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国立大学法人 電気通信大学

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新たな世界を切り開け 電気通信大学が挑み続ける最先端技術の研究。
それはどんなコンセプトのもとに実践され、具体的にどんな取り組みがなされているのか、
キーパーソンに聞いた。

驚くもの、誰もが心を動かすものをつくろう。大学院情報理工学研究科、情報理工学域 情報学専攻、Ⅰ類 (情報系)助教 小泉 直也

夢のようなファンタジー
の世界を描き出す

 水が入った木の器の水面に妖精の空中像が浮かんでいる。手招きをすれば水上を飛び交うように動き回り、両手を差し伸べて水をすくえば、手の中にある水とともに妖精も一緒に浮き上がってくる。

 

 小泉直也研究室では、こんな夢のようなファンタジーの世界を描き出すインタラクション(相互作用)システムを開発し、一般社団法人「デジタルコンテンツ協会」がイノベーションによってコンテンツ産業の発展に大きく貢献することが期待される技術を発掘・発信する「Innovative Technologies 2018」を2018年6月に受賞した。同年3月にも一般社団法人「情報処理学会」の「インタラクション2018」で賞を受け、同年8月にはCGとインタラクティブ技術のトップ国際会議であるSIGGRAPHのEmerging Technologies にて展示,同年11月には国際会議ACM International Conference on Interactive Surfaces and Spacesにて論文を発表している。

 小泉研究室が開発した「FairLift(フェアリフト)」は、裸眼で見ることができる空中像を使った相互作用システム。このシステムでは、光が入射方向に反射する再帰透過型光学素子と呼ばれる特殊な構造をしたミラープレートを用いて水面上に空中像が現れる。水面を超音波センサで測定して光源ディスプレイから出る画像の結像位置を制御することで、あたかも空中像と対話しているかのような感覚を引き起こし、バーチャルリアリティ(VR、人工現実感)の可能性を大きく広げる取り組みと注目を集めた。

 小泉助教は「できる限り環境に溶け込むようなものを、と考えました。コンピューターグラフィクス(CG)と物理世界をつなぐディスプレイの方法をつくりたいと、実環境のどこにでもある水を使うことにしました。それでも水の上に空中像を出すだけでは研究としての新規性を主張しきれません。それをどのように美しく見せるか、どうすれば人は心を動かすのかを考えなければなりません。そこで人が手を入れるような組み立てを考え、手、水といったごく普通のものに対し、そこにいかにも実在しそうもないCGを出して、それらが本当に融合している感じを出す演出とその工学的実装の検討に時間をかけました」と研究を振り返る。

可能性を持った技術
の研究に取り組む

 小泉研究室では、理工学的な技術や知見と、人が心を動かし、行動を起こすための物語づくりの高度な融合を目指している。小泉助教は知能機械工学とともに感情や意思、思考などを伝え合うための媒体や手段をデザインするメディアデザインを学び、研究室ではVR、空中像、視覚と聴覚など本来は別々の知覚が影響しあうクロスモーダル、デジタルデータで創造物を制作するデジタルファブリケーションをキーワードに研究を展開している。

 「機械そのものではなく、機械と機械を使う人間との関係がおもしろい、と研究を始めました」と話す小泉助教は、人間の認知、情動、行動を考察し、ユーザーと機械を含んだ系をシステム的にとらえて構築するヒューマンインターフェースと呼ばれる分野に踏み入れながら探究を行い、日常の生活やエンターテインメントの世界での応用に加え、介護や医療などの分野にも寄与する可能性を持った技術の研究に取り組んでいる。

 小泉助教は科学技術振興機構(JST)「さきがけ」の研究員も兼任し、競争的資金を獲得して空中像をはじめとするVRの研究を進める。公共空間に適した視覚情報提示技術として、環境光採光型空中像光学系を用いた空中像提示が、観衆の行動誘発に効果をもたらすことを検証するものだ。省エネルギーで効率的なデジタルサイネージの実現に寄与する研究で、公園のような屋外公共空間で視認可能な情報提示装置の開発につながっている。

 「VRはようやく産業界で本格的な動きが出始めています。公共の施設などで私たちのつくったVRを展示する機会を数多くいただいていますが、VRは体験するとおもしろいと感じられ、楽しいと良い印象をもって帰ってもらえます。単に見るだけでは『見た』だけで終わってしまいますが、妖精の空中像や水に手を差し伸べたり、VRで非現実をあたかも現実のように感じるなど、何かを『した』という感覚を与えられるような工夫をめぐらせています。VRは体験することができるのです。よく分からないという人にも見せ、体験させることで、すぐに分かってもらえ、インパクトを与えることができます」

新しい可能性を生み出し
現実のものにする

 小泉研究室では、現実世界に合わせてサンタクロースのキャラクターが動くインタラクション、温度変化で発色が変わるインクを使ったスニーカーやペーパークラフト、空中映像のシステムにカメラを組み合わせた見つめ合うことのできる空中像キャラクターのデザインなど、使用する素材や出来上がったプロダクツの質感にも細かく配慮した美しく、楽しさも満載のものづくりが盛んに行われている。

 

 「電気通信大学は、理工学の基礎知識を身につけた学生を社会に出していく教育機関ですが、私の研究室では日本的な強み、日本ならではのものを表すデザインを学んでいただきたいと考えています。映画やアニメ、小説で接したような未来も、ファンタジーの世界も、自ら手にしている技術を進化させ、新しい可能性を生み出すことで現実のものにすることができるはずです。誰もが驚くものをつくろう。そう呼びかけながら研究を進めています」