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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
大川 研究室

次世代エネルギーの安全性、効率化に寄与する熱流動の研究

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
i-パワードエネルギー・システム研究センター長
メンバー 大川 富雄 教授
所属学会 日本機械学会、日本原子力学会、日本混相流学会、日本伝熱学会、米国機械学会、日本鉄鋼協会
研究室HP http://www.eel.mi.uec.ac.jp/
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掲載情報は2019年4月現在

大川 富雄
Tomio OKAWA
キーワード

熱流動、混相流、気液二相流、気泡、液滴、液膜、スプレー、相変化熱伝達、沸騰、凝縮、限界熱流束(CHF)、原子炉熱流動、燃料電池、電子機器冷却、CCS、強制対流サブクール沸騰

研究概要

原子力や火力などの発電プラントからコンピュータ内部の中央演算処理装置(CPU)に至るまで、多くの機器には発熱体を冷やす冷却技術が欠かせません。冷却には空冷や水冷などいくつかの方法がありますが、中でも最も効率がよいのが「沸騰冷却(以下、沸騰)」と呼ばれる方式です。
水冷は空冷の約100倍、また水を沸騰させ気化熱によって冷やす沸騰は水冷の10倍以上の伝熱性能を持っています。しかし、沸騰は気体と液体が混ざり合った複雑な流れ(気液二相流)であるため、その詳細なメカニズムはいまだ分かっていません。大川富雄教授は沸騰や凝縮といった相変化を伴う伝熱の中で、特に沸騰について長年研究してきました。

サブクール沸騰の仕組み解明

最近の大きな進展が、飽和温度以下のまま沸騰が進む「サブクール沸騰」の研究です。ボイラーやタービン、エンジンなど高温・高圧下で使う機械部品の内部では、液体が強制的な流動を伴いつつ沸騰する強制対流のサブクール沸騰が起こりますが、その際に一定の条件になると気体の占める体積比率(ボイド率)が急増します。

大川教授はこの有意ボイド発生点(OSV)の原因を初めて突き止め、その現象の発見から約50年間にわたって不明だったサブクール沸騰の仕組みを明らかにしました。これによってボイド率を正確に予測することができれば、「流動の安定につながり、発電プラントの安全性の向上などに寄与できる」と期待しています。

沸騰現象を伝熱面の裏側から可視化
沸騰現象を伝熱面の裏側から可視化

スプラッシュの研究

スプラッシュ現象
スプラッシュ現象

このほか、液体の噴流が床などに落下した時の液滴の飛散量を予測したり、液滴が水面に衝突すると発生する二次液滴「スプラッシュ」の発生条件を研究したりもしています。液体の挙動についてのこうした知見は、例えば有害な液体が大気中に拡散した際の状況の把握や、スプレー噴射時の効能などの検証、液跳ねがよく起こるボイラー内部の設計時など多くの場面で活用できるでしょう。

ナノ流体で電子機器を冷やす

さらに大川教授は、水にナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)の粒子を分散させると冷却効率が高まる現象のメカニズムも解明しました。この「ナノ流体」を加熱すると、次第に水面付近にナノ粒子が層を作り、これが断熱層として働いてモノを冷やす際の冷却時間を短くできることを実験により明らかにしました。逆に、ナノ粒子の量が少なく層が薄いと、表面の粗さが露出されるために熱が移動しやすくなって冷却に時間がかかることが分かりました。

実際に、高い発熱を起こすスマートフォン内部のヒートパイプやスーパーコンピュータ内のCPU、電気自動車のインバータなどの冷却のほか、鋼材の熱処理時の均一な急冷、原子炉の緊急冷却などを目指したナノ流体の応用研究も手がけています。特に、電子機器は小型化や高性能化に伴ってより高効率の冷却技術が求められており、今後そのニーズはますます高まるに違いありません。

ナノ粒子層の様相
超高速冷却の可能性

溶融塩炉の安全性向上へ

加えて、液体の塩に核物質を混ぜたものを燃料として用いる第4世代原子炉「溶融塩炉」において、企業と共同で原子炉と漏水廃液(ドレン)タンクをつなぐ凝固弁(フリーズバルブ)の研究も進めています。溶融塩炉は有事の際に原子炉内の燃料を外部へ逃がすことができるため、きわめて安全性が高いとされています。
フリーズバルブはその安全性を左右するキーコンポーネントですが、非常事態にフリーズバルブの下部から液体燃料を排出する際、これまで作動時間を正確に予測することができませんでした。大川教授はその時間をより精度良く予測するとともに、作動時間を短縮する方法を検討しています。こうした溶融塩炉の研究は、「低コストの再生可能エネルギーである太陽熱発電向けの蓄熱技術にも応用できる」そうです。

フリーズバルブ作動時間

このように、大川教授は熱流動工学をベースにして、安全かつ高効率の次世代エネルギーシステムや将来のエレクトロニクスの発展に貢献しています。

 

【取材・文=藤木信穂】