このページの先頭です

メニューを飛ばして本文を読む

ここから本文です

サイト内の現在位置

研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
八巻 研究室

ルータを賢くする

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 八巻 隼人 助教
所属学会 情報処理学会、電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)
研究室HP http://www.hpc.is.uec.ac.jp/yamaki_lab/index-jp.html
印刷用PDF

掲載情報は2017年3月現在

八巻 隼人 Hayato YAMAKI
キーワード

高機能ルータ、通信解析、Deep Packet Inspection、文字列探索、データ圧縮・展開、侵入検知システム、高速パケット処理、FPGA

「ルータ」はインターネット通信に不可欠な装置であり、恐らく家庭に1台は設置されているでしょう。ルータは情報を正しい宛先へ転送する役割を担っており、そのため通信データはどんな時も必ずルータを経由します。ただし、今のルータの主な仕事はそれだけで、データの内容をチェックするような処理は行っていません。
もし、このルータが流れてくるデータの内容を把握し、自発的に情報を収集するようになったらどうでしょうか。八巻隼人助教は、「IoT(モノのインターネット)は、すべてのモノがインターネットにつながるという概念だが、これは『すべてのモノがルータにつながる』とも言い換えられる。ルータをもっと有効に使えば、面白いことができるのではないか」と考えています。

ルータでセキュリティ対策

では、どんなことが可能になるのでしょうか。ルータが通信データの中身を解析できれば、まず、「メール」や「動画」といったファイルの種類を判別するでしょう。また、例えばそのメールがウィルスに感染していた場合、ルータ自身がこのメールを削除し、その下位層には送らないといった判断ができるかもしれません。

レイヤ7解析ルータを用いたインターネットアプリケーションの例

通信パケットは、1から7までのレイヤ(層)に分かれており、ルータは通常「レイヤ4」までしか処理しません。ルータにウェブページやユーザID、パスワードといった通信の内容が収められている「レイヤ7」の解析まで行わせるためには、その処理速度を現状の10倍―100倍に高める必要があります。

文字列探索を高速化

そこで八巻助教は、処理速度を向上させる上でボトルネックになっていた「文字列探索処理」の高速化に取り組みました。従来の処理法は、例えば「virus(ウィルス)」という文字列を探索する際に、「v」「i」「r」… というように、パケットの先頭から1文字ずつマッチングさせる必要がありました。

パケットに対する文字列探索処理の例
ハッシュ値を用いた文字列探索処理

これに対して、八巻助教はこのようなパターン数の多い「文字列」ではなく、ハッシュ値と呼ばれる「数値」に落とし込んで効率的にマッチングさせる手法を開発しました。その結果、文字列探索のための従来の処理負荷を96%削減できたそうです。

圧縮データを効率的に展開

また、動画や音声など容量の大きいファイルの圧縮データを高速に展開(解凍)する技術も提案しています。データが圧縮されたままでは内容は解析できないため、ルータ上で展開する必要があります。しかし、ネットワーク上では通常、圧縮データは複数のパケットに分割されて送られることから、従来は最後のデータが届くまで展開処理は不可能でした。

提案するGZIP圧縮パケットの展開機構
提案するGZIP圧縮パケットの展開機構

八巻助教はこの課題の解決を目指し、圧縮データがそろうのを待たずに、レイヤ7において到着したパケットを逐次展開する技術を開発しました。届いたパケットをリアルタイムに展開し、その結果だけを残して次のパケットをどんどん展開していく仕組みです。展開に必要な最小限のデータだけを保存しておけばよいため、ルータに必要なメモリ容量を65%程度減らせることが分かっています。

フロー処理キャッシュの概要

低消費電力化技術も開発

試作したルータ

そのほか、現状のルータの消費電力を30―40%削減するメモリ技術も手がけています。IoT時代の到来で、データ量が例えば100倍に増えると、消費電力は10倍以上に膨れあがるといわれています。八巻助教は、現在ルータの処理に使われている特殊な高性能メモリ(TCAM)が行う処理の8割以上を小型のキャッシュメモリに振り分けることで、高速処理と低消費電力を両立させることを提案しています。

このようにルータが賢く進化すれば、ユーザにとっては動画を高速に受信できたり、セキュリティ対策の必要がなくなったりといった利便性の向上が期待できます。また、コンテンツ配信などのサービスをルータ自身が行うことにより、多数のユーザを抱える動画配信事業者などは、管理コストを大幅に下げられるでしょう。
今後、さらに「機械学習やニューラルネットワークなどの人工知能(AI)技術を組み込んでいけば、ルータが自ら考え、判断するようなことが可能になるだろう」と八巻助教は予測しています。ルータはもはや、データを送り届けるだけの存在ではありません。“スマートルーター”が世の中を変える日はそう遠くなさそうです。

慶應義塾大学西宏章研究室と共同で行ったデモ実験の画面(INTEROP2015)
会場内ネットワークをリアルタイムに解析し、来場者の検索ホットワードなどを表示

【取材・文=藤木信穂】

研究・産学連携
研究
産学官連携