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生涯学習:地域交流・国際交流

創立100周年記念公開講座 -超スマート社会の実現を目指す最先端の科学・技術研究-(第5回)

電気通信大学は2018年に創立100周年を迎えます。この記念事業のひとつとして、2017年6月から全6回の公開講座を実施いたします。

安全運転支援や自動運転を実現するための認知手段である電波センシング法

稲葉 敬之 教授(機械知能システム学専攻)

安心・安全な自動運転車は実現するのか?

自動運転車の話題は、近年ニュースやCMなど生活の様々な場面で見聞きすることも多くなりました。実際に、市販されている車の中には危険を察知し、システムがブレーキを掛けたり、渋滞時に運転手が操作したりすることなく走行するシーンといったことも見かけることもあるでしょう。まさに夢の車の登場という皆さまの期待も高くなってきています。その一方で、自動運転システムが絡む交通事故も増えつつあります。現時点では、自動車メーカーをはじめ、様々な企業が取り組んでいる自動運転技術については、まだまだ解決すべき問題があります。そこで、現状では自動運転技術がどこまで実現していて、どういったセンサー技術を用いているのか、さらに、自動運転車に対応した法整備の現状をご紹介し、安心・安全な自動運転自動車に向けて、今後の課題についても考えていきます。

日本の年間交通事故は昭和46年度から始まった第1次交通安全基本計画以降、5年ごとに作成されており、平成23~27年度までの第9次計画では、平成27年までに3,000人以下という死者数削減目標は達成されませんでした。平成27年度時点で死者数約4000人です。このような状況を受け、平成28~32年度までの「第10次交通安全基本計画」では、「官⺠ITS構想・ロードマップ」を改定しています。また、自動運転については、欧米の動きに歩調を合わせ、「SAE(国際自動車技術会)レベル」を採用し、システムが運転をカバーする度合によって、5段階に分けています。
レベル1は運転者支援です。事故が起きそうな状況をシステムが判断して自動ブレーキをかける機能や、車の走る・止まる動作を自動で行うACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)など、ハンドル操作や加速・減速などの運転のいずれかを、システムが支援することです。
レベル2は部分的運転自動化です。これはACCの進化したものであり、運転支援のうちハンドル操作と加速・減速などの複数の運転をシステムが支援します。ただし、運転手がしっかりと周囲の状況を確認する必要があります。ここまでの段階では人間のミスをシステムがカバーする安全運転支援とよばれます。 レベル3以降からは、システムが運転をしてくれる本格的な自動運転となりますが現時点で市販車はありません。このレベル3は条件付き運転自動化です。周りの状況を確認しながらシステムが運転をしてくれますが、緊急時はドライバーが運転をする必要があります。また、交通量が少ない、天候や視界がよいなど、運転しやすい環境が整っているという条件が自動運転に必要となります。
レベル4は高度運転自動化です。この段階になると、ドライバーが乗らなくても自動運転が可能になりますが、走行環境によっては運転できません。もちろん、工場やサーキット場など、環境が比較的一定な場所では実現可能です。
レベル5は完全運転自動化です。これは文字通り、限定のない完全な運転自動化ですが、各センサーの検知の難しさなどの問題で現状ではまだまだ研究が必要となっています。
この分野はアウトバーンなど高速道路等交通事情の社会的要請から、ドイツが先導しています。そのあとを日本やアメリカなど各社が続き、レベル1~2の段階までは技術的に成功しています。

自動運転の事故は「誰」の責任?

自動運転について問題になってくるのは「誰」が責任を取らなければならないのかということです。市販されているレベル1~2の車で実際に起きた事故では、運転手が法的責任を負う判決が話題になりました。また、レベル4まではあくまで最終責任者は運転手であることに注意すべきです。これらに対応して、国土交通省の「自動運転における損害賠償に関する研究会」では「自動運転における自動車損害賠償保障法(自賠法)の損害賠償責任の課題」として議論が進められています。自動運転の普及により、これまで考えられていなかった事故事例も多く発生することになり、慎重に検討しています。また民間の保険会社から、レベル3までの自動運転技術リスクも含めた自動車保険が既に発売されています。

認知技術のカギとなる電波センシング

自動運転は、認知、判断、制御と3つの技術から成り立ちます。まずは、認知から紹介しましょう。認知手段として用いている、「カメラ」、「レーザ」、「レーダ」はどれも電磁波を検知しています。電磁波の認知手段への応用は、20世紀初めから活発になりました。電磁波は波長の違いによって、それぞれ得意不得意があります。安全運転支援車の事故は、イレギュラーな状況にシステムが対応できずに発生します。人間でも判断に迷う場面において、システムが判断する難しさから起こった事故や、天候状況などによって自動ブレーキが作動しないといった事故も起こっており、センサーの認知能力の高度化が求められています。

これらの問題の解決策の1つとして、電波センシング技術が研究されています。電波センシングとは、いわゆるレーダのことで、電波を送受信し、目標の位置・速度を計測するセンサーのことです。レーダは、電磁波の中でも比較的波長の長い電波(ミリ波、マイクロ波)を検知するセンサーで、他のセンサーと比べると、天候の変化に強く、雨天、雪、夜間、逆光などの状況でも安定して検知することができます。また、1秒間にどれくらいデータを転送できるかというデータレートが高く、直接、速度計測ができます。そのため、目標移動予測性能が高く、衝突防止検知に向いています。さらに、検知距離が長いことや物質透過性があることなど、安全装置として必要不可欠な能力をもっています。ただし、人間も若干透過してしまうので人体検知に弱く、いろいろと工夫が必要です。
レーダセンサーは変復調技術、不要波抑圧、目標認識技術、目標追尾技術から構成されています。天候によっては自動ブレーキが作動しないという事象には、レーダの認知能力の高度化が必要ですが、それには、この4つの技術に加え、前方画像化処理、つまり電波の画像化が重要になります。
これらの技術は、自動運転用レーダだけなく、安全運転支援インフラレーダ、鉄道用安全、老人見守りシステム、不審者監視センサー、社会資本の高齢化対策、ビル棟梁検査、木造家屋シロアリ検査、災害時生存者対策など、いろいろな応用が可能だと考えられており、今後大きく発展する可能性を秘めています。

