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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
中川 研究室

極低温原子・量子縮退原子の物理およびその応用

所属 レーザー新世代研究センター
メンバー 中川 賢一 教授
所属学会 日本物理学会、応用物理学会、Optical Society of America、レーザー学会
研究室HP http://www.ils.uec.ac.jp/~naka_lab/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

中川 賢一
Kenichi NAKAGAWA
キーワード

極低温原子、BEC、ボース・アインシュタイン凝縮、原子光学、アトムチップ、レーザー冷却、原子干渉計、量子コンピュータ、周波数安定化レーザー、アセチレン光周波数標準

研究概要

原子のレーザー冷却

原子光学とは、光と同じように原子を扱うことを意味している。具体的にはレーザー冷却と呼ばれる方法を用いて原子にレーザー光を照射することにより、100μK(マイクロケルビン)以下に冷やされた極低温原子を作り出す。通常、原子は秒速数百m以上の速度で飛び回っているが、極低温原子の状態になると、その速度はほとんどゼロになる。この状態の原子は、光と同様に反射、集束、回折、干渉などが可能となり、量子力学的な波(物質波)としての性質が顕著に現れるようになる。この特性を利用して、さまざまな研究を行うことが原子光学なのである。

ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)の実現と応用

当研究室では、レーザー光と四重極子磁場を組み合わせた磁気光学トラップを使って、極低温原子を生成し、原子光学の研究を行っている。その1つが、ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)である。これは、原子温度を200nK(ナノケルビン)位まで下げると、隣り合う原子同士の波束が重なりはじめ、多くの原子の波束が全て同一になる現象を指す。この状態は、レーザー光のように個々の物質波が揃ってコヒーレントになり、粒子系全体が1つの波として振る舞う特性があることから、原子レーザーとも呼ばれている。
このBECは、1995年にコロラド大学において初めて実現し、電気通信大学においては、日本で4番目の、2001年12月に実現した。

アトムチップの研究開発

1円玉サイズのアトムチップ
装着したアトムチップ

BECを実現するための装置として、アトムチップ(集積化原子回路)があり、当研究室ではこの装置を研究開発している。このアトムチップは、シリコン基板上に微細電線パターンを作成し、そこに電流を流すと電線の周りに磁場が発生するため、これにさらなる外部から一様なバイアス磁場を加えることにより、電線近傍に原子を閉じ込める磁場ポテンシャルを作ることができる装置である。この装置を用いると、電子の代わりに極低温原子を基板上で操作することが可能となる。
これまで、BECを実現するためには大掛かりな実験装置が必要であったが、アトムチップを使うことで非常にコンパクトな装置で生成できる。また、微小な磁場ポテンシャルを用いることにより高い原子密度が得られるため、高効率かつ3〜10秒という高速でBEC原子を生成することが可能だ。
アトムチップを使うことでBECをさまざまなものに応用できるようになった。まず、原子導波路中の原子光学として、原子を電線に沿って伝搬できるので、経路を2つに分けて、それらの差異を使った干渉計を作ることができる。この原子干渉計は、地球の重力加速度計測やジャイロスコープにも応用できる。ジャイロスコープに関しては、レーザージャイロと同等以上の精度を実現している。
また、冷却原子を用いた量子デバイスを実現して量子コンピュータや量子暗号通信などの量子情報に利用することもできる。
他には、電子回路と同様の原子回路にも応用可能である。

レーザー装置の開発にも力を入れている

アドバンテージ

ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)の研究に不可欠な全方位のノウハウ

BECの研究を行うためには、物理はもちろん、装置を作るためのエレクトロニクスも知っていなければいけない。また、原子のレーザー冷却技術や超高真空環境を作る真空の技術など多くのことを知っていなければならない。つまり、学術から装置作りまで総合的な力が必要となる。当研究室では、BEC研究に適した全方向の知識とノウハウを持っている。

国際標準化への貢献

さらに中川は、国際標準化にも貢献している。光ファイバー通信における波長多重通信(WDM)の開発が進む中、光ファイバー通信帯における高精度な光周波数標準(波長標準)の国際標準化が求められていた。そこで、2000年に産業総合技術研究所と共同でアセチレン安定化レーザーを開発し、2001年に国際度量衡委員会においてアセチレン光周波数標準として国際標準化を達成した。
それを元に、アセチレン安定化レーザーの実用化に取り組み、2003年に企業との共同開発で、安定化レーザー装置を製品化し、現在このレーザーは国内外の標準研究機関や企業で使われている。このように、最先端の基礎研究だけではなくこれを応用した製品開発や国際標準化への貢献を行ってきたことも、当研究室の魅力の1つである。

今後の展開

BECの画期的な利用方法を見つけ出したい

BEC実験装置

基礎研究は長期的な視野に立って行うことが重要である。10年、20年と続けていけば、役に立つものが作れる。極低温原子は、原子時計の精度をさらに向上させるという新たな応用が見つかっているが、BECに関してはまだ決定的なものは生まれていない。そこで、BECでも画期的な利用方法を見つけたいと考えている。
科学は必ずなにかの役に立つ。それは必ずしも身近なものとは限らず、一見するとなぜ必要なのか?と思われても、我々の生活になくてはならないものもある。そのようなものを作ってみたい。
量子コンピュータに関しても、すぐに実現することは難しいかもしれないが、研究を進めることでいろいろな副産物が生まれてくる。そこから新しい概念が生まれ、それを応用してさらに新しいものが生み出される。つまり、世界がより大きく広がるのである。当研究室でも、それを期待して、さまざまな研究を進めていく。

BEC実験の陣頭指揮をとる中川
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