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国立大学法人 電気通信大学

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新たな世界を切り開け 電気通信大学が挑み続ける最先端技術の研究。
それはどんなコンセプトのもとに実践され、具体的にどんな取り組みがなされているのか、
キーパーソンに聞いた。

社会基盤を支える世界最高水準のワイヤレス技術を探究。教授 山尾 泰

無線・通信分野での
世界最高水準の研究拠点

 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター(AWCC)は、あらゆるモノがワイヤレス技術によって繋がるスマート社会の実現に寄与するため、「情報通信を支えるワイヤレスから社会基盤を支えるワイヤレスへ」をビジョンに掲げ、電気通信大学の建学以来の強みである無線・通信分野における世界最高水準の研究拠点を目指している。

 AWCCセンター長の山尾泰教授は「私たちはこれからの社会に何が必要かを問い、多様な用途で多様な要求に応える技術を研究しています。できた技術を何に使うかというよりも、今後こういうことが必要となるからそのための技術をつくる、という考え方です」。

 日本国内だけを見ても少子高齢化、地方の活性化をはじめ、問題、課題が山積する。「人に代わってモノが生活や社会を支える基盤を担うことで解決が図られます。これからは人がいなくても自律的に通信が行われ、社会が滑らかに動くためのワイヤレス技術が必要です。私たちの研究ビジョンを英語で表すとAmbient Wireless in Connected Community。Ambientは目には見えないけれども存在する、といった意味があり、気づかないけれども空気のように必要なワイヤレス技術を表しており、その頭文字を拾えばセンターの略称と同じになります」と山尾センター長は話す。

 AWCCは「社会基盤ワイヤレス工学」「革新的ハードウェア」「最先端ワイヤレスシステム」「低電力ワイヤレス」の4つを研究分野とし、これらを研究する部門が密接に連携・協同し、組織を挙げて「安心・安全」「頼れる」「先進的」「エコ」な社会の実現・発展に貢献することを目指す。センター構成員の研究専門分野は電磁界解析・電波伝搬、無線信号処理、ネットワーク、アンテナ、マイクロ波デバイス、無線回路、無線・光通信方式、情報理論などワイヤレス・通信関連の技術を広範にカバーし、統合的に対処する体制が築かれている。また産業界の有力プレーヤーを客員教授に招き、研究戦略立案と産学連携研究を推進する。

 「社会基盤ワイヤレス工学の研究ターゲットの一つであるITS(高度道路交通システム)は、ミリ波レーダーをはじめとする車載センサ技術や高精度地図をダウンロードして自律走行する研究が現在ピークを迎えていますが、交通は流れであることを重視して、私たちは個々の車が自動走行することからさらに一歩先を見据え、車同士で情報を共有する協調型の自動運転を大きなテーマとして捉えています。一例として、見通しがきかず、建物などで電波が弱くなる交差点で中継器を置く技術開発を行い、現在は市街地の一定区画にいる千数百台の車両間でどの程度通信が可能かについてマクロ単位でのシミュレーションを完了し、ミクロ単位での詳細な解析を進めています」


「戦略的イノベーション創造プログラム」

 ITSの研究は、国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の対象課題「自動走行(自動運転)システム」実現に不可欠な車車間通信、路車間通信の技術開発で大きな役割を担った。また、伝送速度100倍、1k㎡あたり100万台のデバイスの収容、無線区間遅延1㍉秒以下を目指す第5世代移動通信(5G)に向けて、総務省、科学技術振興機構(JST)、情報通信研究機構(NICT)をはじめとする国立研究開発機関や産業界との連携をいっそう深めている。

 5Gではミリ波やビームフォーミングアンテナを使うなど、さまざまな新しい技術が使われ、そのために革新的なハードウェアが必要になりますが、企業では基礎研究までをカバーすることが困難になりつつあり、大学の役割はますます重要になっています。さらに国際的な基準に沿った将来のシステムづくりには海外との連携が欠かせませんので、海外の大学・研究機関との人脈を活かした国際共同研究を進めています。また身近なワイヤレスの利用では、電波を当てると電波のエネルギーでICチップが動き、電波に変調をかけて商品情報を返してくるRF-ID技術は商品タグに利用され、マルチホップ機能を有する自律分散型通信の例ではスマートメーターのシステムづくりに貢献するなど、低電力ワイヤレス分野の技術革新が急がれます。また金属接点やコネクタなどを介さずに電力供給の可能なワイヤレス電力伝送技術は、スマホや小型の家電品から自動車など、より大きな用途に拡大しており、技術が定着すれば、無線通信と併せて、より便利な社会が実現します」

研究の最先端を見つめ続ける

 山尾研究室にはユビキタスワイヤレス、ワイヤレスエコの2つの研究グループがあり、ITS通信システム、自動認識技術のRFIDの信頼度向上などを盛り込んだIoT(モノのインターネット)デバイス通信、高信頼・高効率マルチホップ通信技術、再構築可能なリコンフィギャラブル無線回路、アナログ回路に複数の無線信号を入力した際の歪みを小さくして周波数の利用効率を高める非線形無線信号処理技術、レーダー信号処理など広汎な分野を研究し、AWCCの根幹として機能している。

 

 リコンフィギャラブル無線回路は用途、状況に応じて8つの周波数を切り替えるフィルタが開発の最終段階を迎え、通常5つ以上の無線回路を搭載するスマホはこのフィルタで無線回路を半減し、機器のさらなる小型化も可能になる。一方、信号処理の分野では長年の研究に拍車がかかる。

 
   
     

 「通信のハードウェアをつくる上で信号処理はとても重要で、特に非線形補償がうまくできればパフォーマンスがどんどん上がります。これまでの信号処理では送信機のPA(電力増幅器)から生じる歪みを除く研究が中心でしたが、5Gでは信号の多重化が高度化するため、受信機側でいかに信号をきれいに復元するかが重要になります。そこで受信非線形補償の研究を2年前から先行して進めています。社会や生活の中で何が求められ、何をしなければならないかを広い視野から見つめ、ハード、ソフト両面の研究を通して実現する人材づくり、モノづくりを進めたいと考えています」と山尾教授は研究の最先端を見つめ続ける。