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国立大学法人 電気通信大学

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新たな世界を切り開け 電気通信大学が挑み続ける最先端技術の研究。
それはどんなコンセプトのもとに実践され、具体的にどんな取り組みがなされているのか、
キーパーソンに聞いた。

GISとビッグデータ融合による新システムで社会に貢献。教授 山本 佳世子

GISとビッグデータ融合による
新システムで社会に貢献

気候変動の影響とみられる豪雨災害が多発し、危険個所の情報共有など災害への備えが一段と重要になっている。そうした自然災害対策をはじめ効率的なインフラ整備、企業の顧客動向分析などに威力を発揮するとして、近年、注目を集めるのが地理情報システム(GIS)だ。大学院情報理工学研究科の山本佳世子教授(情報学専攻)は、これにツイッターやSNSといったソーシャルメディアなどのビッグデータを組み合わせることで情報の双方向性を実現し、より有用性の高いシステムとして新たな世界を切り拓きつつある。


投稿情報で災害時の的確・効率的な避難実現へ

GISとは、その位置の情報やデータを加工し、デジタル地図上に2次元、3次元で分かりやすく表示して分析や判断に利用する技術。データに隠されている関係性や傾向などを可視化できるため的確な意思決定、効率的な情報把握などが図れるとして多方面で利用されている。山本教授は「仮想世界と現実世界をつなぐ情報システム」と表現する。そのうえで「GISを活用した様々なシステムをつくり、それをもとに現実世界に向けてアクションを起こしたり、行政への提言などをしていきたい」と話す。GISを通じ社会問題の解決に貢献したいとの思いだ。

しかし、各種データとデジタル地図を組み合わせただけでは一般的なGISの域を出ない。そこで付加価値をもう一段高めようと考案したのが、位置情報が備わったソーシャルメディアとの融合。これにはある目論見もあった。訪日外国人3,000万人時代を迎え、日本人にはあまり見向きされない地方の観光地が、感性の違いから外国人には意外にも人気スポットだったりする。ソーシャルメディアから情報を広く収集して、そうした裏観光名所をクローズアップすれば地域活性化に協力できるのではないかというわけだ。

とはいえソーシャルメディア情報が付加されたGISが力を発揮するのは、やはり防災・減災の分野だ。その具体例として三鷹ネットワーク大学推進機構との協働研究事業をあげることができる。山本教授が開発したシステムの実証実験が東京都三鷹市、三鷹市民、同市民団体などの協力を得て大々的に実施された。

ここでは開発した災害情報支援システムに地域住民がスマホやパソコン、タブレット端末から自由に投稿・閲覧できる仕組みを構築。三鷹市の災害関連行政情報に、住民が投稿した情報を集めて統一的に表示し、情報共有することによって災害発生時の効率的避難や日頃の防災意識の向上などにつなげようとしたものだ。地元ならではの有益な生情報がGISに載ることにより、より実効性の高い災害情報マップとして機能するし、それぞれが居住地周辺の災害支援施設や避難路などを確認することができる。

例えば災害支援施設の情報に関しては、施設を一時滞在施設、避難所など7つのカテゴリーに分類し、必要な情報だけを取り出せるように工夫した。一例としてあげたこうした行政情報に住民情報が加わり、より厚みのある情報としてリアルタイムに更新されて行く格好だ。さらに、住民の投稿によって、投稿情報に重み付けをできるようにし、ランキング表示する機能も盛り込んだ。山本教授は「同じ情報を持っている人が多いほど情報の信頼性が増す。こうした情報は安全な通学路の確認や災害に脆弱な場所の改善など、多くの分野で活用できるのではないか。災害情報を日頃から身近なものに思ってほしい」と訴える。

類似の例として、東京都日の出町を対象に土砂災害発生時の避難支援に向けたGIS利用ハザードマップも開発した。ここでもソーシャルメディアを活用している。各自治体が作成・提供するPDFベースのハザードマップは、行政がもつ情報だけに限られるうえ、特定時点の情報にならざるを得ない。このことがハザードマップに関心を示さない要因との指摘もある。ソーシャルメディア情報を取り込んだGIS版ハザードマップが普及すれば、ハザードマップの本来の役目を果たす効果が期待される。

これらに関連し、基礎的な研究として避難経路を効率的に導き出す手法の研究にも挑んでいる。この中で特に目を引くのは、効率的な経路の探索に動物のように餌のある方向に移動する粘菌のアルゴリズムを用いた研究だ。東京都産業技術研究センターと共同で実施した同研究では、一般的な経路探索手法として知られるダイクストラ法と比較した結果、粘菌アルゴリズムの方が、避難成功率が高い経路を導出するなどの点で優位性が確認できたとしている。

GISとARが生み出す新たな旅のカタチ、
外国人もラクラク散策

GISの機能を踏まえると、その活用範囲は防災・減災にとどまらず無限大だといえる。そこでGISにAR(拡張現実)と呼ばれる技術を組み合わせ、言語のバリアフリー化という難題にも取り組み、その解決に道を開いた。東京都立産業技術研究センターと共同で「言葉の壁がない観光ナビゲーションシステム」を実用化し、日本全国で運用を開始した。今後は自治体や企業との連携により普及を進め、観光スポット情報のさらなる蓄積を図っていく。

前述したように訪日外国人は人気の観光地だけを訪れるとは限らない。受け入れ側は一般的には多言語化で対応しようとするが、多くの言語を網羅するには限界がある。

     
 

これをうけて、言語に依存することなくスムーズに観光を楽しんでもらうことを目的に開発したのが、このナビシステムだ。AR技術により実在する風景にバーチャルの視覚情報をGIS上で重ねて表示できるようにしてある。言語バリアフリー化を実現するために、観光スポットの種類や駅、レストランなどをヒストグラム、距離や移動時間、料金をアラビア数字で表示する。アプリをダウンロードしたスマホやタブレット端末を使ってGPSを立ち上げると、登録されている周囲の観光スポットのバーチャル画像や到達距離、移動料金などが表示される仕組み。観光スポットをナビシステムが推薦してくれる機能もあり、この場合は英語で簡単な紹介文が記される。

 

GISやARを観光分野に活用する研究は、このほかにも多く進められている。公共交通機関を使って香川県内の島めぐりなどを効率的に楽しめるようにと実際の時刻表データを取り込み、やはりその方向にある観光名所を季節別にバーチャル表示する機能などを持つ香川県に特化したシステムもすでに開発済み。首都圏の人気観光地である鎌倉を対象にしたものでは、訪問客が訪問回数や好みなどを入力すると、訪ねたいと思われる神社仏閣などを選んでくれる推薦機能を盛り込んだシステムもある。社会的課題の解決や、充実した生活を楽しむためのツールとしてGISの活躍の場が広がっていくのは間違いない。今後も山本研究室からは革新的なGISシステムが続々と提案されることになりそうだ。

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