研究室紹介OPAL-RING
西 研究室
世界一のカメラを評価する
所属 | 大学院情報理工学研究科 情報・通信工学専攻 |
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メンバー | 西 一樹 准教授 |
所属学会 | 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE) |
研究室HP | http://nishi-lab.cei.uec.ac.jp/ |
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掲載情報は2016年3月現在
- 西 一樹 Kazuki NISHI
- キーワード
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波動信号処理、画像処理、センサ信号処理、手ブレ測定、シャッター振動測定、カメラ解像度測定、バーコードリーダー、パルスオキシメーター
昨今、日本製品が世界で存在感を失っています。かつて日本には世界シェアを持つ製品が幾つもありましたが、現在では家電業界を筆頭に多くの業種が苦戦を強いられています。 その一方で、今なお強い競争力を維持している分野があるのも事実です。 自動車がその代表であり、産業用ロボットや素材産業なども確固たる地位を獲得しています。もうひとつ、忘れてはならないのがカメラです。
カメラは最後の砦
日本のデジタルカメラの世界シェアは70%を超えています。その中でも一眼レフのシェアは98%を占めており、まさに日本の独壇場と言えるでしょう。 高性能なレンズや複雑なシャッター機構からなるカメラは精密機械そのものです。「日本のモノづくりにとって、高級カメラは最後の砦」と話す西一樹准教授は、 こうしたカメラの製造にかかせない“世界唯一”の技術を開発しています。
唯一の評価手法
西准教授が考案したのは、高性能カメラを評価する手法です。
というのも、「たとえ他国に技術をまねされても、彼らが性能を評価するツールを持っていなければ、日本のカメラの価値は揺らがない」との考えがあるからです。
具体的には、カメラの「振動」を定量的に測定する手法を開発しています。シャッターを押した時の手ブレやシャッター幕の開閉に伴う振動、一眼レフのミラーを上下させた時に起こる振動です。
静止したある格子パターンをカメラで撮影し、その静止画のズレを解析する従来手法は、振動の幅を大まかには計れても時間的に評価することはできませんでした。
動画チャートで解析
- シャッター振動測定実験
これに対して、西准教授は「動画テストチャート」と呼ぶ手法を考案し、パターンを高速でずらしながら撮影することで、シャッターが下りるまでの間に最大64枚のフレームを切り替えられるようにしました。撮影したパターンを画像処理によって解析すれば、振動の時間変化を2次元の軌跡で表せるのです。なんと、肉眼では判別できない「0.1画素レベルのズレを見分けられる」そうです。カメラの性能が上がれば上がるほど、微小な振動でも画質の劣化を引き起こします。しかし、振動の様子が詳しく分かれば、カメラメーカーはその振動を抑えるための技術の検討や原因究明などの対策を取ることができます。西准教授が開発した評価ツールは、既に多くの国内外のメーカーへ導入され、「世界一のカメラ」にとってその品質を保つための重要な“物差し”になっているのです。
企業のニーズに応える
- 手ブレ計測・補正評価システム
このように、西准教授は画像処理や信号処理を得意とし、主に計測分野で活躍していますが、それは「産業界のニーズに応える技術を開発する」ことを目指してきた結果だそうです。産学連携を基本姿勢とし、それも大学が一方的に企業にシーズを持ち込むのではなく、企業が求める技術に大学としてどう対応できるかを考える。
その結果、「必要とされる技術として実用化されればうれしい」と西准教授は考えています。学生にとっても、企業との共同開発に直接携わることで「実践力」を磨けるという利点もあります。
カメラの評価手法の開発も、もとは企業に依頼されて始めたテーマだったといいます。現在はカメラに標準装備されるようになった「手ブレ補正」技術ですが、西准教授はこの技術に不可欠な手ブレや振動の評価ツールを企業の要望により開発したことが、この道を極めるきっかけになったそうです。現在では、カメラの評価会社と共同で振動計測・補正評価システムを製品化できるまでになりました。
- スマホ版パルスオキシメーター
そのほか、家庭用医療機器の研究開発も手がけています。脈拍数と血中酸素濃度を連続的に測定できる小型の「パルスオキシメーター」は現在でこそ普及していますが、 西准教授は学生とすでに5、6年前に、ある企業と共同で簡易なスマートフォン版のパルスオキシメーターを開発していました。 これがようやく、メーカーから近々製品化されることになりました。さらにこの研究は、「自らの命を救った研究」でもあります。 西准教授が、自身の呼吸器障害による在宅酸素導入の必要性を知るきっかけになったそうです。
実用化に向けて
これまでのさまざまな実績から、西准教授は「理解のある企業と長期にわたって連携できるかどうか」が産学連携の重要なポイントだと考えるようになりました。
さらに、「面白いからという理由だけで研究し、その成果が活用されずに終わってしまってはもったいない。実際に使えるモノまでどう持って行くか、
その過程で工夫を重ねることにやりがいがある」と感じているそうです。
もっとも、「実用化にまで到達させるには、大学側も開発のかなりの部分まで食い込むことが重要」であることも経験から分かってきました。
- スマホ版手ブレ計測システム
- 光軸歪み測定システム
- 超解像バーコードリーダー
【取材・文=藤木信穂】