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国立大学法人 電気通信大学

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新たな世界を切り開け 電気通信大学が挑み続ける最先端技術の研究。
それはどんなコンセプトのもとに実践され、具体的にどんな取り組みがなされているのか、
キーパーソンに聞いた。

多様性とコミュニケーションを促進し、世の中にイノベーションをもたらす。教授 野田俊一

超スマート社会
実現するために

 多様性を受け入れるだけでなく、それを認めて活かし合うDiversity&Inclusionという考え方がアメリカでは主流だ。電気通信大学はその思想を活かし、「D.C.&I.戦略」を2017年度からの5か年計画として打ち出した。DはDiversity、CはCommunication、IはInnovationを意味し、多様性を育みながらコミュニケーションを促進し、イノベーションを起こそうというものだ。

 「D.C.&I.戦略」では「研究」と「教育」という2つの柱を軸にプロジェクトを展開していく。研究プロジェクトの一つとして、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)が平成29年度から開始する「未来社会創造事業」に応募。企業や大学からの応募は600件を超え、そのうち55テーマが採択されているが、電気通信大学では2件のテーマが採択された、これは5件以上の応募を行った機関の中ではトップの採択率であるという。この事業は探索期間が1年半設けられているのが特徴で、5年間の本格研究期間がスタートするのは2019年度からとなっている。【図1】

 未来社会創造事業は社会・産業ニーズを踏まえ、経済・社会的にインパクトのあるチャレンジングな目標を設定し、POC(概念実証:実用化が可能かどうか見極められる段階)を目指した研究開発を目的とするものである。「超スマート社会の実現」「持続可能な社会の実現」「世界一の安全・安心社会の実現」「地球規模課題である低炭素社会の実現」という4つのテーマが設けられているが、田野教授が代表となり応募したのは超スマート社会の実現だ。【図2】

【図1】 【図2】

 超スマート社会というテーマにおいては、JSTよりかなり厳しい条件が示された。ドローンを使った宅配サービス、無人タクシー、全自動化された農業などはすぐ先に訪れるであろう社会であるため、そうした類は超スマート社会とは言わないと言うのである。しかしながら、何をもって超スマート社会というのかの定義づけはされていない。

 そうした状況の下、田野教授らがまとめた研究開発課題が「機械・人間知とサイバー・物理の漸進融合プラットフォーム」だ。現在、AIやビッグデータは社会の大きな注目を集めている。これからどんなサービスが開発されるか、期待している人も多いだろう。しかし、AIとビッグデータの活用にはまだ問題点が多いというのが本課題での考えだ。

 例えばAIを活用した技術に囲碁システムの「Alpha Go」がある。世界トップクラスの棋士を負かすほどのシステムだが、問題なのはどうやって戦略を練っているかが分からない点だ。何を根拠に次の手を打っているのか。言語化されていないため、その戦略を他の分野に応用できていない。またAIによる画像識別においても、1ドットずらすだけで犬と猫を誤って判断するという、認識の危うさも内包している。

 一方、ビッグデータは人間が解析しているのが課題だ。解析の実務者が「おむつを買う若い夫婦は、パンケーキを食べる傾向にある」という関連性を突き止めたとしても、小売店の現場では「当たり前」なのである。

 つまりAIはごく狭い領域で大発見をしているが応用が利かない。一方、ビッグデータは人間が解析しているので応用は利くが、ごく当たり前のことしか発見できていない。この点に着目し、機械と人間の知能を相互に機能させることで、超スマート社会を生み出そうとしている。

超スマート社会
先に目指すもの

 本課題では、学内の約50名の教員により、8つのチーム、7つのテーマを構成し、多様性をもたせている。また、メンバーの教員たちは2週間に1回のペースで会議を開き、意見交換を行っている。さらには自動車、鉄道、建築、医療といった様々な分野の企業とも連携するなど、まさに「D.C.&I.戦略」を基盤としている。【図3】

 現在はまだ探索期間であるため、各教員や企業担当者が議論を交わしながら、超スマート社会とはどういう社会か、世の中はどう変わっていくのか、イメージを膨らませている段階だ。それを固め、2019年度より5年間に渡って研究を行い、社会への実装を目指す。

【図3】

この課題がイメージしている超スマート社会はスケールが大きい。現段階では、鉄道であれば鉄道会社だけ、医療であれば病院内だけでネットワークが完結しているが、これをオープンにしていこうというのだ。例えば、ある行動を取る人はどういう病気に罹患しやすいかはゲノムによって解明されているため、外食産業と連携して、その人の病気リスクを高めるメニューは提供しない、といったサービスを展開することも考えられる。【図4】

【図4】

 また、発電所ではこれまでの経験や勘に基づいて発電量をコントロールしているが、鉄道の運行本数や工場の稼働状態などをリアルタイムに把握し、機械が自ら発電量をコントロールできるようになるかもしれない。そうした技術が実現すれば、今よりもっと便利で、もっと効率的な社会になるだろう。  そして超スマート社会の先に見据えているのが、「科学的発見の加速」だ。今まではその分野の専門家が長い時間をかけて研究に没頭することで発見を得ていたが、AIやビッグデータに分析を手伝ってもらえばそのスピードを加速することができる。