの削減にもつながります。
榎木准教授は「今後、このメカニズムを解明していくことで、将来は工場のほか、自動車やエアコンなど身近な領域での活用はもちろん、惑星探索や宇宙ステーションなど航空宇宙分野における熱エネルギーの活用にも道が開けるのではないか」と見通しています。さらに世界各地でこの技術を展開することによって、二酸化炭素の大幅な削減につながり、カーボンニュートラルで持続可能な社会の実現に寄与できるでしょう。

研究対象としている金属繊維多孔質体の空気流速による温度変化の様子(多孔質体の充填長さが長いと5℃を保ち続ける)

研究対象としている金属繊維多孔質体の空気流速による温度変化の様子(多孔質体の充填長さが長いと5℃を保ち続ける)

三次元方向にランダム配置されているので空間割合が20%に見えない。とても密に詰まっているようにみえる

冷媒の流れを撮影

このほか、榎木准教授は空気中の熱を集め、汲み上げて移動させるヒートポンプ内部の複雑な流れ(気液二相流)を可視化する研究にも取り組んでいます。特に、近年、ヒートポンプの熱交換器に使われ始めた内径1ミリメートル程度の微細管内の相変化熱伝達を研究しています。ヒートポンプは空調機だけでなく、冷蔵庫など家庭で使われる比較的消費電力の高い機器に搭載されています。
例えば、ヒートポンプに用いる代替フロン冷媒が熱を伝える性能を定量的に測定したり、圧力の損失特性を明らかにしたりするために、特注の伝熱管で各種測定を行いました。さらに可視化するためにガラス管を使い、冷媒の流れを高速度カメラで25マイクロ~500マイクロ秒(1マイクロは100万分の1)間隔で撮影し、冷媒の様子を詳細に観察します。高速度カメラに取り付けるレンズを新しくすることで、マイクロオーダーからメートルオーダーまでの高解像度の観察が行えるようになり、冷媒の流動特性をより詳細に計測可能になりました。

海外メディアにも多数紹介された海外メディアにも多数紹介された

非円形管や流路を波状にすることで効率向上

まず伝熱管、およびガラス管の断面形状を円形にし、代替フロン冷媒が垂直上昇と下降、および水平方向に流れる様子を高速度カメラで撮影しました。その結果、水平流では、垂直流には見られなかった気液(気体と液体)が、浮力(重力)の影響を受けて流動している様子が確認できました。
同様に、断面形状を長方形や三角形に変えた場合についても実験しました。円形と同様に、水平流では浮力の影響がみられましたが、長方形や三角形では、表面張力の効果により角部に液を保持している様子が観察できました。
こうした熱伝達実験の結果、円形管ではなく「非円形管」を採用することで、伝熱管内を流れる冷媒の熱を伝える効率が数倍に高まることが分かりました。流れの方向や流路の形状の影響を包括的に検討した実験は、従来ほとんどなかったそうです。
今後は流路断面だけでなく、世界に先駆けた研究として流動方向を波状形状にした実験にも取組んでいるそうです。榎木准教授はこうした研究を実用化へつなげ、「熱交換器の性能を上げることで、家庭で消費される電力量の高い空調機や冷蔵庫の省エネルギー化に貢献したい」と考えています。

動画

研究概要

実験風景

【取材・文=藤木信穂】