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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
小泉 研究室

ロボットを使った超音波診断・治療システムの開発と「医デジ化」の推進

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 小泉 憲裕 准教授
所属学会 米国電気電子学会(IEEE)、アメリカ機械学会(ASME)、日本超音波医学会、日本ロボット学会、日本機械学会、日本コンピュータ外科学会、精密工学会、日本音響学会
研究室HP http://www.medigit.mi.uec.ac.jp
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掲載情報は2017年3月現在

小泉 憲裕 Norihiro KOIZUMI
キーワード

医デジ化(Me-DigIT)、超音波診断/治療ロボット、非侵襲超音波医療診断・治療統合システム(NIUTS)、遠隔超音波診断システム(RUDS)、強力集束超音波(HIFU)、患部(病巣)追従、体動補償

「医デジ化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。小泉憲裕准教授が提唱した、「医療技能の技術化・デジタル化」という概念の略称です。医療やバイオ分野は現在、デジタル化によって大きな変革を遂げています。小泉准教授は、特にロボットを医療に導入することで、診断や治療を高度化する研究に取り組んでいます。
医デジ化の大きな目的は、「“医師の世界観”をデジタル技術で再現し、全国どこにいても安全・安心で質の高い医療を享受できるようにすること」だと小泉准教授はとらえています。医師の技能(スキル)を「機能」として抽出し、それをデジタル化してシステムに実装すれば、熟練医のように診断や治療が行える医療支援システムが実現できるという考え方です。

ロボット+超音波診断装置

「医デジ化」の概念

小泉准教授が開発しているのが、ロボットを使った超音波診断・治療システムです。超音波診断装置は多くの病院にある一般的な医療機器ですが、近年では、エコーなどの画像診断だけでなく、超音波を一点に集めて患部に当て、開腹手術をせずにがんなどを破壊する治療法が普及しつつあります。生体を傷つけないため(非侵襲)、患者の負担が比較的軽く、放射線と違って被ばくしないことなどが特徴です。

小泉准教授は診断の分野において、約10キロメートル離れた場所にいる患者にロボットを使って遠隔で超音波診断を行うシステムを世界で初めて開発しました。現在、臨床評価を行っており、いずれこのシステムを自動化したいと考えているそうです。

機械が自動で人を診断・治療する時代に

 

一方、治療については、1ミリメートルの精度でがんなどの患部の位置を検出しながら、超音波を照射するシステムを開発しました。体動の約90%を補償しながら、患部の動きに追随してシステムを自動で動かすことで、既存の静止型の治療装置よりも、超音波を照射する際の位置合わせの精度を数倍に高められます。超音波を2方向から当てて、まず患部の位置をつかんだ上で、治療用の超音波を患部に当てる仕組みです。
超音波治療は昨今、前立腺がんや子宮筋腫の治療などに導入されていますが、現在使われている装置は海外製です。ただ、既存の装置では、呼吸によって臓器が動くのを抑えるために、患者に呼吸を一時的に止めてもらって患部に超音波を当てる必要がありました。

これに対して、ロボットシステムによって患部を精度よく追随できれば、あたかも臓器が静止しているかのような状態で治療が行えます。正常な組織を傷つけることなく、また医師のスキルにもよらずに、誰がやっても一定水準の高度な治療が施せます。現在、肝臓がんや腎臓がんの患者を対象に、システムの機能を確かめるための臨床研究を進めています。近い将来、現行の医療体系に大きな革新がもたらされ、「“器用な手”と“高精細な目”を持つロボットが、高い水準で人を診断・治療する時代が到来する」と小泉准教授は予測しています。そうすれば、人がマニュアルで治療する現在の治療風景は一変してしまうかもしれません。

医療画像からAIで症状を把握

 

医療ロボットの構築には機械工学的な動作機構や制御技術の開発から、医療向けの画像処理、アルゴリズムといった多様な技術開発まで必要です。例えば、遠隔操作や患部の追従の手法、臓器の3次元形状モデルを使ったモニタリングや画像中の生体組織の抽出など、それぞれが高度な技術であり、これらを融合することで医療ロボットとして機能します。

 

最新の研究では、人工知能(AI)技術の一つである機械学習を使って、肝臓を撮影した画像から、肝硬変の症状を定量的に把握できるようになりました。最終的な診断は医師が下しますが、医療画像をどのように解釈するかといった、まさに“医師の世界観”をロボットが再現できれば、医師の負担が大きく軽減され、医療技能の底上げにもつながります。

そのほか、小泉准教授は超音波を使って内臓脂肪の面積を測るシステムも開発しており、医療だけでなく、ヘルスケア市場での幅広い活用も見込めます。今後、多様な疾患や健康分野において、診断と治療を一体化した超音波ロボットシステムを適用していく予定です。

“医デジ化”が医療に革命を起こす

医デジ化は、メディカル(医療)とデジタル技術(IT)の融合という意味で、英語では「Me-DigIT(メディジット)」という造語で表現しています。世界三大発明の一つである「活版印刷術」が情報の複製(コピー)技術を生み出し、今日の情報革命につながったように、「医療技能をデジタル化し、それをコピーすることによって、知識が共有化され、医療における新たなイノベーションにつながるのではないか」と小泉准教授は期待しています。

【取材・文=藤木信穂】

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