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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
沈 研究室

高効率量子ドットを用いた太陽電池やLEDの開発とメカニズムの解明

所属 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻
メンバー 沈 青 教授
所属学会 応用物理学会、日本化学会、光化学協会、日本熱物性学会、日本分光学会、ナノ学会
研究室HP home 沈 青 研究室
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掲載情報は2023年4月現在

沈 青 SHEN Qing
キーワード

光エネルギー変換、高速過渡応答評価、太陽電池、半導体ナノ結晶、量子ドット、半導体ナノ構造、光励起キャリアダイナミクス、光電変換効率、LED、光触媒

太陽光のエネルギーを吸収し、電気的なエネルギー(電力)に変換する太陽電池は、環境問題とエネルギー問題を同時に解決する素子として期待されています。市販の太陽電池の大半を占める第1世代の結晶シリコン系太陽電池は、製造プロセスが高温、かつ複雑で大型設備が必要なほか、原料のシリコンも不足しているためにその高いコストがネックになっています。一方、塗布型で簡単に作製できる第2世代の薄膜系太陽電池は低コスト化が可能ですが、材料に欠陥が多いことから、エネルギー変換効率が20%以下と結晶シリコン系よりも低いことが普及の足かせになっています。

これらの課題を解決し、低コストと高効率を両立する多様な次世代太陽電池の研究が進められています。その中でも、沈青教授は変換効率30%以上が見込まれる量子ドット太陽電池やペロブスカイト太陽電池、さらにその両者を組み合わせたハイブリッド型太陽電池の研究を手がけています。

理論変換効率44%

沈教授のメインテーマである量子ドット太陽電池についてご紹介しましょう。量子ドットは数ナノ~数十ナノメートル(ナノは10億分の1)サイズの半導体結晶で、溶液法で簡単かつ低コストに作製できます(コロイド量子ドット)。量子ドットには、サイズを変えるだけで光吸収と発光領域を制御できる「量子サイズ効果」があることが知られています。
また、微細な量子ドットの特徴として、1個の光子の吸収から多数の電子が励起される多重励起子生成(MEG)現象があります。これを太陽電池に応用すると電流を増やせることから、シリコン系など大きい半導体結晶(バルク)材料を用いる従来の太陽電池では30%程度が限界だった理論変換効率を、量子ドット太陽電池ならば最大44%まで高められることが分かっています。

沈教授は半導体量子ドットや半導体ナノ構造薄膜などを作製し、太陽電池や発光ダイオード(LED)といったデバイスに応用するだけでなく、光計測によって基礎物性やメカニズムの解明までを目指しています。例えば、パルス幅が約100フェムト秒(フェムトは1000兆分の1)の高速レーザー分光装置を使って、太陽電池の内部で励起されたキャリアの挙動をピコ秒(ピコは1兆分の1)オーダーの非常に細かい時間分解能で観測するといった研究を手がけています。

低欠陥で高品質の膜を作製

具体的な成果として、沈教授は2017年に世界で初めて、発光の効率を示す発光量子収率がほぼ100%のコロイド量子ドットを作製することに成功しました。すでに論文が700回以上引用されるなど世界で注目されており、特許も取得しています。これは世界最高レベルの低欠陥、かつ高品質の量子ドットの新しい作製法を開発したことによるものです。
さらに、独自のレーザー分光法によるメカニズムの解明に向けた研究の一例として、量子ドットのMEG現象の初期の発生過程の観察も世界で初めて行いました。理論変換効率が約44%のMEG型量子ドット太陽電池を実現する上で重要な基礎データになるとして、メディアにも多数取り上げられました。特に、系統的な光励起キャリアダイナミックの評価に関する基礎研究の結果、「量子ドット太陽電池の変換効率の向上に向けては、量子ドット同士が接する界面での光励起キャリアの再結合が一番のボトルネックになることを解明した」(沈教授)そうです。

効率20%目指す

沈教授は2008年ごろに初めてコロイド量子ドット太陽電池デバイスを試作し、当時は1%ほどの変換効率しかありませんでしたが、その後の知見を踏まえて最近作製した硫化鉛の量子ドット太陽電池は、界面を制御することで硫化鉛量子ドット太陽電池として世界最高性能となる変換効率15.45%を達成しました。

界面の欠陥を減らす三つの新しい処理方法(パッシベーション方法)を開発し、それらの相乗効果によって光励起キャリア再結合による電荷損失を低減し、界面の光励起キャリア(電子と正孔)抽出時のバランスを改善しました。硫化鉛以外の材料では世界のトップデータが18%であり、沈教授はさらに基礎研究を進めて「変換効率20%を目指したい」と考えています。

太陽電池だけでなく、ペロブスカイト量子ドットを用いた鉛フリーのLEDの研究も始めました。従来の合成方法では発光量子収率の低かった青色の発光領域において、ダブルペロブスカイト量子ドットを合成し、ほぼ100%の発光量子収率を達成しています。さらに、赤色領域でもすでに70%を実現しており、今後、緑色領域の高効率合成に成功すれば、3色を混ぜることで次世代の光源やディスプレイに使える高効率の白色LEDが作製できると期待されます。

実用化に向け共同研究も活発に

電機メーカーや自動車メーカー、化学メーカーなど多くの民間企業との共同研究を推進してきたことも特筆すべき事柄でしょう。量子ドット太陽電池はそれだけ魅力的な市場であり、実用化が次第に現実味を帯びてきたこともその背景にあると考えられます。沈教授は国家プロジェクトにも参画しているほか、中国やスペイン、フランス、オーストラリア、オランダなど海外の大学とも連携しており、競争の激しい次世代太陽電池の研究分野において世界で大きな存在感を放っています。

【取材・文=藤木信穂】