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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
和田 光司 研究室

次世代無線通信向けの高周波回路部品の設計

所属 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻
先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター
メンバー 和田 光司 教授
所属学会 電子情報通信学会、電気学会、エレクトロニクス実装学会
メールアドレス wada.koji@uec.ac.jp
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掲載情報は2024年5月現在

和田 光司
WADA Koji
キーワード

共振器、フィルタ、部品内蔵基板、分波回路、LTCC(低温同時焼成セラミック)、メタマテリアル回路、SAWフィルタ、受動回路

近年、数百メガヘルツ(メガは100万)から数ギガヘルツ(ギガは10億)の広い周波数帯域を使い、高速通信と高精度な測位を可能にする超広帯域(Ultra-Wide Band:UWB)無線通信が再び注目されています。かつて米インテルが製品に採用しようとしましたが、その後撤退したことから普及には至りませんでした。
しかし、ここに来て第5世代通信(5G)やスマートフォン、自動運転車用レーダー、医療用ボディエリアネットワークなどにUWB無線が導入され、急速な盛り上がりをみせています。UWB無線は10dB比帯域幅が中心周波数の20%以上、または帯域幅が500メガヘルツ以上の通信と定義されており、これらのUWBシステムには決まった周波数の信号のみを取り出す高性能な高周波フィルタが欠かせません。

50円玉の穴にフィルタ

無線通信で用いるこのような高周波の回路部品の設計・開発に取り組む和田光司教授は、50円玉の小さな穴の中に微細な回路を組んだ高性能なフィルタを作製するなど、小型かつ複雑な加工技術を得意としています。システムの小型化・高性能化に伴って搭載する部品にも小型化の要求が強まっていますが、小型化すると特性が低下することからフィルタの作製の難易度は上がっています。

フィルタの作製には複数の工程が必要

フィルタなどの回路部品はプログラミングや各種シミュレーションを経て加工機で基板加工し、その性能を測定器で測ります。ここでは和田研究室で長年開発してきた広帯域フィルタとその分波回路への応用について紹介しましょう。広帯域フィルタの中でも「シングルバンド形」やバンドが二つある「デュアルバンド形」などさまざまな種類があります。

多様な広帯域フィルタを作製

和田教授はシングルバンド形フィルタについて、マイクロストリップ線路フィルタや、ローバンドとハイバンドの積層構造のフィルタなどを作製してきました。いずれも広帯域の周波数を精度良く取り出すことが可能で、設置場所も調整できるほか、積層構造フィルタは低温同時焼成セラミック(Low Temperature Co-fired Ceramic:LTCC)基板を用いることで小型化に成功しています。
一方、デュアルバンド形は従来の狭帯域向けに比べて広帯域向けの開発は困難でしたが、企業と共同で研究に取り組み、LTCC基板を用いて積層化し、小型化しつつ実用的な回路に作り込むことができました。また、自動運転車用のレーダーなどに使われる準ミリ波帯の積層型フィルタも試作し、天文学の研究機関向けの水蒸気ラジオメータシステムへの組み込みを目指しているそうです。これらのフィルタを複数使った広帯域の分波回路も作製しています。

開発したデュアルバンド形フィルタ
開発した分波回路

チップレスRFIDタグ

試作したチップレスRFIDタグ

最近、チップレスの無線識別(RFID)タグと、超広帯域インパルス無線(IR-UWB)を用いたチップレスのRFIDタグリーダーも試作しました。カード型のRFIDタグの中でもICチップが搭載されていないチップレスタイプは大容量の情報を乗せられない分、漏えいの心配などがなくセキュリティを高められます。

感性を生かすものづくり

ものづくりの研究室が年々減少するなかで、実際に手を動かしながら最先端の回路を設計し、測定まで行う和田研究室は希有な存在です。和田教授には、業界で先陣を切って企業との共同研究に取り組み、産学連携の基盤を作ってきた自負があります。今なお第一線で活躍しているのは、「日本の部品がこれからも世界で優位性を保つために、回路技術や設計ノウハウなどで企業のお役に立てられることがあればうれしい」と考えているからです。
回路の設計は単なるものづくりにとどまりません。「数学などのデータサイエンスや物理、化学はもちろん、芸術が好きな学生も歓迎」だと和田教授は言います。限られた面積にいかに回路を組み込むかといった研究には、専門知識に加えてデザイン力も必要です。百戦錬磨を経て鍛えられてきた経験と勘、さらに感性によってブレークスルーを起こせる可能性があるのです。和田教授は教育においては、チャンピオンデータを追求するよりも、学生の“個性”を生かすことを大事にしているそうです。

【取材・文=藤木信穂】