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国立大学法人 電気通信大学

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新たな世界を切り開け 電気通信大学が挑み続ける最先端技術の研究。
それはどんなコンセプトのもとに実践され、具体的にどんな取り組みがなされているのか、
キーパーソンに聞いた。

社会にひらかれた大学づくりでイノベーションを起こしていく。学長 福田喬

社会に根ざした
オープンな大学

 本学は「人類の持続的発展に貢献する知と技の創造と実践を目指します」という理念を掲げていますが、人類社会に貢献するには、大学が閉じた場であってはならないと考えています。そうした意識の下、2017年4月に共同研究施設「UECアライアンスセンター」を開設しました。この施設は、社会にどのような課題があるかを認識しながら、産業界と「協働・共創」するのが狙いです。

 100社以上に参画を募った結果、現在29の企業に、研究の場、オフィスの場として活用いただいています。おかげさまで用意した部屋は全て埋まり、数社に待っていただいている状態です。まだ29社全ての企業と共同研究が組まれているわけではありませんが、学生が企業の研究のお手伝いをするなどの事例も出て来ており、着実に効果が上がっていると思います。今後はより一層協働・共創に力を入れていくこととしています。

 昨年、文科省によって「大学における工学系教育の在り方に関する検討会」の中間まとめが行われ、そこでは「教育が閉じていてはならない」との指摘がありました。本学はそれに先んじて開かれたキャンパスを実践しており、時代に先行していると自負しています。

 また本学では企業の相談窓口を設けており、そこから共同研究がはじまることもあります。「脳科学ライフサポート研究センター」では、企業や病院と連携しながら義手を製作。今までの義手はその人だけしか使えない、カスタムメイドのものでした。そのためチューニングが大変でしたし、高価だったのです。そこで本センターでは、1つの義手でありながら、いろいろな人にマッチするものを生み出しました。5分ほど訓練すれば、脳からの微妙な筋電信号をキャッチして学習、その人に合ったように動く優れものです。すでに生産段階に進んでいて、近々発売される予定です。このように企業と協働し、社会に貢献する研究を進めているのも本学の特長です。

D.C.&I.戦略で世界をひらく

 電気通信大学は2017年度に「D.C.&I.戦略」を掲げました。DはDiversity、CはCommunication、IはInnovationを意味し、多元的な多様性と相互に触発し合うコミュニケーションを重視しながら新たなイノベーションを持続的に生み出そうというものです。

 「ロボット工学」「生体工学」「情報工学」「光科学」さらに「通信工学」「制御工学」など、本学では様々な領域において研究活動が活発で、これまでもDiversityを実践してきました。また「UECアライアンスセンター」や「先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター」のように、互いに高め合える施設を用意するなど、Communicationの促進も図っています。

 ですがあえてD.C.&I.戦略と銘打つことで、教員も学生も職員も、誰もが目指すべき方向を共有し、イノベーションをより加速していきたいのです。多様な領域に触れながら、教員や学生が価値意識を認め合い、相互理解を深めて触発しいく。それが本学の研究と教育の目指すところです。

 D.C.&I.戦略では、デザイン系やビジネス系などの大学との連携も視野に入れています。仮に優れたイノベーションを起こせたとしても、それを社会に受け入れてもらい、かつ持続的にマネジメントできなければ、機能していきません。人々に認知してもらう広い意味でのデザイン性、しっかり運用していくビジネス性といった資質も兼ね備えることで、今後起こすイノベーションを世の中に浸透させていくつもりです。

“強いAI”の開発を目指す

 今、AIの第4の波が来ています。これまでとは違い、ネットワークやデータがこれだけ充実しているので、その可能性に多くの人が期待を寄せています。本学も2016年7月に、国立大学として初となるAIに関する研究センターを開設しました。その名を「人工知能先端研究センター」といいます。すでに9社の企業に参画してもらい、ビックデータやディープラーニングをベースとして幅広い研究をしています。

 現段階では、コンピュータ囲碁や車の自動運転など、目的に特化した形でAIが脚光を浴びています。例えば自動運転であれば車がカメラで周辺状況を判断し、「障害物にぶつからない」という条件の下で制御信号を発出する、といった具合です。つまりある種のルール・条件を与えて、それに則った格好で最適な知能を作り上げているわけです。もちろんその分野では重要で発展していくでしょうが、それを他の分野に応用できないのが課題で、今はまだ “弱いAI”と言えます。

 そこで本学では単目的ではなく、汎用性のある“強いAI”を追い求めています。本学には約310名の専任教員がおり、そのうち50名ほどが“強いAI”の開発に向けて日々関連分野の研究に従事しています。そのリソースは日本の中でもトップクラスだと自負しています。

 また本学にはコンピュータ囲碁を研究しているグループがいて、「UEC杯コンピュータ囲碁大会」というコンピュータ囲碁の大会を開催していました。1位、2位になったコンピュータプログラムは日本棋院の本物の棋士と対局できるのですが、すでに棋士を凌駕するレベルに達しました。同院の理事長もコンピュータの強さを認めてくれていますが、「コンピュータ囲碁相手では感想戦ができないから面白くない」と言うのです。さらにあるAIは病気を診断してくれるものの、今後の生活におけるアドバイスや励ましの言葉などはくれません。そういうAIを果たして人間が頼れるか、そうした社会が幸せかと考えてしまいます。

 ですから電気通信大学では、“強いAI”だけでなく、私たちのしたいことを感知して寄り添ってくれるAI、人間が信頼できるAIを開発したいと考えています。そこで不可欠となるのが、言語化です。AIが考えていることを言語化できれば、境界を越えて応用できるばかりか、人間も他のAIもその考えを理解することができます。道のりはまだまだ遠いですが、たゆまぬ努力でそれを実現していくつもりです。

これからの100年に向けて

 電気通信大学は2018年で創立100周年を迎えます。その100年を祝い、さらなる100年を見越して掲げたのが「ひらけ、INNOVATION!」というスローガンです。「ひらけ」には「開く=新しい扉を開ける」「拓く=開拓する」「啓く=知識を啓発する」など、いろいろな意味が込められています。このスローガンの下、次の100年に向けて本学の立ち位置である情報理工学の分野から、新たなイノベーションを提案していきたいと考えています。

 また近年、世界における日本の研究力が相対的に低下して来ています。これは教員自ら研究資金を集める必要があるなど、研究に専念できない環境に置かれているのも大きく関係しているように感じます。ぜひ日本全体で卓越した研究開発、優れた人財育成ができるような態勢を考えていただきたいと思います。そして本学としてもその期待に応えられるよう、これからも努力・邁進していく所存です。