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生涯学習:地域交流・国際交流

創立100周年記念公開講座 -超スマート社会の実現を目指す最先端の科学・技術研究-(第4回)

電気通信大学は2018年に創立100周年を迎えます。この記念事業のひとつとして、2017年6月から全6回の公開講座を実施いたします。

社会に拡がるワイヤレス通信技術-IoT、ITS、RF-ID、スマートデバイス、5G-

山尾 泰 教授(先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター)

ラジコン飛行機がきっかけだった

今から50年前、13歳のときにラジコン飛行機に出会い、夢中になりました。地方の大会などにも参加して、初心者の部で優勝したこともあります。その写真が当時の「ラジコン技術」という雑誌に載っています。
お金のない中学生が作るラジコンなので、エンジンの出力と方向舵をコントロールするだけの2チャンネルのラジコンでした。しかし、無線操縦という当時の最先端技術に出会ったことが、今の自分につながっています。
子供の頃に先端的なテクノロジーに出会った経験は、その人に大きな影響を与えます。保護者や先生方はぜひ、子供の興味を大きく延ばすことを心がけていただきたいと思います。

ワイヤレス通信システムの温故知新

1864年にイギリスの理論物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが電磁波(電波)の存在を予言しました。これは、マクスウェルの方程式から導かれたものです。
そして、1888年にドイツの物理学者ハインリヒ・ヘルツが、電波の存在を証明します。
電波による通信の実験は、ロシアの物理学者のアレクサンドル・ポポフによって、1895年になされています。当時の通信距離は250メートルほどだったようです。
しかし、その翌年の1896年にはイタリアの発明家グリエルモ・マルコーニが12キロメートル以上の無線通信に成功して、1897年にはマルコーニ無線電信会社を設立しています。現代のベンチャー企業のようなものですね。そして1901年には大西洋横断通信にも成功したのは有名な話です。

一方、日本では1897年に逓信省に開発部が設置され、無線通信の研究が始まりました。この無線通信技術は日本が自主開発したのですが、その理由のひとつは、マルコーニの特許使用料があまりにも高額だったためといわれています。
さて、移動通信の歴史も見てみましょう。
1912年のタイタニック号の沈没事故を契機に、1914年に船舶への無線機の搭載が義務付けられました。一般の人が使える移動通信サービスとしては、1953年の船舶電話が日本の公衆移動通信の始まりです。
1968年には「ポケットベル(ポケベル)」が登場します。これは電話番号に対応する小型の受信機を電波で呼び出す装置で、文字のメッセージが送れるようになると、女子高生の間で大ブームになりました。
自動車電話が登場したのが1979年で、1993年に第2世代のデジタル携帯電話が登場してから、携帯電話が爆発的に普及していきました。

ワイヤレス通信の基本課題

現在、衛星通信から無線LANまでさまざまなワイヤレス通信技術が利用されています。ここでは個別の技術の課題ではなく、ワイヤレス通信全体の課題を紹介して、幾つかの具体例をお話します。
まず、電波は見えません。掴みどころがないんですね。そして、エネルギーを消費する。バッテリーが必要になります。さらに、電波は「干渉」します。電波干渉が起こると、電波は届いているのに繋がらないということが生じます。そして、電波を利用する人は移動します。電波の届かない場所に移動すれば、通信はできなくなります。これらの要因によって、さまざまな問題が起こります。
ワイヤレス通信の基盤は、マクスウェルの電磁界理論にしたがう電波伝搬と、クロード・シャノン(アメリカの電気工学者・数学者)の情報理論によるシステムとネットワークの技術です。これらを基盤にして、さまざまな問題に取り組んでいくことになります。
ここで私が作ったワイヤレス川柳をひとつご紹介します。

「ワイヤレス やってみないと わからない」

これは、実際に実験してみて、はじめて明らかになる問題があるという意味です。
具体的な例をご紹介します。航空電話を開発したときのお話です。地上局から送られた電波を高度1万メートルの上空を飛行する航空機で受信するのですが、地上局の上空を飛行するときだけ、ノイズで通話ができなくなるという現象が起こりました。このように無線局の移動などによって電波の受信レベルが変動する現象を一般に「フェージング」と呼びます。調査の結果、地上局から発射された電波が周囲の山々に反射して、ちょうど地上局の上空でマルチパス干渉となっていることが分かりました。これはアンテナの指向性を調整することで解決することができました。
もう一つ川柳をご紹介します。

「ワイヤレス やってみても わからない」

これは電波伝搬現象をいろいろと理論的に解析する技術はあるのですが、電波伝搬は周囲の環境に左右されるので、環境が時事刻々と変化する現実空間では、あらゆる条件を考慮した解析は困難であり、最後の最後のところがよく分からないことがあるということです。
私は自動車と自動車の間で行う車車間通信の研究を行っていますが、車車間通信では通信する自動車だけでなく道路や建物、街路樹の影響など周囲の状況も考慮する必要があります。電波伝搬の研究は100年も続いているテーマですが、ある地点の電波の状態をリアルタイムに予想することは未だに難しい課題なのです。

これからの社会での無線技術の展開

ワイヤレス通信技術は、今後、どのように発展していくのでしょうか。現在利用されている情報通信の手段としてだけでなく、電気や水道のような社会インフラの一つになっていくと予想されます。
また、これまでは利用されていなかった場所でも、どんどんワイヤレス通信技術が使われるようになっていきます。最近の例では、ATMの筐体の中での通信をワイヤレスで行いたいといった新しいニーズがあります。

これに応えるためには、電波を操る技術が重要になってきます。例えば、市街地では電波が建物の影響を受けて、さまざまに変化します。反射波、回折波、散乱波による多重波伝搬が発生するため、これに対応する必要があります。
さらにシャノンの理論により、通信できる範囲と伝送速度はトレードオフの関係にあることが示されています。これは広い範囲に電波を届けたいときは通信速度が遅くなり、大きな容量のデータを素早く送る場合には、近くまでしか電波が届かないことを意味しています。
これらの課題を解決していくことで、より便利にワイヤレス通信技術を利用できるようになっていきます。そのためには、無線技術だけではなく、その周辺技術との連携がますます重要になっています。

AWCCの研究と今後の展望

最後に私が所属するAWCC(先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター)で行われている研究テーマをいくつかご紹介します。

1つ目のテーマは自動車の高度な自動走行を可能にする通信技術です。この分野では、交差点での電波干渉による通信障害を解消するなど、高い信頼度を有する自立型通信技術の研究を行っています。
2つ目のテーマは第5世代移動通信(5G)の研究開発です。この研究は国や企業と役割分担を決めて一緒に研究を行う産学官連携で行っています。AWCCでは基地局や端末に必要となる無線回路・装置技術の研究を行っています。
3つ目のセンサーネットワーク技術の開発では、中継局を上手く利用することで、通信距離を延長する研究や、省電力通信を可能にする技術の研究を行っています。この技術を使えば、人が近づくことが難しい場所のモニタリングなどが可能になります。
4つ目は電波を使った送電、マイクロ波給電技術です。電力を電波に載せて送電できれば離島や孤立した場所でもケーブルを使わずに自由に送電できるようになります。また、宇宙空間に太陽光発電所を作って、マイクロ波送電することも考えられています。
ワイヤレス通信技術は、社会を支える技術として、今後ますます重要になっていくでしょう。AWCCは社会に貢献する技術の創出をめざして、これからも研究していきます。

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