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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
宮本 研究室

光の波としての性質(振幅・位相・偏光状態)の空間分布に関する
新現象の観測・創出・応用

所属 大学院情報理工学研究科
先進理工学専攻
メンバー 宮本 洋子 准教授
所属学会 日本物理学会、応用物理学会、OSA(米国光学会)、日本光学会
研究室HP http://www.qopt.es.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

宮本 洋子
Yoko MIYAMOTO
キーワード

ラゲールガウスビーム、LGビーム、光波、位相、偏光、振幅、回転、位相分布、光子、ホログラム、量子コンピュータ、量子力学、量子情報、量子通信、実時間3次元物体形状計測、リアルタイム3次元物体形状計測、縞画像、量子ビット

研究概要

ラゲールガウスビームの生成・計測・応用

現在、私たちの生活にはさまざまな光を使った通信・情報技術が使われている。例えば、光ファイバーでの高速インターネットをはじめ、レーザー光を使ってCDやDVDなどで情報を読み書きしている。しかし、一言で光と言ってもさまざまな利用方法があり、それぞれに適した形に変調されたり、ナノサイズにされたりして幅広く利用されている。
その数ある光の中でも非常にユニークで利用範囲の広いものとして、ラゲールガウス(LG)ビームがある。このLGビームは、レーザービームが「ひねり」を加えられて、回転しながら空間を伝わっていく光だ。

LGビームの特性

通常のビームは真ん中が明るくて、波面が平らな面になっているが、LGビームは中心が暗く、波面は螺旋階段のように回りながら進行方向に伸びていく形になる。伝搬方向に垂直な平面内を一周する間に、電場や磁場の変動がm周してちょうど元に戻る。このようにひねることで、整数mに対応した安定した渦を生み出すという特性をもつユニークな光なのだ。
このビームは、光が物体を透過する際に、回転を物体に移すことができる。回転を移す仕組みの1つは吸収であり、もう1つは物体の形状によって光の回転の大きさ(整数m)が変化する場合である。いずれの場合も入射した光と出射した光の回転の差分が物体に移るのだ。この特性を利用することで微小な光モーターを実現できる。

LGビームを量子情報通信に使う

また、量子計算や量子暗号と言われる量子情報処理にも応用できる。量子コンピュータにおける情報の最小単位の量子ビットは0と1およびその重ね合わせで表される。一方、LGビームの場合は安定な回転が整数mと対応するという特性を利用すると、0、+1、-1等およびその重ね合わせを表現でき、1つの光子でより多くの情報を伝達できる。
通常の量子ビットによる量子通信では、安定して通信できる場合にはいいが、ノイズの影響を受けた場合には後でそれを修正しなければならない。この修正を考慮に入れると、0、+1、-1のように3つぐらいの状態を使って情報をまとめて送った方がよいという提案がなされている。そのため、LGビームは量子情報通信の担い手として大きな注目を集めている。
当研究室では、このLGビームに関して、生成、正確な計測、さまざまな分野への応用を研究している。

アドバンテージ

2種類のホログラムによる光ビーム成形手法を臨機応変に使い分けられる

微細加工によるホログラム
光学系の調整

通常LGビームは、コンピュータホログラムによる光ビームの成形によって作り出している。具体的には、電子線によるポリマーの微細加工や液晶素子を使って位相変調パターンを実現し、それを透過させることで作成している。
当研究室では、ポリマー加工は、専門の業者に依頼して作成してもらわずに、ベンチャー創出につながる研究を行う、電気通信大学内部の施設SVBL(サテライト・ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)の半導体などを微細加工する設備機器を利用して、自前で行っている。具体的には、らせん状の位相構造を持つ、特殊な光波を発生させるコンピュータホログラムを、SVBLのクリーンルームで電子ビーム露光によって作成している。これにより、微妙な修正にも柔軟に対応することが可能だ。このタイプのビームを研究している機関で、自前でこれを行っているところはほとんど無く、大きなアドバンテージになっている。
最近では特別な設備を必要とせず、液晶素子を使ったホログラム装置とPCとを接続するだけで、簡単に同様の成形を行うことも可能となり、当研究室ではこの手法でもビームの成形ができる。
LGビームの位相は、必ずしもPC上でシミュレーションしたとおりになるとは限らない。その際、液晶素子を使った手法はPC上で簡単に修正できるというメリットがある。しかし、SVBLの半導体加工設備では画素数10000×10000の超高精度で加工が行えるのに対して、液晶素子の装置では多いものでも1000×2000くらいまでの画素数しか対応できない。このことから、研究内容に応じて2つの手法を臨機応変に使い分けて利用できることも、大きなメリットだ。

フーリエ変換法の応用技術

縞画像投影による起伏計測

もう1つの大きなアドバンテージは、電気通信大学の武田研究室で開発された「フーリエ変換法」という縞パターンから位相を精密に抽出する技術を持っていることだ。この手法を用いると、物体に投影した縞画像の歪みや干渉計で撮影した干渉縞から物体の形状や光の位相分布を取り出すことができる。当研究室ではこれを高速化した実時間(リアルタイム)3次元物体形状計測システムの開発も行っている。この方法をホログラムで発生させたビームに適用することで、ビームの位相がどれくらいきれいにできているかを調べることが可能となり、より精確な波面を作ることに役立てることが可能だ。
通常は、ビームを平らな波面を持つ光と干渉させたときに生じる枝分かれのある干渉縞を見ることでLGビームができたと考えることが多いが、当研究室では、縞画像からスタートして、それをフーリエ変換し必要な成分を取り出して逆変換することにより、ビームの位相分布を精密に求めている。このように正確な測定を行えることで、よりきれいな波面を成形できるようになる。きれいな波面を持つビームは明るさの分布も回転対称になり、物体に与える回転もなめらかである。整数mとの対応も明確になり、正確な情報伝達が可能となる。

今後の展開

位相を完璧にコントロールして、究極に美しいLGビームを作りたい

透明物体の形状測定

光の空間分布について研究する上で、位相は大きなカギを握る。この位相を完璧にコントロールできれば、よりきれいなLGビームも生成できる。究極に美しいLGビームで回転の大きいものを正確に作ることが、当研究室の夢だ。
特に今までは微細加工を使って辛抱強くポリマーを加工していかなければならなかったが、液晶素子のホログラム装置ができて、自由に位相分布が生成できるようになった。また、位相変調精度や画素数などもだんだんと良くなってきているので、今後はホログラムの成形だけではなく、その上で何をやるかに集中できるようになるだろう。これまでのLGビームに加えて、新しい機能を持った新しいタイプの光の生成や操作にも積極的にチャレンジしていきたい。
例えば、光波の振幅・位相に加えて、もう1つの自由度である偏光の空間分布の制御にも取り組んでみたい。偏光状態は光の振動方向の偏りであり、結晶のように方向性を持った材料や、加工中に物体に蓄積された歪みなどの特徴を調べるのに適している。
特殊な空間分布をもった光を作り出す素子は、特殊な空間分布をもった光の成分を選び出して検出するフィルターとしても使うことができる。特殊な空間分布をもつ照明光とフィルターを組み合わせて、物体の形や材質の特徴を効率よく調べる装置や、光の空間分布を活用した新しい情報処理の仕組みを作ってみたい。