次世代電波センシングに向けて

ミリ波レーダは既に市販車にも採用されていますが、電波法の規制のため、携帯電話の100分の1となる0.01Wしか送信電力が出せません。レーダは距離の4乗に比例して減衰するため、目標対象物に反射して往復する間に受信する反射信号は、より小さなものとなります。さらに、センサー内部には反射信号の10,000倍も大きい雑音が発生します。このような超微弱信号の受信は、センサーの感度をただ上げるだけでは解決しません。
そこで考えられているのが、変復調方式を中心としたレーダ信号処理です。変復調方式とは、あるパターンの信号を送信しそれを拾う処理のことで、レーダの基本性能を決めるものです。現行、多くの安全支援車で採用している技術はFMCW(周波数変調連続波レーダ:Frequency Modulated Continuous Wave radar)方式です。FMCWは時間に比例して周波数を上げていく単純な方式です。送信波と受信波の周波数の差を計測することで往復時間の差を求め、目標までの距離と速度がわかるのです。さらに、周波数の差が狭帯域幅となるので、その分、内部雑音を小さく抑えることができ、遠距離でもほぼ確実に受信したい信号を確保できます。比較的簡単な原理で10,000倍も大きい内部雑音を排除できるため、現行の車載レーダに多く採用されています。

しかし、この方式は、対象となる目標物が複数ある場合には向いていません。目標物が1つの場合は、送信時と受信時の周波数が一致する交点が1つ定まり、速度と距離がわかります。ところが、目標物が2つになると、その交点が4つも出てしまうので、どれが本当の速度と距離のデータかがわからなくなります。そのため誤計測が起こり、システムの誤作動の危険性が高まってしまいます。これらを避けるために、現行レーダではいろいろと工夫をしていますが、抜本的な解決にはなっていません。
このため、現行方式のままでは安心・安全な自動運転が厳しいという議論が起こり、それに代わるいくつかの新しい方式が提案されています。代表的なものとして、欧州の次世代方式であるFast-FMCW方式、パルス圧縮方式があります。Fast-FMCW方式は、近日発売されるとされる初のレベル3の自動運転車に採用されようとしていますし、パルス圧縮方式は、後方監視用として一部の車に既に採用されています。

電通大独自の変復調方式

そして、電通大でも、独自方式として多周波ステップCPC方式を開発しています。この方式を利用することで、遠くにいる人物や、近くの電柱などの障害物を、これまでよりもスムーズに見分けることができます。また、これまでの車載レーダには搭載されていなかった、不要波抑圧処理、目標認識処理、多目標追尾技術といった高度な技術も備えています。
不要波抑圧技術とは、車両、歩行者、ガードレールなどがある場合、車両やガードレールとい静止物からの反射信号のみを小さくして、歩行者のみを検出するものです。現行方式では、反射点が多くて誤検知が発生しやすいため、感度を大きく落としています。そのために、人間も検知できなくなる問題が起こっていると思われます。不要波抑圧技術の搭載は、この問題を解決するための大きな力となるのです。 目標認識技術は、人の歩行運動の特徴、横切り車両の距離や速度の特徴などを示す波形のみを取り出すことで、カメラセンサーを使わずに人や車を判断するものです。検証実験では、簡単な例ですが、移動速度が同じような場合でも、人と車をほぼ99%の正答率で見分けることができました。

レーダを構成する技術の最後にあげた多目標追尾技術は、レーダ計測データの時間方向の相関性から航跡を得る技術です。これは瞬時のデータの単なる羅列ではなく、時間変化で得られる誤差を含んだレーダ計測データから、航跡を作ることで将来位置を予測するもので、自然道路交通車両を対象としたいくつかの検証実験に成功しています。
しかし、これらの技術はまだまだ処理量が大きく高速化のための開発や、実用化に向けた開発メーカーでの信頼性評価などに時間がかかるといった課題もあります。ただ、これらの技術は鉄道踏切監視装置など自動車用センサーにくらべ製造原価を高く設定できるシステム等にも応用可能であり、今後、研究を発展させたいところです。
レベル3の自動運転車は、近日発表されるとされています。レベル3になることで、これまでのレベル2での「運転者の運転をシステムが見守る」から「システムによる運転を運転者が見守る」という大きく技術的に進展した段階に入ります。
しかし、レベル4の車は環境によっては走行できないという限定的な制約が未解決であり、レベル5にいたっては実現までに相当の年数の研究開発が必要と考えられます。
レベル4、5に向けたセンサー開発では、その性能を「良い環境下で達成できる性能」ではなく「いろんな悪い環境でも補償できる性能」と規定し、悪条件への対応力を向上する研究・開発していくことが求められることになると思います。
完全運転自動車の実現は、期待していたよりもまだ遠いじゃないかとがっかりされた方もいるかもしれません。ですが、世界の研究や技術は日々進歩しています。今後、さらに高度化した安価なセンサーの開発によって、安心・安全な自動運転車の実現を楽しみにしましょう。

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