このページの先頭です

メニューを飛ばして本文を読む

ここから本文です

サイト内の現在位置

研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
水野 研究室

生体情報を用いたヒューマンインタフェースの研究

所属 大学院情報理工学研究科 情報学専攻
メンバー 水野 統太 准教授
所属学会 電気学会、日本バーチャルリアリティ学会、感性工学会、電子情報通信学会
メールアドレス mizuno@uec.ac.jp
印刷用PDF

掲載情報は2019年4月現在

水野 統太 Tota MIZUNO
キーワード

ヒューマンコンピュータインタラクション、生体情報工学、ヒューマンインタフェース、 バーチャルリアリティ、感性情報処理

本や漫画を読んで感動した時の心の動きを測定できたら――。生体情報を使ったヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)を研究する水野統太准教授は、こうした目的から、現在出版社と共同で「感動」を可視化する研究に取り組んでいます。

自律神経の活動を推定

利用するのは、赤外線を使って非接触で皮膚の温度を測るサーモグラフィです。人はストレスを受けると、自律神経のうちの交感神経が働き、反対に、リラックス状態になると副交感神経が働きます。この自律神経活動に伴って体表面の毛細血管の血流量が変化します。皮膚温度は血流量によって変わるため、皮膚温度の変化を測れば、人の心理状態を把握することができるのです。特に手先や足先、鼻などは自律神経活動による温度変化が大きいため、過去にはこうした部位を対象にした研究が行われてきました。
水野准教授は、自律神経活動を推定する「瞬間型」「眼鏡型」「追尾型」という三つのインタフェースを研究・開発しています。鼻の温度だけを利用する従来手法は自律神経活動の評価に時間がかかっていましたが、水野准教授は顔全体の温度を使用することで瞬時に評価できる可能性を示しました。

「感動」のパターンを明らかに

一方、眼鏡型は鼻と額の温度差を測ることで、動きながらでも正確に測定できるようにしたインタフェースです。耳式温度計と同じセンサを利用しています。追尾型インタフェースは、顔の下半分を自動で検出し、鼻から口にかけての温度変化をリアルタイムに追いながら計測するものです。これまでは手動による操作が不可欠でしたが、アルゴリズムの改良によってほぼ自動化できるようになりました。眼鏡をかけていても計測できます。
この追尾型インタフェースをデスク上に置き、その前に被験者を座らせて漫画を読んでいる時の顔の温度変化を観察したところ、感動するとある決まったパターンが現れることが次第に分かってきました。感動したかどうかは、心理学に基づくアンケートによって被験者に直接質問をしています。

顔面皮膚温度を用いた自律神経活動評価・推定インタフェース
顔面皮膚温度を用いた自律神経活動評価・推定インタフェース
漫画による感動の研究
漫画による感動の研究
   
皮膚電位活動インタフェース
皮膚電位活動インタフェース

さらに、手のひらの皮膚の電位活動から発汗量を計測する新しいインタフェースも開発しています。漫画本を持った時の手の位置にこのシステムを取り付けておくと、読みながら皮膚電位の変動を測ることができ、そこから自律神経活動を推定することができます。

 

これに加えて、カメラと人の間の距離を計測できる深度センサ「リアルセンス」を用いて、漫画により近づいて読んでいる時、すなわち対象に対して前のめりになった時に「興味度が上がっている」と解釈する興味度推定システムも考案しています。

興味度推定システム
興味度推定システム
赤外線サーモグラフィと深度センサ
赤外線サーモグラフィと深度センサ
 

生体情報に基づく推薦システム

これら複数のインタフェースを総合的に解釈し、人が手に汗を握り、感動しているという状況をデータとして示すことができれば、「例えば、感動する作品を作るために、これまで編集者が経験に基づいて作家にアドバイスしてきたようなことを、生体情報を基にして行えるかもしれない」と水野准教授は期待しています。
将来の作家は、こうした“感動パターン”に沿ってストーリー展開を進めるのでしょうか。漫画だけでなく、映画や音楽など文化的な創作活動の多くに取り入れることができそうです。また、「この本に感動した人はこんな本もお勧めです」という形で、ネットショッピングの商品の推薦システムにも使えるかもしれません。個人の生体情報を基にした提案は、人工知能(AI)を使った現在のシステムよりも、より深く人の心に訴えかけることができるでしょう。

人を導くHCI

このほかにも、水野准教授は仮想現実(VR)や感性情報処理など多くの研究テーマを手がけています。例えば視覚情報によって体性感覚を変化させたり、指先に振動を与えてモノに触れた時の柔らかさを変えたりする力覚システムのほか、音楽を聴かせて聴覚を刺激することによる反応速度の変化などを研究しています。
また、人を認識して動作する信号機システムなど道路交通関係の研究や、指や手首のわずかな動作で多くの文字を入力できる少操作多選択肢入力インタフェース、カメラで目の動きをとらえる低コストの視線入力インタフェースといった研究にも取り組んでいます。
すべてのテーマに共通していることは、人間を対象とし、工学的な観点から人間をモデル化することで人間の理解を深めるようとしていることです。特に「生体情報を使って、今よりもポジティブな状況を作り出せるようなHCIシステムを作りたい」と水野准教授は考えています。

【取材・文=藤木信穂】

研究・産学連携
研究
産学官連携