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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
阿部 研究室

光散乱分光法による物質の相転移のメカニズムの解明、
固体の融解現象の前駆現象の検出

所属 大学院情報理工学研究科
先進理工学専攻
メンバー 阿部 浩二 教授
所属学会 日本物理学会
研究室HP http://www.es.uec.ac.jp/faculty/abe-kouji/index.html
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掲載情報は2015年8月現在

阿部 浩二
Kohji ABE
キーワード

相転移、レーザー、光散乱分光、ラマン散乱、ブリルアン散乱、複屈折、蛍光スペクトル、強誘電性、超伝導、ワイドギャップ半導体

研究概要

光散乱分光法で物質の相転移現象の解明に取り組む

当研究室では、レーザー光散乱分光法を用いて、機能性素子の材料である誘電体、磁性体などの固体やコロイド、液晶などの液体の相転移現象(状態変化)のメカニズムの解明に関する研究を行っている。
相転移とは、物質の構造や特性がある温度・圧力で変化する現象のこと。あらゆる物質は、ある温度・圧力のもとで、気体─液体─固体間の状態変化である相転移を起こす。このように密度が変化する相転移のほかに、固体のままであっても原子の配列が変化するような相転移や、電気伝導度が突然変化して超伝導性が現れるなどの固相間の相転移もある。物質は相転移を起こすことによって新しい性質を持つことになる。
相転移を利用した実用的な材料では形状記憶合金がよく知られている。室温でグジャグジャに曲げた針金がお湯に浸けるともとの真直ぐな針金に戻る。つまりもとの形を記憶しているのです。このような相転移のメカニズムが解明できれば、相転移を自由自在にコントロールできるようになり、加工しやすく使いやすいなど、いろいろなこれまでになかった機能をもった材料を作り出すことが可能である。
研究テーマ「光散乱分光法による物質の相転移のメカニズムの解明」は、物質の構造や状態の変化を原子や分子のレベルから探り、物質の性質を導き出す起源をつきとめるのが目的である。

多くの実験的研究で新発見

ヘリウムフロータイプ光学用クライオスタット(6~300K)

圧電素子として、また各種デバイスの絶縁基板として重要な素材である水晶(SiO2)は、相転移のメカニズムは解明されたと考えられていたが、転移点近傍で強い散乱光が現れる起源に関してはいまだ説明がなされていない。当研究室では水晶の新しい相転移のモデルを提唱し、実証することを目的に、ラマン散乱、ブリルアン散乱、複屈折などの光学的測定をはじめ多くの実験的研究を行い、2次ラマン散乱の積分強度がランダウ理論からはずれ始める温度が、相転移温度よりも約30K(ケルビン)も高く始まっていることなどを新しく発見した。
さらに、量子常誘電体チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の量子効果による相転移抑制効果のメカニズムの研究を進めており、臨界領域での強誘電性の解明を目指している。

右図:透過率の波長依存性
左図:透過率、前方散乱と後方散乱の温度変化

最近の研究で、強誘電的相転移のメカニズムは変位型と秩序・無秩序型のクロスオーバーであり、特に臨界領域では、秩序・無秩序型が支配的であることを明らかにした。更に、SrTiO3の相転位は典型的な強誘電体とは異なり、強誘電的な領域が結晶全体に一様に発現するのではなく、ナノサイズの粒状の強誘電的領域(PNR)が成長し、電気分極の向きを揃えることで出現することを見出した。ナノスケールの分極同士の相互作用を考慮して発生する分極方向について考察した。この研究成果で「Europhysics Letters (EPL) 」のBest of 2011 Awardを受賞した。
このような粒状の分域は巨大誘電率の起源となると考えられており誘電材料として興味深い。この粒状の領域のサイズの温度変化を、Rayleigh-Mie散乱の特性である波長依存性と散乱角依存性を利用した測定をもとに研究している。

アドバンテージ

広範囲の温度領域での光散乱分光技術を持つ

SrTiO3の相転移モデル

当研究室が最も得意とするのは、誘電体、分子性結晶、液晶などの固体試料を対象とした広範囲の温度領域(6~1000K)の光散乱分光技術だ。最近、これらの実験装置に、光散乱では苦手とする不透明な物質や微粒子などの分光を可能とする顕微ラマン手法を導入した。こうしたさまざまな条件のもとで測定できる技術は、今後の研究の可能性を広げる。
分光技術についても、光散乱分光(ラマン散乱、ブリルアン散乱、Rayleigh-Mie散乱)などの散乱とともに、蛍光スペクトル、吸収スペクトルなどの、原子・分子がもつ電子状態に着目しているのが、当研究室の特色だ。

今後の展開

ナノスケールの薄膜・粒子の分光技術の開発を目指して

ピコ秒レーザーシステム(cw-Mode-Lock YAG)。緑色の光(532nm)と橙色の光(590nm)のパルス幅はそれぞれ約100ピコ秒と約10ピコ秒

大きな誘電率を示すリラクサーはナノサイズの微小な分域を持つことがその誘電率の起源ではないかと考えられている。産業面での応用として誘電材料の開発に興味を持たれている。一方、基礎研究では、SrTiO3のような強誘電相転移に見られるPNRは相転移の前駆現象と考えられ、ナノサイズのPNRの成長と配向が不均質な媒質での相転移のメカニズムに興味が持たれている。本研究室では、ナノ粒子の粒子サイズや形状の情報が得られるRayleigh- Mie散乱法と顕微ラマン分光を組み合わせて、不均質な媒質での相転移のメカニズムの解明を行っている。
また、大きな誘電率をもつ誘電体はキャパシターの有力な材料として産業界で注目されている。ナノスケールでの不均質な媒質で大きな誘電率をもつメカニズムと相転移温度の制御により、Pbフリーの誘電材料の開発を目指している。

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